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冬の本

 去年の5月頃だろうか。
 僕は、夏葉社から出版されている「冬の本」を買った。84人の執筆者によるそれぞれの冬と本にまつわるエッセイ集。和田誠さんの装丁も素敵だ。

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 でも、この本は冬に読もうと思って取っておいた。これから夏に向かう季節よりも、透明な冬の空気を吸いながら読みたいと思ったから。
 そして今年最初の一冊に僕はこの本を選んだ。冬と本という同じテーマなのに、一つ一つの作品に違った手触りがあって、とても味わい深い本だ。
 われらが古書ソムリエの山本善行氏も執筆者の一人である。そうか善行さんは志賀直哉の「暗夜行路」を選ばれたかと一人ほくそ笑む。

 僕にとっての「冬の本」はなんだろう。

 僕は雪深い地方に生まれ育ったので、冬の思い出と言えば、一面の雪景色だ。夜に降り始めた雪はしんしんと降り続き、温かい家の中にいても、窓の近くにいくと外の冷気が感じられ、暗い夜空から真っ白い雪が激しく舞い落ちてくるのが見える。
 朝起きると外は見渡す限りの雪景色。昨日まであった家々の屋根や道路や枯れ草の色が全て消え、白一色の世界に生まれ変わっていた。
 そんな白い世界を僕はランドセルを背負って、小学校へと向かう。
 僕の小学校は戦前に建てられた古い木造校舎で、廊下は板張り、教室のドアも木製だった。
 そして、教室の暖房は大きな石油ストーブが一つ。そのストーブから教室の天井にこれまた大きな煙突が繋がっていたような記憶がある。
 冬の教室は暖かだが、廊下はひどく冷えていた。僕はそんな廊下を歩き、雪が吹き溜まった渡り廊下を渡り、毎日図書室に行くのが昼休みの楽しみだった。
 そこで読んでいたのは、椋鳩十の動物ものシリーズ。狼や熊が主役の物語だった。
 ネットで検索してみると「片耳の大鹿」「孤島の野犬」などたくさんのタイトルが並んでいるが、僕が読んでいたのがどの本だったのかタイトルもストーリーもほとんど覚えていないので分からない。
 ただ、椋鳩十という名前は、寒い冬の暖かな図書室の空気とともに僕の記憶の中に、確かに刻まれている。

 
 

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