世界一周で出会った人たち#7「スペイン」
10月5日から7日まで、スペインに滞在した。
マドリード市内のアトーチャ駅近くのホテルに宿泊したのは、バルセロナへ電車で向かう際にこの駅が便利だということを知っていたから。
駅から5分ほどのホテルまでの間には、幾つもの飲食点やお店があり、食べるのにも困らないエリアだった。
スペインで出会った人たちを一人に絞るのは難しい。みんな同じくらい親切で、優しい人たちが多い国だな、と思ったくらいだ。
スーツケースをもう一つ買おうか、と立ち寄ったお店の女性店員の人も、
マドリード市内であまりにも暑くて立ち寄った、可愛らしいアイスクリーム店の中年女性スタッフの人も、はたまたガウデイの作品の一つ、「カサ・パトリョ」の2階にあるレストランで注文を取りに来てくれた30代くらいの女性も、女性は皆さん親切で優しかった。
では、男性は?と言うと、飲食店で働いているのは中年男性が多いのが目立った。
たまたまかもしれないが、飲食店で働く中年男性たちはバリバリと仕事をしているが、少し怖い雰囲気があった。
バルセロナで、パエリアが美味しいというお店に行ったのだが、「一人か?」と聞かれ、「そう」と答えると「一人には多すぎる」と言われ、諦めかけたら「でも何とかする」と言ってくれて、店内に案内してくれたが、あまり笑顔はなかった。ただ、テキパキと仕事をしているし、おそらく店長として若いスタッフにも目配りをしている、プロだな、と思わせる男性だった。
実はこの男性をモデルにして、小説を書いたのだが、只今選考中なので公開はできないが、印象には残っている。
では、一番印象に残っている人は?と聞かれたら、今まで良い思い出ばかりを書いてきたが、ここではスペインのネガテイブな面に触れるしかない。
私が、マドリード到着1日目に、夕方お腹がすいて、すぐ近くの駅に行けば何かあるだろうと思ったのだが、日本の駅のように駅なかは充実はしていない。
仕方なく、駅の売店プラスイートインスペースで売っているサラダと、パンのようなものを買って、そのスペースで食べていた時のことだった。
周囲には、空いているテーブルもあるが、おそらく観光客だと思われる、スーツケースを足元に置いた人たちが、ビールや様々なアルコールも飲みながら、私と同様軽食を食べていた。
私は駅を行き交う人たちを見ながら食事をしていたところ、どこから現れたのか、一人の老婆が私のテーブルにやってきた。
服はボロボロで薄汚れていて、長い髪はバサバサで、思わず顔を背けたくなるほどだった。
その老婆は、スペイン語で何か言っている。
「スペイン語はわからないの」と伝わるかどうかわからない英語で言うと、今度は手を差し出して、「Money」という英語を言う。つまり、物乞いだったのだ。
実はこの時も私は現金を持っておらず、全てカードで旅を続けていたので、実際にキャッシュは手元になかったので、「No」と言って、彼女から目をそらすと、すぐに次のテーブルに行き、同じようにお金をねだっていた。白人の中年男性がどうするのか、私はじっと見ていたが、彼も私と同様に「No」と言って断っていた。ふと気づくとその様子を、カウンターの向こうにいる中年男性スタッフたちは、じっと眺めているが何も言わない。
もしかすると、この老婆はいつもここにきて、時にはお金をもらえるのかもしれない。そして、スタッフたちもかわいそうに思っているのか、何も言わないのではないか、と想像した。
もし私がキャッシュを持っていたら、どうしただろう、と考えた。
寄付のつもりでいくばくかの小銭をあげることはできただろう。でも、それでは何も解決しない。彼女が何か食べるものを得ることができたとしても、また同じことを繰り返していくだけだ。日本ではこんな人たちを見たことがないので、(昭和の初期にはいたのかもしれないが)驚いたし、少し怖かった。
貧困というものを、あまり間近で見たことがない、というのは幸せなことかもしれない。
でも、日本にも、そして世界中どこにでも貧困はあり、それはおそらく永遠に解決されないのだろうと思うと、暗い気持ちになった。
もちろん私にできることは何もない。ただ、旅行中にこうして社会問題を突きつけられる場面があることも、旅が持つ意味なのかもしれない。
知らない世界を知りたいと思って旅をしているのだから、暗い部分を見ることだってあるだろう。
私はたまたまこの世界一周の旅で、スリや強盗、など犯罪の被害に会うことはなかったが、旅人たちは良い思い出で終わる人ばかりではない、と思う。
何もできないが、知ることはできた。
マドリードもバルセロナも素敵なところだったけど、この老婆のことを忘れることはできない。
「出会った人」ではないかもしれないが、記憶に残る人、として書くことを決めた。
そういえば、コンビニのようなお店で店番をしていた、アジア系のおじさんが支払いの時にレシートをくれないようだったので、「レシートください」と言って手を出したのだが、何を勘違いしたのか、私の手を握って握手をしてきたこともあった。
中国系っぽい雰囲気のおじさんだったのだが、もしかすると同郷だと思ったのかもしれないが、あれは今でも笑える出来事だ。
次の日もお水を買いに(この店は特に安かった。他の店は本当に水さえも高かった)行ったのだが、その時のことなど何も覚えていないようで、でもニコニコニコニコしている様はとても印象に残っている。もし、またあのホテルに宿泊することがあったら、あの店に、あのおじさんに会いに行ってみようと思っている。