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呪いのワラ人形(ショートショート)


カチ…コチ…カチ…コチ………

時計の秒針の動く音が聞こえる。
それ以外は黒。暗闇しかない。
私は今、暗い家の、暗い部屋の、さらに暗い引き出しの中にいる。
ここでは時計の音と、「持ち主」の足音以外の情報は、なにも得られない。

カチ…コチ…カチ…コチ………


カチャ・・・トン…トン…トン…


足音だ。私の持ち主がやってきのだ。


私のいる引き出しが、ス~~っと開かれる。
持つ主はいつも通り、白装束を着て、手には五寸釘とロウソク、そして木槌。どうやら準備は万端らしい。

持ち主のニンゲンは、私を鷲掴みにし、固く握りしめたまま、家の戸を開け、真っ暗な外へと踏み出した。今から神社に向かうのだ。


・・・今日もまた、儀式が始まる。


そして真夜中の午前二時、丑の刻。

日中でも人の少ないこの神社は今、ただただ静かだ。
儀式を邪魔する者など、まず現れないだろう。

持ち主はロウソクに火をつけて自分の頭に括り付け、私を御神木に押し付ける。そして私の胸に釘をあてがい、木槌を構えて・・・

カンッ!  カンッ!  カンッ!


心からの恨みを込めて、人前では口にできないような言葉を吐き出しながら、私の胸に釘を打つ。この7日間、同じことを飽きることもなく続けているが、怨嗟の言葉は尽きない。


「アイツめ…!よくも…!よくも…!呪ってやる…呪ってやる!」

・・・カンッ!・・・カンッ!・・・カンッ!


「仕返しだ…!仕返ししてやる!仕返し!仕返し!仕返しぃ!」

・・・カンッ!・・・カンッ!・・・カンッ!


・・・・・7日分の呪いの言葉が、ワラで編まれたこの身にじわりと染みこんでいく。私はこのヒトの手で、このヒトの呪いを達成するために作られたのだ。あぁ・・・・ワラの芯まで、夜の色に染まりそうだ。

・・・カンッ!・・・カンッ!・・・カンッ!

・・・カンッ!・・・・・カンッ!!

・・・・・・・・・・・

ひときわ強く釘を打ち込んだ後、突然静かになる。そして、


「クククク…アハハハハハハハハ!!! アハアハハハハハ!!!」

・・・耳をつんざく笑い声。どうやら儀式は終わったらしい。

それから持ち主は私の顔を覗き込むように、ぬうっと近づき、ニッタリとした表情を浮かべた。口元は頬まで裂けそうなほどに広がり、目元は歪み、瞳はロウソクの炎と周囲の闇が混って不気味な光を放っている。

「さぁ、儀式は成功だ。ワタシの呪いを、今晩の内にしっかりと届けるんだ。ここから見えるあの一番高い屋根の家が目印だよ。そこに住んでるヤツに呪いを届けるんだ。それがお前のやるべきこと。ワタシはそのために、わざわざお前を作ったのだからね。」

持ち主はその家の方を指さしながらそう言うと、私に背を向け、私を木に打ち付けたまま去っていってしまった・・・。

その背中が夜の闇に溶けてしまうのを見届けてから、私は動き出した。
胸に深く打ち込まれた釘をなんとか引き抜き、ぼてっと地面に落ちる。


・・・・私にはやるべきことがある。「仕返し」だ。それを達成せねば。
胸の穴を手で覆いながら立ち上がり、私は歩き出した。


(仕返し・・・仕返しだ・・・仕返しをしないと・・・)

目的の場所までは相当な距離がある。
夜の間に目的地にたどり着けるだろうか。
きちんと事をなせるだろうか。
そんなことを考えながら、小さな歩幅で歩みを重ねる。


道中、つまずいて転んだり、

側溝に落ちたり、

野犬に襲われたり・・・


散々な道のりであったが、”一番高い屋根の家”まで、なんとかたどり着いた。

たどり着くまでずいぶん時間がかかってしまった。急がねば。

私は雨どいのパイプにしがみつき、上に向かって登りだした。

ずるッ・・・ドサッ!

ずるッ・・・ドサッ!

何度もパイプから手を滑らせ、何度も地面に落っこちながら、
少しずつ、着実に上を目指す。


もうどれくらい経ったか。体中のワラがすっかり汚れてしまった。
しかし、そんなことは構わない。私が果たすべきことに比べたら。


時間をかけ、なんとか家の屋根まで上ると・・・






「あぁ…!綺麗だ!!」


ちょうど夜が明け、朝日がのぼった。
今までは引き出しの中と夜の神社、それらの暗闇しか知らなった私には、その朝日はとてつもなく美しく見えた。
心地よい風が体を吹き抜け、そのまま浮かび上がりそうな感覚になる。

私は満面の笑みで


「どうだい、持ち主さま」


「これが、私の仕返しだ😁」


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