見出し画像

フランスは保育園もストライキ! 潜む問題は学歴社会!?

フランスと言えばストライキの国ですが、度重なるロックダウン中は働くこと自体ままならない状況で、珍しく静かな状態が続いていました。ロックダウンしていると、商店やレストランは閉めなければならず、テレビのインタビューで「働きたくてしかたがない!」といっているフランス人をこれほどみたのは、初めてのような気がします。

我が家の3歳になる娘の保育園を除いては…

春先から度々起こる娘が通う保育園のストライキ。「来週○日は、保育士ストライキのため、閉園します。ご了承ください」というメールが月に2、3回のペースで届くようになりました。最近では当日早朝に「アンナ先生の体調不良により、保育士の人数確保が難しく、受け入れ時間を制限します」と、保護者へのメールを通じて、先生個人を責めんばかり…。これらのメールの差出人は、園の責任者である園長先生。どうやら、現場の保育士さんたちと、園長先生が上手くコミュニケーションが取れていなさそう。ついに、現場の保育士さんたちが、次々と辞めていく事態にまで陥りました。

娘をフランスの保育園に入れたとき、最初の驚きは、園長先生が若いキレイなお姉さんだったこと。聞けば着任したばかりだそうで、メイクバッチリ、巻き髪で、ネイルもきれいに整えられています。実務経験はあるのだろうか…? と小姑の如く、彼女の全身に目を走らせてしまいました。この若さでベテランの保育士さんたちを、マネージメントしていくのは大変そう…。でもなぜ、この若さで園長先生なのだろう…? 色んな疑問が湧きました。

その後、こんな記事をみつけて、この図に私はとても共感しました。

画像1

日本企業であれば「事務は入口であり、数年したら決算業務をリードし、その後税務や管理会計も覚え、35歳にもなれば、経営管理業務に携わるように育ってほしい」と考えるでしょう。つまり、「経理事務」はあくまでキャリアの入口であり、決算→税務→管理会計→経営管理と階段を上り、それに伴ってどんどん昇給し、役職も上がっていくと考えます。

一方欧州では、例外的なケースを除けば、事務で入った人は一生事務をやります。彼らの多くはこちらでいうところの高専や短大にあたるIUT(技術短期大学)やSTS(上級技手養成短期高等教育課程)、もしくは大学の職業課程(普通学科とは異なる)を卒業しています。経営管理に関しては、グランゼコールや大学院などで、それを学んだ人が就き、入社した時から「管理職の卵」として扱いを受けます。

※「欧米には日本人の知らない二つの世界がある」海老原 嗣生氏より引用

日本では、新卒一括採用で社内教育を重ねていき、管理職になる人を選んでいきます。私が以前勤めていた日本企業では、大卒も院卒も、大きな差はなく扱われているように感じました。一方、フランスでは、院卒であれば、「カードル」といわれる、管理職の枠での採用になります。大卒であれば、表でいうところの「中間職」に留まります。

今、私が勤めているフランス企業では、デザイナー職はカードルなので、院卒であることが求められました。フランスは学歴社会ですが、日本と大きく異るのは、学校名ではなく、学位と専攻分野が問われるという点です。学士なのか修士なのか、そして専攻分野はなにか、で働ける職種が決まります。ただ、修士といっても、日本とは数え方が少し異なるので、これはまた別途。

ここで、保育園の話に戻ります。度重なるストライキの原因は、表向きには「乳児クラスの預け人数過多による、保育士の負担増のため」とされていましたが、実はもっと根深い気がしていたのです。
園長先生=管理職になるための学位があり、その学位を有しているので若くても園長先生。現場の保育士さんたちは、それ相応の学位なので、経験を重ねても、管理職にはなれない。そこで、対立が起きてしまったのではないか。それが私の予想でした。

が、違ったのです…!

先日、園長先生と話す機会がありました。園長先生曰く、辞めていった先生たちは、園長先生になれる学位を持った人たちだったそう。園長になるには、決められた学位は必要だけれど、求められる実務年数は3年間で、その後、管理職として理論を突き詰めていく人と、現場で実務経験を積んでいく人に分かれるとのこと。

辞めていった先生方は後者であり、じっくりと経験を積んできた人たちでした。そういう立場からすると、経験不足のまま責任ある立場についた若き園長の、至らぬ点が目に余ったのです。嫉妬は自分と状況が近い人に対して起きるものなので、むしろ、学位の差があれば、そこはそういうものと、軋轢は生まれなかったかもしれません。フランスの保育士さんに限っていえば、私が思っていた以上に、キャリアの積み方は多様かもしれない、ということに気づかされました。

辞めていった先生のうちのひとりは、「次の保育園には園長というシステムがなく、保護者たちとカリキュラムをつくっていくの!」と嬉しそうに話していました。一方で、園長先生は「私にはもっと現場の経験が必要だと思うの…」と呟いていました。そういえば、保育士さんたちがストライキ中、人員不足を補うため園長先生が現場に立ち、慣れない手付きで子どもたち相手に奮闘する様子を見かけました。キレイな巻き髪は一つにくくられて。

保育士の制度としては、キャリアの進め方は個々人の自由。ベスト解という指標はないので、経験してみて自分で気付いていくしかないのでしょう。
日本であれば、問題が大きくなる前に、対処する人が出てきそうですが、フランスでは問題は爆発するまで放っておいて、その後ドッカーンとしてスッキリ、ということが多いように感じます。これもまた、小さな革命…!?

その時、保護者はどうしていたか…!?

ただ驚いたことに、不満をいう保護者は、ほとんどいなかったのです! その場でブツブツ文句をいう人はいれど、「全く預け先がなくなるよりマシ」といった空気。つい先日、娘の保育園の父母会がリモートでありました。ここ数ヶ月の保育園の不手際に関しての謝罪のひとつもあるかなー? と思いきや、話題は「動画の見せすぎは、子どもの成長に良くない」というテーマで1時間終了。

フランス人は、人に期待しないことで、落胆したり誰かを責めたりしないで済むメンタリティなんだろうな、と改めて実感。そもそも、他人に期待できないぐらい、みんなテキトーというのも大きいんですけどね…。


▼ 他にもこんな記事も書いていますので、ぜひ!



もし面白いと思う記事がありましたら、興味ありそうな方にご紹介いただけたら、とっても励みになります!記事のシェアが一番のサポートです!