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Q. 時間をかけたくないんだけど?

 A. 何かの技術を修得するには必ず時間がかかる
 

「先生、語学が上達するのに必要なものはなんでしょうか」
 
「それは二つ、お金と時間」(千野栄一『外国語上達法』岩波新書、1986年、38頁)
 
『外国語上達法』は日本のチェコ語学を築いた言語学者の手による本だ。出版以来かなりの時間がたっているが、今でも読み継がれる名著である。千野先生のおっしゃる通り、外国語学習には資金と時間が必要だ(今回は資金の話は置いておく)。世の中には「~カ月であっという間に」「学校/留学に行かずに楽々」という内容を売りにした教育プログラムもあるが、これには懐疑的にならざるを得ない。

どんな技術であっても、習得には時間がかかる。

部活でも仕事でも、上達するまでには時間がかかるのが当たり前ではないだろうか?バスケでも書道でも経理処理でも、何か身につけている技能がある人ならば、それを「3か月で」「楽々」習得するというのがどれほど眉唾物か感じられるのではないだろうか?
 
時間のかけ方は重要だ。よく誤解されているが、外国語は何時間も詰め込みで勉強すればいいというものではない。週末に3時間まとめて学ぶよりも、週6日、毎日30分勉強した方が確実に身につく。人間の記憶には短期記憶(例:今日の朝ごはんの献立)と長期記憶(小学生の時の思い出)がある。3時間の学習でどれだけ記憶したと思っても、この段階ではまだ短期記憶にしかなっていない。その後6日間のうちには忘れられてしまう。これが「やったはずなのに」の正体だ。エビングハウスの忘却曲線に従えば、翌日には半分は忘れてしまっている(ただし無意味な情報の羅列を覚えるわけではないので、実際にはもっと残っているだろうが)。

毎日勉強することによって、記憶は徐々に短期記憶から長期記憶へと移行されていく。「継続は力なり」は嘘ではない。中学校・高校でほぼ毎日英語の授業があるからこそ、大人になっても多少は英語の知識が残っている。
 
そうはいってもその30分を確保するのが難しい、という場合もあるだろう。こうなると時間術の話になるが、提案としては①勉強を始める障壁を可能な限り減らしておくこと、②習慣化を考えること、③いつでも勉強できる方法を考えることだ。
 
①についていえば、「さて今すぐ勉強しよう」となったときに何分で始められるかを考えてみてほしい。机の上を片付け、教科書と辞書を探し、ノートを開き、筆記用具を取り出し、CDプレーヤー(絶滅危惧種という噂もあるが)の準備をし、お茶を淹れ…とやっているようでは、成功は覚束ない。取り掛かるまでの障壁が低ければ低いほど、面倒にならずに勉強を始められる。使いにくい家電がしまい込まれるのと同じ理屈だ。

一言でいえば、「秒で始めろ」ということだ。
 
②については世の中にハウツー本が溢れている。それは逆にいえばいかに習慣化が難しいかということの証拠だが、いったん習慣化できてしまえばこれほど心強いものもない。スマホを触ることが「習慣化」されている人ならば、スマホ時間をすべて勉強に充てたらどうなるか想像してみればいい。
 
③習慣化ともつながるが、何かの時間を確保するには、毎日の予定を立てる際に最初からその行動の時間を引いて考えるようにする。仕事や学校以外での持ち時間が5時間あって、外国語学習に2時間充てるなら、持ち時間は3時間だとして他の予定を計算する。こうして大事な予定から先に入れるのは、外国語学習に限らず有効な考え方なので覚えておいてほしい。日常生活の中でふと出現する隙間時間を考えてみよう。例えば料理の最中に煮えるのを待っている時間、通勤電車の車内や寝る前のベッドの中での時間だ。たとえ細切れの時間でも勉強はできる。MP3プレーヤーやスマホで音声教材を聴く、スマホに学習アプリを入れる、覚えていない単語を記したメモ帳を見直す、外国語のサイトを読む、とできることはたくさん考えられる。①と重なることだが、これもスッとできるようにしておかなければならない。隙間時間はすぐに去ってしまうのだから。
 
 
結論:学習には時間をかけろ。


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