アフリカの日系スタートアップ、注目すべき7社(上)
アフリカで個人が事業を立ち上げようと奮闘する動きが活発になったのは、10年ほど前。「BOPビジネス」や「ビジネスで社会課題が解決できる」という考えが広まったことが大きな契機だったと思います。
どこの国でも新しく立ち上げた企業が5年、10年と生き残るのは大変ですが、スタートアップならなおさら、アフリカならなおさら。2024年現在、生き残り、さらに累計1億円以上を調達したスタートアップ7社をご紹介します。
弊社が作成した「アフリカビジネスに関わる日本企業リスト(2024年・最新版)」からの引用です。このリストには、日本人が個人で立ち上げた企業として100社以上を掲載しています。
今回は1億円以上の調達企業を取り上げましたが、1億円未満の調達を達成した企業、立ち上げられたばかりの企業も複数掲載されていますので、どんなスタートアップがどの国でどんな事業を行っているのか、確かめてみてください。
アフリカの日系スタートアップ7選
次の7社が、累計1億円以上の調達を達成しています。累計調達額の高い順番にとりあげていきます。以下の表は「日本企業リスト」からの抜粋です。
1. WASSHA-ユニークなビジネスモデルをアフリカ5カ国で展開するソーラー電力テック。IPOを目指す
2013年創業のアフリカの日系スタートアップの老舗企業。非電化地域でソーラーランタンをキヨスク(パパママショップ)を通じてレンタルする事業を、タンザニアをはじめとするアフリカ5カ国で展開しています。
電気のない地域にソーラーや電気機器を提供するスタートアップは、アフリカでは何百と無数にあるのですが、レンタルする、パパママショップを組み込む、ランタン(電灯)のみを提供というのは珍しく、まったく同じ事業を行っているスタートアップはないのではないでしょうか。ユニークなビジネスモデルを作り上げ、磨いてきました。
最初はケニアで事業を開始したものの、ケニアでは所有したい人が多くレンタルがフィットしなかったとタンザニアへ拠点を移したのも面白いです。持ち物を見せびらかしたい国と、そうでない国もあり、電気という同じ課題を抱えていても、人々のニーズは一様ではありません。
そして、電気というのは不思議なもので、あることが前提となっている日本からみると「電気がない」なんてどれだけ不便だろうと思いますが、ないならないなりの生活というのができるものです。もっというと、非電化地域の人たちは、「それほど電気がほしいと思っていない」です。Nice to have(あったらいいな)という位置づけです。ただし、ピンポイントに必要性があって、そこを突いているのがWASSHAのビジネスモデルの優れたところだと思います。
公開情報によると、スタートの地タンザニアでは、200人くらいの現地社員がいるのでしょうか。ウガンダ、コンゴ民、モザンビーク、ナイジェリアと広げ、いまはこの5カ国でその国のスタッフがマネージャーとして事業を率いており、アフリカのリーダーを育てています。WASSHAのランタンを扱う現地パパママショップ数も、6,000店舗程度まで伸びています。
同社はIPOの準備を進めており、実現すれば、アフリカの日系スタートアップの上場によるエグジット、第一号となります。これまで丸紅、ダイキン工業、ヤマハ発動機等が出資し、2022年のシリーズCラウンドで11.4億円を調達しました。累計調達額は約35億円です。
2. Degas-ガーナでアグリテックの本丸である農協DXを行う。最近は気候変動に注力
Degasはガーナでアグリテックを展開しています。アフリカのアグリテックには精密農業などディープテックっぽいスタートアップも多く存在します。ただし課題の大きさでいうと、小規模農家の栽培方法を底上げし、一定の品質でトレーサブルな農産物を一定量供給できるようにすることが、スタートアップにとって一番の事業のしどころとなります。Degasが行っているのはこの事業です。
日本では、農協がやっているようなことですね。そのとおりで、アフリカにも農協は地域や作物ごとに必ず存在しているのですが、資金不足や売り先不足、アナログな管理方法などが原因で、成果があげられていないことが多いです。Degasは、ガーナで主食となる穀物(ソルガム)の農家に、種子や肥料を収穫物払いで提供し、農業指導員が日々営農指導し、一定の品質のものを買い取り、倉庫に保管し、現地の大企業に販売しています。
