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〈実は教員になるつもりがない教育実習生〉に対する高校教員の本音

学生は教育実習を行う前に、大学側から次のような注意をされることがある。

「教員になるつもりがないとしても、実習先ではそれを隠し、もし聞かれたら教員になるつもりですと言うようにしてください」

わたしもかつてそう伝えられた。
ふーん、まあそうか、と思ったものである。



なお、教員になるつもりがない教育実習生は、実のところたくさんいる。

そもそも制度上は、教育実習の条件として教員採用試験の受験が定められているわけではないため、教員になるつもりがない実習生がいてもまったく問題はない。

いざというときの保険として、もしくは履歴書の枠を埋めて箔を付けるための要素として、とりあえず教員免許だけ取得しておきたいという動機から、教育実習を行うことも十分あり得るのだ。



また、現場で働く教員たちは、もちろんそういった内情を心得ている。

自分たちもかつては実習生だったので、大学側からおなじようなことを伝えられたはずだし、教員になるつもりはないけれど教員免許のみ取得したという同期も周囲にいたはずだ。

しかし、感情的には、やはり本気で教員を志している実習生のほうが指導のしがいはあるし、教員を志していない実習生には徒労感が募ってしまいがちだろう。

実習生が来ると新鮮な風は吹くものの、楽になるはずもなく、むしろ日々の業務に指導が組み込まれるので忙しくなる。

授業がへたっぴで、大事な試験範囲を扱っているのに困ってしまうようなレベルであることがほとんどだし、そもそも知識が足りず、生徒である高校生たちと大差ないことも珍しくない。

毎日放課後になると模擬授業を見てアドバイスしたり、実習ノートを確認したりコメントを書き込んだり、さらにクラスや部活のこともサポートしたり、あれやこれやと時間を費やす。

それでも実習生が本気で教員を志しているのであれば、かつての自分と重ね合わせながら、いくらでも向き合えるかもしれない。

そのため現場の教員たちは実習生に対して、きっと教員になるつもりだと思って接するように心がけているし、もし、何らかのきっかけで教員になるつもりがないと発覚すると、どうしても気持ちが萎えてしまうのだ。

職員室でひそひそと「実習生の〇〇さんは教員になるつもりがないらしいよ」「そうか、まあ仕方ないけど疲れるね」「忙しいなかで指導するこっちの身にもなってほしいよ」などという会話が交わされてしまうことも想定される。

いくら制度上に問題がなくても、いくら内情を心得ていても、人間の感情を考えれば、こういった流れが生まれることは当然である。

だからわたしはそういった教員を否定するつもりはない。



ただ、実をいうとわたしは、教員になるつもりがない学生でも、教育実習を行うことに大きな意義があると思っている。



理由は簡単だ。

教育実習で得る経験は貴重な学びだから。

ただそれだけのことである。



実習生は早起きをして何週間も毎日学校へ行き、生徒たちと関わり、おそらく大きな壁にぶつかっていく。

最終日に感動の涙を流すほど充実感を味わい、やはり教員になろうと再確認したり、教員になるつもりはなかったけれど教員もいいかもしれないと選択肢を広げたりする学生もいる。

一方、生徒の憎たらしさや業務の過酷さを思い知り、こんなにしんどい仕事は絶対にやりたくない、教員になどなってたまるかと、反対の意味で決意を固める学生もいる。

どちらにせよ教育実習をしなければ知り得ないものであり、それらはすべて実体験による貴重な学びであることに他ならない。



わたしは都立の中学校で教育実習を行った。

教員になりたいと思ったそのときから勤務先は高校以外考えていなかったが、だからこそ、実習先が中学校に決まったときはとても嬉しかった。

また、特別支援学校(小学生の自閉スペクトラム症と知的障害のクラスを担当した)や介護体験など、他の実習も行った。

先ほどと同様に、特別支援学校の教員免許や介護士の資格を取得する予定はなかったが、だからこそ、実習ができて本当によかったと思っている。



いずれの実習においても、驚いたことやうまくいかなかったことや悩んだことなどは当然あったし、精神的にも肉体的にも疲れ切った。

しかし未熟だった学生時代のわたしにとって、両手におさまらないほどの貴重な学びを得ることができた。

いまもはっきりと記憶に刻まれている。
本当に濃密な期間だった。



そのためわたしは教育実習を行う学生に対して、教員になるつもりがあるかどうか、あまり気にしたことはない。

制度上は問題がないのだから、教員になるつもりなどなくてもいい。
とにかく多くの貴重な学びを得てほしい。
きっと今後の人生において、忘れられない経験となるはずだ。


ただ、これはあくまでもわたしの考えであり、一般的なものではない。

先述のとおり、指導にあたる教員にとって、教員になるつもりがない実習生を快く思わない風潮があるという現状は、マナーのひとつとして踏まえておいたほうがいいだろう。

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