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今年もまた憧れの、桜の季節が来る。

私にとって春は大好きな季節。
花粉症じゃないから全然辛くないし、誕生日も来る。

でも、思い出したいような、胸にしまっておきたいような。
淡い思い出。桜みたいに儚い記憶が蘇る季節。

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白い桜を見て、一緒に不思議がって笑い合った彼は今どこで何をしているだろうか。
彼と初めて見た春以降、白い桜なんて毎年そこら中に咲いていて、不思議に思うことなんて一度もなかった。それくらい、当たり前に咲いていた。

だけど、当時の私たちには白い桜が新鮮だった。
目に映るもの全てが、新鮮だった。


4つ上のバイト先の先輩。
それまで年上なんて好きになったことはなかったし、同級生がただの子供にしか見えていなかった私には彼といる時間が何よりもわくわくした。

21時までしかシフトに入れない私と、夜勤で22時から働く先輩。
先輩のシフトまで休憩所で喋る約1時間が何よりの楽しみだった。
話したことは本当に他愛もないことだったけれど、「大学」「サークル」「お酒」「ドライブ」… 私にとっては全部新鮮だった。

大学生の自由さに憧れを抱いた。
高校という檻に閉じ込められていた私に知らない世界を沢山教えてくれた。

彼は出勤前にベランダで一服してから店舗へ向かう。
制服姿の私の隣でタバコを咥える彼の横顔を、鮮明に覚えている。
タバコの匂いは好きじゃないけど、彼の横顔をずっと見ていたかった。


春。私の誕生日。
付き合ってもいないのに、一緒に過ごしてくれることになった。
彼のお家でカレーを作ることにした。

買い出しの帰り。彼の自転車の後ろに乗りながら、桜並木を通った。
ピンクの桜が舞う中に一本、白い桜の木があった。

「ねえねえ!白い桜あるよ!」私は1本だけ生える白い桜を見て、興奮気味だった。
彼も笑って「本当だ!」と写真を撮り始めた。

春の気候にも慣れて、桜の木なんてそこら中どこにでもあるのに、並木道にたった一本生える白い桜に私たちはワクワクしていた。


その日はいつの間にか泊まることになっていた。同じベッドで、隣で寝た。
気付いたら彼の顔が上にあって、「初めて?」と聞かれた。すごく顔が近かった。ドキドキした。
私は頷くと、「そっか。」と言って彼の顔は上からいなくなっていて、そのまま寝てしまった。

翌朝は普段通りだった。でもそれ以降、私たちの関係は悪くなっていったと思う。あまり話さなくなった。バイト先に新しく大学生の女の子が入ってきて彼はその子と仲良くなっていったし、それだけでなく彼より年上のお姉さんバイトの人と親密になっていた。

私が高校生なのが悪いのかと自分を責めた。早く大学生になりたいと思った。彼と距離を置いた。


気がつけば半年くらい経っていて、彼はお姉さんバイトの方と付き合うことになった。ちょうど同じタイミングで私も学校に好きな人ができて、その人と付き合うことになった。

これでいいんだ。これでよかったんだ。そう自分に言い聞かせた。

彼氏といる時間は楽しかったし、大学受験を控えバイトにも入らなくなったから、先輩のことも次第に気にかけることは無くなった。


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そしてまた、春になった。
私は大学も無事決まり、先輩は大学卒業を迎えた。

3月末にはバイト先の送別会を行うことになった。
「先輩と仲良かったし、手紙任せてもいいかな?」幹事の人に言われた。
仲良く見えてたんだ、ちょっとだけ嬉しかった。

送別会の日。人前に立つことに慣れていなかったから、先輩に宛てた手紙を読むのに少し緊張。でもどうしてもちゃんと送りたかった。

「高校生の私に知らない世界を教えてくれてありがとう。大好きでした。」

手紙の最後をこう綴った。あまり重くならないように、明るく清々しい声で伝えた。

会もお開きになりそうな時、彼から呼び出された。
貸切のお店の中にある個室スペースに2人きりだった。

最初は少し気まずかったから、私たちは他愛もない話をした。休憩所のあの頃のような空気感を噛み締めた。本当に本当に懐かしかった。
そして、次第に彼は自分が伝えたいことを話し始めた。実際、今となっては何を言われたか覚えていない。
だけど最後に

「大好きだった。」

彼は明るくて、でも真剣な眼差しで、そう私に伝えてくれた。
私たちの恋はこれで終わった。

送別会の帰り道、街頭に照らされた白い桜の木を見つけた。
光が相まってあの頃より綺麗だったのは確かなのに、なんだか切ない気持ちになった。


今の私は、当時の彼とほぼ同じ歳になった。彼が言っていたほど大学生活はキラキラしていなかったし、果たしてこれが本当に人生の夏休みなのかと疑う部分は無くない。

好きな人が眩しかったんだろう。好きな人は輝いて見える。
それに気付いた時、恋の魔法というものを知った。


大学生への憧れを持たせてくれてありがとう。大好きでした。




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