アフリカの小規模農家は、前回の収穫で得た収入を次の種付けまで持たせられないことが多く、種子や肥料の提供といったスタート地点を支援しないと、品質向上、収穫増加、収入増加といったグッドサイクルが回りません。Degasは栽培から販売までのすべてを自社プラットフォームに記録するため、収穫払いの貸倒も減少し、作物の品質確保とトレースもできます。2023年には、ガーナで菓子など向けの油脂原料としてシアナッツを調達している不二製油と業務提携しました。
最近は、気候変動へと軸足を移しつつあります。2018年創業。2023年9.7億円を調達し、累計調達額は22億円となりました。その後2024年に双日が出資しています。
3. Hakki Africa-日本からの輸出が多い中古車向けにファイナンス。GPS/IOT/モバイルマネーが進んだケニアならでは
ケニアで、配車アプリで使う中古車向けのファイナンスを提供しています。ケニアでは、もう10年前となる2015年からUberがサービスを開始しており、いまでは配車アプリは外国人や富裕な人だけのものではなくなりました。家族で移動するときなどは、人数ベースで交通費を払うバスよりも、1台あたりで払う配車アプリの方が安くなる場合もありますからね。
ケニアの配車アプリでは、副業でなく専業でドライバーをやっている人がほとんどで、多くの人は自分の車でなく借りた車を使っています。逆にいうと、お金に余裕のある人にとっては余剰資金で車を買って貸し出すことは投資ともなります。こうやって投資することで儲けたい人がいるというのが、アフリカで配車アプリが普及した背景のひとつかと思います。
ただしドライバーからすると、配車アプリにコミッションを払い、燃料費を自前で持ち、さらに車のレンタル料まで払うと取り分は少なく、いつまでたってもお金が貯まりません。どうせレンタル料を払うなら、自動車融資を受けてその返済料として払えば、払い終わったときには自分のものになり、取り分は大幅にアップします。こう考えるドライバーに、自動車融資を提供しているのがHakki Africaです。
先にとりあげたWASSHAが、ケニアでのレンタル事業をやめた理由と同じどうせなら自分のものにしたいという思いが、Hakki Africaにおいてはニーズとなっています。裏返しで面白いですね。
実はケニアでは、10年ほど前から自動車融資自体は非常に普及しています。理由はただ一つ、GPS/SIMカードを車にとりつけ、走行情報を集約するサービスが取り入れられるようになったからです。
自動車融資の貸し手である金融機関は、融資した車両がいまどこにいるのかをリアルタイムで把握でき、返済が滞ったときには遠隔でエンジンの稼働を止めることができます。IoTですね。貸し手はたとえ返済が滞っても、その車両を遠隔で止めて位置情報で把握した場所にでかけて回収し、オークションで売れば返済額に充てられるため、融資のリスクが激減しました。この走行情報がわかるGPS/通信システムは、盗難時にも役立つため、私も自分の車にとりつけています。
なので、商業銀行をはじめとする金融機関も自動車融資を出しているのですが、その審査基準は厳しく、融資条件も厳しいです。Hakki Africaは、独自に形成したクレジットスコアリングとモバイルマネーを通じた返済自動記帳を武器に、商業銀行やマイクロファイナンスよりも早く、安い利子で融資を提供しています。
よく知られているように、ケニアなど東アフリカの中古車の多くは、同じ右ハンドルの日本から輸入されているので、日本の中古車輸出との相性もよいはずです。2021年には中古車輸出のSBTが出資しています。
創業は2019年で、コロナ渦で事業を伸ばしてきました。2023年にシリーズBラウンドで19.1億円を調達し、これまで累計21.8億円を調達しています。2024年にはケニアでUberと競合する配車アプリBoltと提携し、Boltのドライバーへ特別融資の提供を開始しました。
長くなりすぎました。(下)に続きます。
日系だけでなく、アフリカで事業を行うスタートアップについての包括的な情報をまとめた「アフリカスタートアップ白書」も発行しています。2012年からの10年間に渡ってアフリカスタートアップへの投資案件をすべて記録したデータベースを元に作成しています。