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新しく拡大するパリ、グランパリ計画

今のパリの美しい町並みは徐々に出来上がってきたのではなく、綿密に練られた都市計画が実行された結果です。パリ改造と呼ばれ、1853年から1870年、約20年足らずの一時期に集中して建て替えられました。当時のパリ知事、ジョルジュ・オスマンが、ナポレオン三世の指揮の下、計画を進めました。唐草の鉄格子がついたバルコニー、スレート岩葺きの屋根、切り出しの石を積んだファサード、建物の高さが揃った、いわゆるパリっぽい建物は、この時期に建てられ、オスマニアン様式と呼ばれます。

当時の計画が完了してから、150年が経ちます。実は2007年から、新たな都市計画が立てられています。その名もグランパリ計画。パリの拡張計画です。現在パリは、ペリフェリックと呼ばれる環状道路の内側がパリとされています。パリは昔、要塞都市で、城塞で囲まれていた跡がそのまま環状高速道路になったのです。かつて人の流入を阻んでいた壁が、現代では人が行き来するための道路になったということです。

人の行き来ができるようになった壁ですが、いまだにこの境界線はなかなか強力で、パリという街はこの内側でほとんど完結してしまっているのが現状です。郊外に出ようと思ったら、地下鉄、バスなどの公共交通機関も多少はありますが、そこまで遠くには行かないし、パリ市内を移動することに比べると、本数がぐっと減ってしまうので、車は必須です。パリの大きさは、ちょうど山手線の内側ぐらいを想像していただけると良いかと。山手線の外に向かうとなると、いきなり電車もバスも本数が減ってしまうようなイメージです。そういった利便性の問題もあり、みなこぞって、この境界線の内側に住みたがるのです。
ここで起こる問題は、住宅不足。フランスの人口の6分の1がパリに集中しているという超過密状態。また、国としても、国際都市として経済的に闘っていくには、小さなパリの中だけでは限界があるのです。

そこで、フランス政府は、この境界線を外に広げようとしています。郊外の7つの地域に、芸術、研究、金融、医療など、それぞれに専門性をもった施設を集合させるという壮大な、グランパリ計画と呼ばれるものです。

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・空の玄関、シャルル・ド・ゴール(赤のゾーン)とル・ブールジ
ェ(ピンクのゾーン):パリの北約30 kmに位置していて、日本からの飛行機の多くは、ここにある国際空港に到着します。空港の近くには、既に大きな国際展示場があり、国際的なデザインの展示会、メゾン・エ・オブジェや、プルミエヴィジョンなどが行われています。利用できる広大な土地が豊富なので、今後ますます、航空関係、国際貿易とイベントの中心として発展していきます。
・サスティナブルな街、マルヌ=ラ=ヴァレ(黄緑のゾーン):パリの住宅不足解消のため、60年代にアメリカの都市をモデルに新しくつくられた街。パリのオスマニアン様式風、ロンドンのビクトリア朝様式風、アメリカの近代建築風と、建築様式が混ざったニュータウンです。パリのディズニーランドもこの地域にあり、エコツーリズムが体験できるVillage Nature、ハイブランドのアウトレットモールLa Vallée Villageもあります。今後は、持続可能な都市に関する国の研究機関が集まってくる予定です。
・芸術のサンドニ・プレイエル(水色のゾーン):映画のセット、テレビスタジオ、舞台関係が活発な地域。将来のオリンピック村の建設予定地でもあります。
・金融街のラ・デファンス(オレンジのゾーン):ヨーロッパ最大のビジネス街で、多くの大手銀行や金融機関があります。パリらしからぬ摩天楼が立ち並びます。車で通ると、いたるところで工事をしているので、ナビをみていても、必ず道に迷います。
・医療分野のパリ南部(グレーのゾーン):既に大きな病院、バイオテクノロジー分野の研究所、医療系の企業が集まっています。
・研究と教育のサクレー台地(茶のゾーン):パリの南西20 kmにあり、高等教育機関が集まり、「Université Paris-Saclay」という名前でいくつかの大学が合併しました。権威ある科学研究機関も、こちらに集められました。 (グランパリ計画公式サイトを参照)

私が注目しているのは、水色のゾーン、芸術のサンドニ・プレイエルです。今はあまり治安の良い場所ではないのですが、今後はアートの力で良くなっていくのでしょう。今となってはパリで人気の地域、モンマルトル、マレ、バスティーユ周辺等も、かつては荒廃していた場所に芸術家達が住みはじめて、雰囲気を良くしていきました。売れない芸術家がお金がないのはどの時代も一緒のようで、家賃が安いところに住み、街に人気が出て家賃が値上がりすると、またさらなる地を求めて移動していくのです。街が再開発によって浄化されていくことを、英語でもフランス語でも「Gentrification」というのですが、ジェントルに紳士化していくというイメージでしょうか。確かにアーティストにとっては居心地良くなさそう。

そして、グランパリ計画の目玉は、グランパリエクスプレスという新しい地下鉄網で、パリ郊外を環状線状につなぐ無人運転の地下鉄です。
今はRERと呼ばれる、近距離電車がありますが、設備の老朽化もあり、大雨でセーヌ川が氾濫する度に冠水してしまい即運休に。ストライキもよく起こるので、無人化はそういった意味でも強く求められています。既に無人運転の路線はいくつかあり、2019年の大規模なストの際でも営業を続けていました。

新しい地下鉄は、段階を踏んでつくられていくのですが、2025年頃には、まずは北と南それぞれに、アーチ状に路線が通ります。

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そして、最終的には環状線になる予定なのですが、全てが開通するのは、2030年以降だそうです。なかなか先が長いですね…。

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グランパリエクスプレス公式サイトより引用

公式サイトでは、工事の進捗状況を中心に、未来の路線図、未来の乗り換え時間検索などが載っていて、みていてワクワク夢が広がります。今後はこんなところに地下鉄が通るのね〜と想像して楽しめます。パリ近郊で、不動産購入を検討される方は、この地図の確認は必須かと。気の早い不動産サイトでは、まだ実在しない地下鉄15番線から徒歩何分!という表示をしています。

少し前に、グランパリの駅のひとつの建設地を、仕事帰りに通り過ぎたら、仮囲いめいっぱいの巨大ポスターに「私が現場責任者です。工事の騒音、粉塵などのご不満のある方は、こちらにお電話ください。06–XX-XX-XX-XX」と、男性が格好良くポーズをきめています。06から始まるのは携帯電話の番号です。パーソナル感を出してるけど、会社から支給された電話だろうなぁ、と思ってみていたら、横にいたフランス人の同僚が「あぁ、この人、個人の携帯電話なんて、公共の場に晒されちゃって気の毒に…。すごいいっぱい苦情電話かかってきてるんだろうなぁ。」というのです。
なるほど、プライベートを犠牲にして頑張ってるように見せると、フランス人からは同情を引くことができるのだな。会社の代表電話を明記するより、個人携帯の方が苦情件数が減るのかもしれません。

参考サイト:
グランパリ計画公式サイト
グランパリエクスプレス公式サイト
自治体国際化協会
Ovni

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