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 始解 監禁
 卍解 心中
 瞬歩 SM

 わたくしが二次創作のBLを書く段階を形容してみた。
 ご期待された方は申し訳ない。ブリーチジャンルには手を出していない。
 用語がわからない方にも申し訳ない。
 Amazon規約に触れてしまう可能性排除のため、フィーリングを駆使していただきたい。
 今回は卍解だ。カプは修行僧×寺。
「金閣寺」(三島由紀夫)である。

 ……あっ。
 いきなり重要なことにがついた。
 寺には性別がない。
「金閣寺」はBLではない!
 まさか。そんな。いや。そうだ……。
 受が建築物だとBLではない……。
 だが、それでもBLとして読ませる――。
 なんという三島由紀夫の筆力!
 すばらしい! これは紹介せねば!

 生来の吃音に悩む溝口。
 福井県の貧しい寺に生まれた彼に、父は日々こう教えた。
「金閣ほど美しいものは此世にない」
 成長した彼は、京都鹿苑寺(金閣寺)の修行僧となるも、吃音から生まれた孤独感は年々増してゆき。
 自身の醜さと対称するように、金閣寺の美を愛し。
 美に焼かれるように、愛しい金閣寺に火を放つ。
 禁断の愛を描いた恋愛小説である。

 あらすじに異物混入? 言いがかりはよしていただこう。ただの卍解だ。
 とかく、心中もの。それも無理心中ものは、やる方(何をかはおわかりと思う)が、己の妄想が肥大し。
 やられる方(同じく)を、本来の姿や感情とかけ離れた存在に思い込んでいく過程が美味なところ。
 金閣寺はその過程を、じっっくり丁寧に描写してくれている。
 福井の田舎にいる段階から、徐々に徐々に……、じわじわと……、溝口のコンプレックスをこじらせていく過程が描かれている。
 吃音をからかう同級生たちをまぶしく見つめながら、先輩の短剣に傷をつけるシーンなど……。これはもうマジでキスシーン。キスマークじゃないか! キスマークってこんなにイイモンなの!? ヤバくね!?
 
 ……あの……、ちゃんと説明するので……、怯えないでくれませんか……?
 真面目にエピソードを1つ紹介する。
 近所に住む有為子という美しい娘を、肉欲にまかせて夜道で待ち伏せする溝口だが……。
 待って、これはちゃんと作中にあるヤツだから。怖がらないで。待って、逃げないで。
 有為子の自転車の前に飛び出すも、溝口は何も言葉を発せられない。
 何も言えない溝口を有為子はあざ笑い、自転車で走り去る。そして保護者に告げ口をする。
 どう考えても当たり前の反応。いや、痴漢に襲われた女性として勇気ある反応だ。
 しかし、溝口は

 寝ても覚めても、私は有為子の死をねがった。私の恥の立会人が、消え去ってくれることをねがった。

 そういうことを真剣にねがってるのが恥なんだよおおおおッ!
 冷静に客観的に自分を見ろエゴイスト!
 お前、他人の目を気にするフリしてるけど、他人の感情一ミリも考えねえのな!
 全部自分の脳内で完結するのな!
 それで他者への羨望と妬みを募らせていくのな!
 イイぞ! まさに痴情のもつれで無理心中を図る男だ! 最高のカップリングの香りがするぜえ!
 続きはこうだ!
 
 私は有為子のおもかげ、暁闇のなかで水のように光って、私の口をじっと見つめていた彼女の目の背後に、他人の世界――つまり、われわれを決して一人にしておかず、進んでわれわれの共犯となり証人となる他人の世界――を見たのである。

 卍解!!

 いやいや、落ち着いてわたくし。まだメインヒロインにたどり着いてないでしょ。まだサイコしてないでしょ。二次BLはサイコたれでしょ。いや、三島先生ご本人が書いてるんだから公式じゃね? いやいや、わたくしは三島由紀夫じゃないから! 自衛隊にぶっこんで切腹とかしてないから!

