ショート)「殻」は実質、未成年

『今日はムスメちゃんとショッピング👗
ムスメちゃんとアイス🍨暑い、今でしょ!
ワイルドだろー💖
Saturday.21/9/2013』

「アイツそっくりな顔、超ムカつく」

昼下がり、起きぬけの静香はSNSに嘘を書き込み
ぬいぐるみで遊ぶ
娘の陽菜が視界に入るだけで気分が滅入った

静香はクッションに携帯電話を投げつけると
陽菜の背後から右足で蹴り上げた
「コイツがいるから
あたし、友樹と結婚できないじゃん
てか、アンタは何で生まれてきたのよ」

一度、蹴り上げると静香の衝動は止まらなかった
陽菜は小さな声で唸り、床にうつ伏せになるが
全く抵抗しなかった

「アイツが避妊してくれなかったし
こんなガキ、あたしに押しつけてさ」

うつ伏せのまま抵抗しない
陽菜の柔らかな茶色の髪を静香は鷲掴みにすると
陽菜の両頬を力任せに叩いた

「全部、アンタのせい」

それでも陽菜は抵抗しない
虚ろでつぶらな目は、どこを見る訳でもなく
静香の暴力が止むのを待った

「あたしは何も悪くない」
静香の感情は、毎日、陽菜を傷めつけると治る

陽菜は無戸籍児で、本来なら小学2年生
しかし、字の読み書きや計算がまるで出来ない
静香も陽菜へ教える気がない

静香に学はない
なので、収入は出会いのあるサイトへ登録し
そこでサクラをして小遣い稼ぎか、寄ってくる
年配の男から金銭を巻き上げるしかなかった

◎◎

2021.05.21

陽菜は自分の生年月日を知らない
学校に通ってなかった陽菜は、母・静香に
勧められるまま、静香と同じ「職」に就いた

陽菜の身分を証明するものがないので
客だった外国人に
偽造の運転免許証を作成してもらい
それを使いながら生活していた

陽菜は実質、未成年だ
しかし免許証は20歳と「証明」してある

儚げな雰囲気と幼い顔立ちや言動の陽菜は
風俗店で働くと、たちまちNo.1となり
暮らしに不自由することがなくなった

静香と別居し
社宅として与えられた賃貸マンションで
生活する陽菜は、学がなくともスマホが使え
ネットゲームにハマると簡単に言語も覚えていく

陽菜は静香を見て育ったので、彼はつくらない
穏やかな一日が過ごせただけで満足していた
だが、次第に陽菜は自分のルーツや
今、自分が生きている意味を考えるようになった

表参道にいる、制服を着て歩く少女達と
自分は何が違うのだろう

陽菜は考えれば考える程、訳が分からぬまま
身体から力が抜けてゆき、頭痛や眩暈に悩み
静香に叩き付けられた幼い頃の記憶が蘇る
仕事へ向かうことが困難となった

2021.07.10

陽菜は病いと流行りの疫病で生活苦に陥るが
生活保護の申請など
社会的な知識がなく、知る由もなかった
静香は男と入籍し、陽菜は縁を切られていた

動かない身体、働かない脳、見えない明日
助けを求めて行く場所を知らず
助けを求めて呼ぶ友や大人がいなかった

陽菜はクローゼットにショルダーバッグの紐を
絡ませ、そこへ首を入れ、体重を掛けた
陽菜の脳内に、思い残すものさえなかった

外はいつもに増して強い雨が窓を叩く
陽菜はこれで、終わった

ガチャポンから中身を出すと
殻は無造作に捨てられる、記憶の片隅にもない
「親ガチャ」 親は中身で、殻は子なのか
陽菜の生涯も存在がなかったようなものだった