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努力は10年後に実る(らしい)

今やっている努力って、一体いつ実るのだろう?
と、途方もない考えを毎日巡らせているが、その答えを1つ得たお仕事が最近あったので記録をしておこうと思う。

私は今はイラストが主な活動だけれど、元々はファッションの大学出身でアパレルのデザイナーだった。「ファッションデザイナー」を夢見始めたのは小学校の頃。卒業文集でも将来なりたい職業は「ファッションデザイナー」と書いていた記憶がある。なぜデザイナーを目指したのか?と聞かれたら、恐らく「当時知っている職業で一番格好よかったから」な気がする、今考えると。
実際に服もファッションも好きだった。なにせ私が小学生の頃は、かの有名なナルミヤインターナショナルやべティーズブルーなど90年代キッズファッション全盛期。私はべティーズブルーが大好きで、母と姉を連れてラフォーレ原宿のお店に行ったことを今でも鮮明に覚えている。もっと幼い、幼稚園の頃から絵を描いたり何かを作るのが好きだった私が、小学生でその夢を持つのも自然なことだったと思う。

さらに中学生の頃に雑誌「Zipper」やそこで連載されていた「Paradise kiss」という矢沢あい先生の超有名漫画など、溢れんばかりの2000年代のファッションパワーを全身に受け、幼少期からの夢を叶えるべくファッションの大学に入学した。

ファッションの大学って何するの?ということに関しては、結構面白いのでまた別の機会に書きたいなと思いながら、私はそこで4年間全力疾走した。いわゆる一般的な大学生というと、通常の授業だけでなく、サークルで仲間と楽しんだり飲み会があったり…なのだと思うが、服飾学生は違かった。とにかく課題の山。毎日課題がある。そのせいで週末も課題をやる。遊んでいた記憶はほぼない。
それをこなすだけでも大変なのに、なぜか私は友人経由でファッションサークル2つに所属し、加えて東京コレクションブランドでもインターンをしていた。今思うとあの体力はどこから来ていたのだろう…。さすが若者である。

ある日そのインターン先のデザイナーさんから「スケッチブック」を作らないか?と言われた。ファッションで言う「スケッチブック」は、1つのコレクションをゼロから作るための自分のメモ書き、アイディアノートのようなもので、そこにテーマやテーマから連想する写真やイラスト、布見本、服のアイディアなど様々なイメージを組み込み、最終的に洋服のコレクションのデザイン画を描く…と言うものである。このデザイン画を描くときに「ファッションドローイング」と呼ばれる描き方をする。
(この時実際に作ったものは実家にあるので、また実家に帰った時に写真を追加しようと思う)。

そのデザイナーさんはイギリスのファッション学校を卒業しており、教えてもらったファッションドローイングの方法も、私が通っていた学校で習っていたものとはずいぶん違かった。私はそのデザイナーさんが教えてくれるドローイングスタイルがとても好きだった。端的に言うと格好いいのである。教えてもらいながらその海外式ドローイングを一生懸命練習した。

課題もこなしながら、サークルやインターンをやるという無謀な日々。この努力(というか無茶)が、まさかの10年後に実ることになるのである。


2023年6月都内某所にて、かの有名なクチュールメゾンの顧客様限定イベントでファッションドローイングを描くことになったのだ。

これはびっくりだ。かなりびっくりだ。
イベントの企画を担当している会社の方からご連絡を頂いたのだが(大変失礼ながら)頂いたメールの署名にある会社HPを見たり代表の方を調べたり、全く私は信じていなかった。なぜ私に…?
かなりの疑念を抱きつつも、誠意あるご連絡のやり取りを頂き、まずは1回顔合わせをすることになった。そしてやっとその疑念が晴れたのである(申し訳ない)。

私にお声がけいただいた経緯を伺うと、まさかの今年3月に友人と行った「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ展」で見たラフシモンズのドレスのイラストをInstagramで見て、とのことだった。

え?!まさかのそのまさかが…?!
全てのあの日の出来事に私は手を合わせて感謝した。そんなことがあるのか。しかもファッション学生だった頃に最も好きだったデザイナー、ラフシモンズ。そのラフのドレスのイラスト…。顔合わせをしながらも私は半ば泣きそうになっていた。

無事に顔合わせも終わったが、この時点ではまだお仕事自体は決定しておらず、この後スケジュールの最終確認と、実際にどのようなファッションドローイングが描けるかのモックアップを追加で数枚提出した。その後1週間ほどで無事に快諾いただき、6月に行われる7日間のイベントに参加が決まった。決まったのだ、本当に。

それからと言うもの、7日間連続、しかも休憩はあるものの10:00-20:00までの長丁場のイベントに怯え、体力のない私は朝の散歩や筋トレをし、粛々と本番に備えていった。とにかく怯えていた。

そして、あっという間に7日間の怒涛の日々は嵐のように過ぎ去った。

新しい人、新しい場所、そして顧客様との会話。スタッフさんも顧客様も優しく接してくださり、私は本当に夢見心地だった。憧れのブランドの本国パリのスタッフさんにもお会いでき、様々な人とドローイングを通して交流できたことは、今まで細々と絵を描くことを続けてきたご褒美だなぁと感じた。
何より、10年前にファッション学生だった私の、あの時の出会いや自分なりの努力、運や縁がなければこんなお仕事はできなかっただろうと思うと、曲がりなりにも真剣にファッションを勉強していてよかった…と心から過去の自分や周りの環境に感謝した。よく頑張っていたよ!こんなご褒美を貰えるんだからそのまま頑張っていていいんだよ!と大きな声であの頃の自分に伝えたい。間違っていなかったよ、その頑張り、と。

そんなこんなで、私の初夏の大イベントが終わった。
もしかしたらこれが私のイラスト人生の頂点なのかなぁとぼんやり思った帰り道だけれど、このイベントで出会った方々にとてもポジティブな言葉をたくさん頂いたから、もう少し続けろと言うことなのかなとも感じた。私自身は描いているところを見られるのがかなり苦手ではあるのだが、その場で描いてお渡しして…というこのライブ感がクセになった。例え絵のデータがどこかへ行ってしまったとしても、共有していたあの時間は確かにそこにあったから、私はそれでいいと思う。それがいいのだと思う。

またライブペイントやドローイングイベントが出来たらいいなと思いながらも、慣れない環境での1週間の疲れを抱え、また家でひとり黙々と作業をする日々に戻ってゆく。夢だったのかなとたまに思い出すが、カメラロールにはちゃんと写真が残っていて、ふっと安心するのだった。

今頑張っていることが、この先どこでどうなるのかなんて、誰にもわからない。けれど、10年後になにかご褒美があるかもという希望も忘れたくない、と思えた出来事。


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