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革命の国、フランスで働く

フランス革命はもう200年以上も前のことですが、フランスで企業デザイナーとして仕事をしていて、確かに革命が起こる土壌があるな、と思うことが多々あります。そして、日々、小さな革命が起こっているようにも感じるのです。

そこで、フランス革命になぞらえて、フランスのサラリーマンの働き方を紹介したいと思います。

ナポレオン的強い指揮者に従う

企業において、日仏で一番異なる点は、ブランドイメージの構築の仕方だと感じています。日本企業では、一般デザイナーのアイデアを募り、それをまとめて、デザインのトップに提案します。フランス企業は、デザインのトップ自身のやりたいことが明確で、そのイメージが共有され、デザイナー達が具現化していきます。ボトムアップとトップダウンという差です。

日本のボトムアップ
良い点:幅広く意外性のあるデザインが生まれる
悪い点:トップ次第では全く方向性が定まらない
フランスのトップダウン
良い点:方針が明確なので無駄弾を撃たずに済む
悪い点:デザイナー個人が試してみたいことの幅が狭まる

フランスには、恐ろしく突出した才覚を持った人が数%いて、その人達が、フランスという国を引っ張ってきたような気がします。そして、意外かもしれませんが、フランス人はヒエラルキーに対して従順です。
日本は一般市民や平社員の学力および教養レベルは極めて高く優秀なのですが、突き抜けたリーダーがいない印象があります。

日仏2国のトップ、マクロン大統領の演説と、安倍首相の演説を比べてみると、いくつか興味深いことに気づきました。共にコロナの問題が表面化した2020年3月中旬の演説で、それぞれの政府公式のYoutube動画から抜粋しました。

まずは、フランス。マクロン大統領はひとりカメラの前に立ち、緻密に練られたであろう原稿を元に一方的に語りかけ、演説の最初と最後には荘厳なエリゼ宮の全体像が映し出され、記者との質疑応答もなく終了というもの。強い大統領という、非常によく演出された演説です。

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一方で、安倍首相は会見というスタイルを取っていて、大勢の記者に囲まれ、矢継ぎ早に受ける質問に、その場で答えていきました。そしてその後、ワイドショーで言葉の端々の揚げ足を取られてしまいました。

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私は、この差はリーダー自身の統率力云々よりも、演出によるものが大きいと感じています。「ひとりを強い人物として仕立て上げない」という日本の風潮が強く影響していると思います。マスコミによる言論の自由を盾にした政府批判も、フランスと比べると日本はだいぶ強い印象です。

革命には、強い指揮者とそれを擁護する周辺環境が欠かせません。

ギロチンの恐怖

フランスではトップダウン方式で、基本的には多くの人が強い指揮者に従うのですが、ある限界点を超えると、反乱が起きます。デモやストライキが多いのも、その現れです。

私の勤め先が、コロナが終息した後も引き続きリモートワークを主とした働き方をし、目指すは平均出社日数週に1.5日という方針を発表したことは「パリのロックダウン明け 会社のノマド宣言」で書きました。
社内アンケートでは、リモートワークは好評という結果が出ており、同僚達の間でも、みんな新しい働き方に向けて、内心ワクワクしていました。
ところが、それに納得いっていなかったのが、我が部署のトップ達。いきなり、翌週から全員毎日出社せよ、というお達しが出ました。会社の方針とは違うけど残念だなぁと思いつつ、出社すると…。

さすがフランス、部署の中でも、納得がいかなかった課は、課長の判断で全員そのまま在宅勤務を命じられていました。トップからの命令を、事実上、ボイコットしたのです。おぉ、これは盛り上がってきたな、と色めき立ちました。

そこから数日後、上層部で何度か話し合いが持たれたようで、再度「現在、我が部署は、より好条件でのリモートワークが行えるように会社と交渉中であり、そのための一時的な全日出社である。誤解を受けないように」との展開に至りました。ちょっとわかりにくいのですが、社員を毎日出社させているのは、会社と交渉するための、会社の指示に対してのボイコット、ということのようです。やりたくないことはやらないことで、意思表示をするのですね。

指揮者には従いつつも、行き過ぎたと感じるときに民衆は蜂起する覚悟を持っています。

革命とは前時代を否定し、引き継がれないもの

新しいプロジェクトに任命される際、全くのゼロから始まる仕事でない限りは、引き継ぎ作業が発生します。日本で働いていた頃は、新旧の業務を並行させつつ、長い場合、引き継ぎに数週間ほどかけていました。

以前、私はもうだいぶ進んでいるプロジェクトを引き取りましたが、引き継ぎ時間はたったの1時間。もちろん、そんな短時間で詳細まで確認することはできず。
そうした場合、どうなるのか。なんと、新担当者が新たに考え直してしまっても良いのです!現在、担当している人の考えが重視され、その前任者がどうであったかなどの文脈は一切無視しちゃっても大丈夫。

フランスで働き始めた頃は、やはり抵抗があり、前任者の方に何度も確認にいったりしていましたが、前任者の方も「もうあなたのプロジェクトなんだから、好きにやったら良いじゃないの」という調子。一緒に働いているチームの人達も、今までやってきた経緯を守ることよりも、新しい人が入ったことで生まれる新しいアイデアに期待している風。

革命には、引き継ぎ作業がいらないのです。

終わりよければ全てよし

日本企業での私の人事評価は「最後はなんとかまとめたけど、途中みててハラハラした。進め方がマズイ。」というものでした。フランス企業では、途中経過は一切問われません。出来上がった物が良ければそれで良いのです。

日本では、試作計画を前もって提出したり、事前の調整が必要でした。苦手でしたが、フランスに来てからもしばらくは、真面目に調整作業をしていました。ですが、あまりに前もってお願いしすぎて、そのときになったら忘れられていた、ということが何度か続きました。
そこで、うまくやっていそうな人に注目してみると、そういう人達は次々と新しいアイディアを思いついては、直前まで変更を入れまくり、周りを心配させることで、チームを一致団結させて、すごい短期間でクオリティを高めていくのです。

私自身も、直前に大騒ぎし、周囲を巻き込んで迷惑をかけるタイプなので、日本では悪目立ちしていました。転職してすぐの頃は、この悪いクセが出ないように気をつけていましたが、この国では悪いことではないのかもしれない、と気づきました。それでも、日本人なので、フランス人の極めている方ほどには至りませんが。

革命には、みんながまとまるための刺激が必要なのです。

田舎者でも外国人でも成り上がれる社会

フランスにおいての人種の多様性については、「フランスとアメリカ、それぞれの人種の多様性」でも書きましたが、意外なことに外国人にとって働きやすい国なのです。マリー・アントワネットのイメージが強いので、貴族社会がいまだにあるような錯覚をしてしまいがちですが、階級制度は革命時に、コルシカ島出身の田舎者といわれていたナポレオンによって滅ぼされています。バックグラウンドがなくとも、実力があれば受け入れてもらえ、のし上がっていくことも可能な社会なのです。

革命以降、貴族は田舎の成り上がり者によって滅び、階級制度はなくなったので、フラットな社会に。

革命記念日に、最近は慣れてしまったフランスでの働き方に、改めて想いを馳せてみました。

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