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風の歌を聴け 村上春樹 講談社文庫

オススメ度:⭐️⭐️⭐️⭐️ ※4星評価

4星の理由:この一冊からはじまった。それだけで十分。しかも舞台が…。僕の故郷だ。

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物語

1970年の8月8日に
始まり、18日後、つまり同じ年の8月26日に終わる。   P18

帰省した海辺の街でのひとときの話、としかいいようがない。(*´∇`*)

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赤線ポイント

「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。」 P1

「1」の章は村上さん自身が、この文章を書くためにこの一冊を書き上げた、といぐらいに思い入れがある。

うまくいけばずっと先に、何年か何十年か先に、救済された自分を発見することができるかもしれない、と。そしてその時、象は平原に還り僕はより美しい言葉で世界を語り始めるだろう。  P9

村上さんは当時、29歳。千駄ヶ谷で「ピーター・キャット」というジャズ喫茶を営んでいて、はじめて投稿した小説『風の歌を聴け』で、講談社の主催する「群像新人文学賞」を受賞。

けっしてはやいデビューではない。でもいまではノーベル文学賞候補。美しい言葉で世界を語っている。

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読む時間帯のおすすめ

夕暮れの港。穏やかな波止場ならなおGOOD!。

夜中のラジオを流しながら。ビールを片手に。紙タバコを吸いながら🚬1970年代に想いを馳せる。

個人的には雨の夜中が好きだ。LPで音楽に浸り、酒とタバコをふかす。今日か明日かがわからないような時間。

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読む前に

まず、この物語はA→Dという具合に流れてはいない。順序は意図的に入れ替えられている。かつ、AとDは描かれていない。

だから、これまでの小説のように順序を気にして読むと戸惑うかもしれない。

2つ目は、それぞれの登場人物が何かの役割を持っているが、詳細には語られない。暗喩も多く、しかも、それを知ることは難しい。

だから、何が正しいことか、何を言いたいことか、と考えながら読むと混乱するかもしれない。

だからまずは、物語や文体に浸って欲しい。ここから村上春樹作品がはじまったのだ。

そう思うだけで僕は胸を締め付けられる。

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最後に

この物語を読むたびに、僕は空白の時間を意識せざるを得ない。この物語は1970年代だ。携帯などなく、待ち合わせはバーで行う。

来るのか、来ないのか確認のしようがない。ただビールを飲み、いつ来るかわからない待ち人を待つ。

これまで繋がっていた糸が突然切れることが日常だった。

有無を言わせない暴力的に宇宙に放り出され、彷徨う。眼下には地球が確かにある。でも、その世界とは別の場所にいる。繋がっているのか、いないのか、答えはない。そんな風な日常。それが1970年代。

2020年は、無意識に空白を埋める作業をせっせとしてしまう。携帯だって日常にある。つまり、空白を楽しむ余裕はない。

でもだからと言って、それを繋がっているとは言えないんじゃないかな、と思う。

この物語にはそんな、つながりに惑いながら、空白を受け入れている人達が溢れている。

指を失った女。ONとOFFを繰り返すラジオDJ。何度も置き電話をかける離婚した女。もちろん、「僕」もだ。

…とはいえ、ここにはビールやタバコ。音楽や軽妙な会話が溢れている。この世界を外から眺めるより、一緒にまどろむことのほうがいろんなことが感じられると思う。

なぜなら、この物語はまだ開幕戦だからだ。

1978年4月1日、明治神宮野球場で行われたプロ野球開幕戦、ヤクルトスワローズ対広島東洋カープ戦を観戦していた村上は、試合中に突然小説を書くことを思い立つ。(風の歌を聴けwikipediaより抜粋)

この物語はまさに開幕戦だ。だから僕はずっと村上春樹作品を求め続けている。きっといつか、もっと深く理解できる日が来ることを信じて。

そして、なにを思ってこれを語らせなければならなかったのか。↓↓

僕は・君たちが・好きだ。 P149

71歳(2020年現在)。村上春樹さん。末永くお元気でいてください。

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