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遅読のススメ~本を楽しく味わい尽くすために~

 書店の自己啓発本コーナーをぶらつくと、速読のノウハウ本がけっこう平積みされている。世の中には、そんなに本を早く読みたい人が多いのかなと、ちょっと違和感を覚える。

 僕は本をできるだけ遅く読みたい。

 もちろん僕も、仕事上どうしても読まないといけない本や内容のエッセンスだけ知っておくべき本は、目次と序文、あとがきだけじっくり読んで、あとはパラ読みで済ませることはある。

 でも、これは読書ではない。

 単に必要な情報を効率的に得ているだけだ。

 僕はどんな本でも、自分が興味を持ち、読みたいと思った本は、じっくりと時間をかけて読む。だから、なかなか読み終わらない。でも、それでいいと思う。

 書店に行くたびに、お気に入りのブログを読むたびに、新聞を読むたびに、読みたい本はどんどん増え、僕の読みたい本リストはどんどん膨張していく。

 一冊、一冊じっくり読んでいたらとても読み切れない。でも、それらの本を速読しようとは思わない。

 僕は、たいてい5冊くらいの本を同時に読んでいる。例えば、朝起きて、頭がすっきりしているときに哲学の本を読む。通勤電車の中では文庫本の小説を、お昼休みには詩集を、家に帰ってからは、疲れていなければ単行本の小説やエッセイを、疲れているときには、ジャズを聴きながら「ステレオサウンド」や「趣味の文具箱」など、お気に入りの雑誌を眺める、といった感じだ。

 だから僕の通勤鞄の中にはたいてい2~3冊の文庫本が入っている。

 それぞれの本をじっくりと数ページから10数ページ読む。なかなか前に進まないが、それでも少しずつ読み進めれば、必ず読み終わるときはくる。

 そんな遅読が僕のスタイルだ。

 昔は1冊の本を読み始めると、その本だけを読み終わるまで読んでいた。でも今はそんなに根気が続かない。年を取ったということでしょうか?

 その日の気分で読みたい本が変わるので、意地を張らずに、その気分に合わせて、読みたい本を読むことにしている。

 そんな読書は、けっこう楽しい。読みたい本を数冊同時並行で読むことで、飽きないし、あれもこれも早く読みたいというストレスが溜まらない。

 読みながら気になった文章には付箋を貼り、哲学書や新書などは、一章読み終わるごとに、大きめの付箋にその章の要約や感想を簡単に書いて貼っておく。そうすると後で、気になった個所を探すときや拾い読みをするのに便利だ。そういう形での速読は僕もしている。

 そして、本当に気に入った文章は手帳に写して持ち歩いている。名文を書き写すことで文章の訓練にもなるし、その手帳を空き時間でパラパラと読み返すのも楽しい。

 気に入った文章が手軽に何回も味わえるのでお勧めですよ。

 最後に最近、気に入ってずっと読み返している文章を紹介したい。

 今年の4月14日付け朝日新聞に掲載された絵本作家、五味太郎さんの言葉だ。

(コロナウイルスによって急な休校となり、大人も子どもも心が不安定になっているという問いに対して)

「それじゃ、逆に聞くけど、コロナの前は安定してた?居心地は良かった?・・・、こういう時、いつも「早く元に戻ればいい」って言われがちだけど、じゃあその元は本当に充実してたの?と問うてみたい。」

「戦後ずーっと「じょうぶな体」がいいと言われてきた。それはつまり、働かされちゃう体。「かしこい頭」っていうのは、うまく世の中と付き合いすぎちゃう頭できりがないし、いざというときに弱いからね。今こそ、自分で考える頭と敏感で時折きちんとサボる体が必要だと思う。」

「心っていう漢字ってバラバラしてていいと思わない?先人の感性はキュートだな。心は乱れて当たり前。常に揺れ動いて変わる。不安定だからこそよく考える。もっと言えば、不安とか不安定こそが生きてるってことじゃないかな。」


 ああっ、本当に癒される言葉やわ。

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