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「みたことがない大規模な詐欺」ナイジェリアのスタートアップのティンゴをSECが起訴

ナイジェリアのスタートアップで、ナスダック上場まで登りつめた農業スタートアップ・ティンゴ(Tingo)。6月に以下の記事で取り上げたあとの新展開です。

SECが「大規模な詐欺」と起訴、「見たことがない」とヒンデンブルグ、ティンゴは冤罪と主張

空売りヒンデンブルグが極めて明白な詐欺会社」「財務諸表を完全に捏造」というレポートを発表したあと調査を行っていたSEC(米証券取引委員会)が、創業者ドジー・ムモブオシ氏とティンゴグループ他2社を起訴しました。

ヒンデンブルグがレポートした詐欺と不正が、ほぼ確認できた模様。。。容疑は、インサイダー取引、監査法人への虚偽報告、内部統制違反など多岐に渡っており、SECは「大規模な詐欺」であり、その規模は「驚異的」であるとしています。

調査のきっかけを作ったヒンデンブルグは、上場企業の不正や詐欺をレポートして空売りで稼ぐ企業ですが、そのヒンデンブルグをもって「見たことがない詐欺(never seen anything like)」「普通(decent)の詐欺は経営陣がいくつか大きな嘘をつく程度」のところ、会社まるごと詐欺で不正というのは彼らの経験からも驚きであると、SECの起訴を受けてコメントしています。

そして、さらに驚きは、こんな状況にもかかわらず創業者ムモブオシ氏はまったく認めておらず、「根拠がない」「揺るぎない決意で戦う」と、冤罪だと主張していることです。

凡人には想像を超える強さです。そもそも、不正と詐欺の内容も超弩級であり、これをやりとげたメンタルの強さは、すでに想像を超えています。ここまで嘘に嘘を重ね、堂々と上場申請までできる人は、そうはいません。大物です。

ティンゴの詐欺と不正のうち、私がもっとも驚いたのは、ティンゴ・エアライン事件。「航空会社を立ち上げた」と写真をアップしたが、もちろん嘘。指摘を受けて「コロナのせいでキックオフが遅れただけ」と強弁したという話です。

数々の詐欺と不正に比べれば、実害はない嘘ですが、航空会社立ち上げなんて、ばれるに決まっています。

SECは、こうやって詐欺、不正、架空取引により得た資金は、ムモブオシ氏が個人的な散財に使ったとしています。プライベートジェットや高級車などです。

いっとき時価総額10億ドルだった同社の銀行口座には、50ドルしかなかったそうです。

ちなみに、ムモブオシ氏は、ヒンデンブルグがレポートを出したあとの6月にも「弁護士事務所を雇って反論する」としてその後反論を掲載しましたが、弁護士事務所など第三者の評価もなく、反論の根拠も示されていないものでした。

なぜ大規模な詐欺と不正が見逃されたのか

ティンゴについては、「ほんとうに事業をやっているのか」という疑いの声は、ナイジェリア国内で以前からありました。スタートアップや農業関係者のほとんど誰もが知らない会社・事業だったからです。それなのに、なぜ投資家は投資し、上場までできてしまったのか。

ヒンデンブルグは、デロイトのイスラエル事務所が監査承認を行ったことが人々が信じる根拠となったとしています。ナイジェリアの企業がイスラエルの事務所に監査依頼を行った理由は解明されていません。

デロイトはフィナンシャル・タイムズ紙の取材に対し「専門家としてクライアントの問題についてコメントすることは禁じられている」としてコメントを拒否しました。

ムモブオシ氏は、ロンドンに居住しており、ロンドンで投資家や有力者とのネットワークを広げたようです。英国の現内務大臣であるジェームズ・クレバリー氏のいとこであり、企業法務の弁護士であるクリス・クレバリー氏が、ティンゴの社長・取締役に就任しています。

有力者が推し有力者が投資していることから信頼が積み重ねられ、美人投票によって投資家や提携先が増えていったものと思われます。VISAもティンゴと提携を発表していました。

たぶん、ロンドンなどの投資家の人たちは、ナイジェリアの農業や商流についての知識も薄く、「小規模農家にアプリ」「ミドルマンを排して収入向上」「農家に携帯と融資を」といった魅力的なワードにも惑わされたのでしょう。

アグリテックには、あやういスタートアップがときどき見られます。投資家や企業はだいたい、農村や地方に疎いですから、わりとすぐに信じてしまいます。

ティンゴが事業地としていたのが、ナイジェリアの中部や北部だったことも詐欺に気づきにくかった理由でしょう。これらの地域は、国際的なセキュリティー会社や各国政府によって治安が悪く行ってはいけない場所とされていますから、投資家や関係者は現場に足を運ばなかったのではないでしょうか。

現場にいけば、詐欺はすぐにわかりますからね。いや、それでも「信じたい」という目でみていれば、気づかなかったかもしれません。

前回の記事でも書きましたが、正直なところ、この手の詐欺や不正そのものは(こんな規模でやる人はいませんが)、「ありがち」と思っている自分がいます。

先日も、前回の記事でティンゴを擁護していたナイジェリアの全国農業組合AFANにコネクションがあるナイジェリア人と日本で縁ができたとして、ナイジェリアで農機ビジネスをやりたいという人に会いましたが、98%の確率で詐欺か、詐欺とまで言わなくてもこの日本人の人が想像しているビジネスとは遠いものです。こういう話がごろごろしています。

それでもやはり、ここまでの詐欺をやり遂げ、上場を果たし、不正が発覚しても冤罪と言い張るたムモブオシ氏をみて、人間というものの多様さ奥深さに驚く自分がいます。どういう背景があり、なにが大規模な詐欺へのトリガーだったのか。

また、専門家と呼ばれる人やSECまでもが騙されてしまうその認知の動きも、人間の興味深いバグです。ナイジェリア人の手で映画にしてほしいですね。ナイジェリア映画へ投資しているNetflix、どうでしょうか。

最近のアフリカのスタートアップへの逆風について、まとめています。


アフリカやナイジェリアの事業環境について、農業ビジネスにおいて理解しなければならないことなどについて、日々情報を提供しています。


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