 失礼。斬魄刀が騒ぐので、有為子の話はさくっとまとめる。
 溝口は以降、女を好ましく感じれば全員有為子に見えるようになり。
 全員に拒絶される感覚を覚える。
 溝口はそれを己の吃音を元とした、「外の世界からの拒絶」ととらえ。
 思考は闇に落ちていく。

 あったまってきたようだな。そろそろメインヒロインにご登場いただこう。
 ご注目ください! ミス・金閣寺! なんと足利義満のご令嬢! チャームポイントは屋根の鳳凰です!

 お待ちください! わたくしめは正気でございます!
 確かに先ほどからBLBLと申し上げているのに、突然金閣寺を「ヒロイン」「ミス」などと言い出したのは混乱を招くと存じますが!
 なにせ金閣寺は建築物でございますので、性別など自由自在。否、性別を超越した存在でございまして。もうBLでも嘘じゃないよねって。
 決して表記ブレでもわたくしの頭のネジのブレでもございません! どうかお逃げくださいますな! 
「性別を超越した存在」であることも、溝口の求めし愛の理由なのでございます!
 どうか! どうか!

 2千人くらいの逃げ去る背中が見えたが……、あなたは残ってくださったのか……。礼を言う……(ホコリを払いながら)。
「金閣ほど美しいものは此世にない」
 溝口は目に映る美しいものすべてを、「金閣のように美しい」と感じるまでに焦がれる。
 しかし、初めて本物の金閣寺を見たとき、溝口は落胆する。

 それは古い黒ずんだ小っぽけな三階建にすぎなかった。

 子どものころから憧れていた女優に会ったら、業務スーパーのロゴ入りエコバッグを提げたババアだった。
 そこまで聞かない話ではない。
 瞬間的にはかなり凹むが、3年後ぐらいには居酒屋で鉄板ネタにする。たいていはそうやって折り合いをつける。
 だが、溝口は折り合いをつけられなかった。
 いや、折り合いをつけられないほどに、孤独を深めていってしまったのだ。
 金閣寺(鹿苑寺)の修行僧となった溝口。
 吃音を元にした「外の世界」の拒絶は続く。
「醜い」彼を追い詰めていく。
 これはわたくしの推測だが、溝口の吃音は、心因性のものではないだろうか。
 とっさに迷いなく返答した際、するするとしゃべっているシーンもあるし。
 読経も問題なくこなしている。
 何より、鶴川という友人ができたときの会話だ。
 同級生の少年鶴川に、なぜ自分の吃音をからかわないのか? と訪ねる溝口。
 鶴川はこう答える「だって僕、そんなことはちっとも気にならない性質なんだよ」
 このことで、溝口は鶴川を「美」のカテゴリに入れ、自分とは違う生き物と認識するが――。
 どうもわたくしには、鶴川はそのようなすごい存在ではなく、ごく普通の学生としか思えないのだ。
 上記の回答はせいぜい「別に聞き取るのに困らないよ」ぐらいの意味しかないのではなかろうか。他人をいじめないことも、人間として当然のことでしかない。
 溝口はこのような、ごく普通の人間と自身の間に、大きな隔たりを感じすぎている。
 そのストレスが、吃音という症状となって現れているのではないだろうか。
 ごく普通の人間を皆、「美」か「有為子」というまぶしいものに感じる。
 醜い自分は近づけない。
 だが、「美」も「有為子」もことごとく完全ではない。
 不完全であることは、溝口にとって裏切りでなのだ。
 唯一の完全なる「美」普遍の「美」
「美」は金閣寺のみとなる。
 よって
 卍解!
 心中である。溝口本人は生きているので、厳密な日本語では心中ではない。
 だが心中萌腐女子としてはパーフェクト心中だ。
 ガチ死より社会的死の方を描く方が高度な(何がかはおわかりかと)卍解なのである。
 愛する者が完全すぎて、その完全性の重みに耐えかね、溝口は火を放つ。
 ラストの


 一ト仕事を終えて一服している人がよくそう思うように、生きようと私は思った。


 この一文に、愛という重荷を下ろした男の姿が見える。
 はあ……、イイ……公式が卍解……。
 すまない……、わたくしはもう少しエロにたゆたう……。
 卍解小説「金閣寺」いかが?

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