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青春ミステリー小説『放課後の冒険』 第4話「ゾディアックの暗号文」

 水分補給をしてから、アディダスのショルダーバッグをからって、拓実は家を出た。

 バッグの中には、800円程入った財布を入れてある。
勿論、案内状はちゃんとポケットに入れたままだ。そして彼の左腕には、葵を見習って腕時計が嵌められていた。

 拓実はカゴ付きの自転車をガレージから出して、それに乗って走り出した。
車体の色はシルバーで、もう何年も使用しているため所々錆が付いて年季が入っていた。
それとは対照的に、自転車に乗る拓実の表情は生き生きとしている。

 こんな気持ち、どれくらい振りだろう。
買ったばかりのテレビゲームのカセットを、初めて遊ぶ時以上にワクワクしているかもしれない。

 拓実が約束の午後4時50分少し前に到着すると、そこには既に葵の姿があった。
彼女はカゴ付きのライムグリーンの自転車に身を預ける形で、駄菓子屋前の通りに立っていた。肩にはトートバッグを掛けている。

 拓実が近付くと、葵も彼の存在に気付いてそちらを向いた。
彼女のその表情には、拓実と同じく好奇心を多く含んでいた。
拓実よりも先に到着していることがその表れとも言えるが、葵は普段から時間に徹底する性格なのだ。

 「待った?」と拓実は訊いた。
「うぅん、私も今さっき来たとこ」と葵は言った。

 駄菓子屋の前には、他に数台の自転車が駐められており、店内からは小学生達の画期溢れる声が響いている。
すぐ近くには原北公園という比較的大きな公園があり、そこで遊ぶ子供達は自然とその店の常連となるのだ。

 店の入り口付近には、アイスの入ったショーケースが置かれており、少し汗ばんでいる拓実は一瞬それに引かれたが、すぐに思い直して我慢した。
今は、自分のポケットの中の案内状に纏わる謎の解明が先だ。

 「よし、じゃあ行こうぜ」
「あぁっ、何か緊張してきた」
「興奮じゃなくて?」
「どっちもっ」
そうして二人は自転車を漕ぎ出して、福岡市総合図書館に向けて出発した。

 しばらく走った二人は住宅街を抜けて、室見川沿いの広い道に入った。
途中まではこの川沿いの道を通った方が、信号や車の往来を避けられて、結果的に近道となるからだ。

 室見川は、拓実達の街のシンボルで人々の憩いの場でもある。

 室見川沿いの開けた道からは、少し先の福岡タワーをよく眺められる。
目的の福岡市総合図書館は福岡タワーの近辺に位置しているため、それが目印の役割となるのだ。

 川の水面は太陽の光を浴びて、きらきらと反射していた。
鳥達は水辺を飛び回り、水の中に浸かったりしている。
右手には等間隔に並ぶ樹々がたまに風に揺られて、ざわめいていた。

 道にはジョギング中の人や、犬を散歩に連れている人、木陰の下でベンチに座って談笑したりする人々、とそれぞれが午後の時間をのんびりと過ごしている。

 連日続いていた雨の日が、今日は一転して快晴となったため、道にはいつもより少し人が多かった。
それでも夏が本格的に到来する直前の7月上旬の気温は、自然と額が汗ばみ、やはり少し堪えるものがあった。

 「ねぇ、風船を飛ばした人ってさ、どんな人だと思う?」と葵が横から訊いた。
「さぁなぁ。でも案内状に書いてあった文字は、手書きじゃなくてパソコンで打ち込んだものだったろ」と拓実は言った。
「そう、何かそれちょっと不気味だった」
「あれってさ、筆跡を辿られないためにやった措置だったとしたら、ひょっとして送り主は、何か悪いこと企んでる危険人物かもな」
「ちょっと、怖いこと言わないでよっ」
「冗談だよ、冗談」

 二人は川沿いの道を外れて、街路樹の陰に覆われた広い並木道を走っていた。
ここは車の往来はあまり無く、道幅も広いため余裕を持って走ることができる。
たまに吹く風が涼しく、二人の髪や衣服をはためかせた。

 先程よりも、二人の自転車を漕ぐペースは少し早くなっていた。
やはり、案内状に記された文字の真意を早く突き止めたいのだ。
一体そこにあるのはどんな本で、どんな内容が書かれているのか。
その疑問が二人の胸中を激しく渦巻いていた。

          *

 やがて拓実と葵は、目的の福岡市総合図書館前までやって来た。
「思ったよりも早く着いたね、何か、結構近かったかも」
「うん、やっぱ自転車で行けば余裕の距離だな」

 時刻は午後5時5分になろうとしていた。
二人は敷地内の駐輪場に自転車を駐めて、館内の入り口へと歩いた。

 大きな煉瓦造りの建物は、どことなく威厳があるような気がした。
ガラスの自動ドアに近付くと、それは二人を迎えるように静かに開いた。

 長いホールを歩いた先に、精緻な造りのロビーが広がっていた。天井は随分と高かった。
二人は館内を奥に歩くと、その先の左手に大きな階段があった。

 「2階って書いてたよね」葵が訊いた。
「あぁ」拓実はポケットから案内状を取り出して、言った。
館内は静寂であるため、二人の声は自然と小さくなっていた。

 二人は階段を昇り、2階へと上がった。
外の暑い気候とは違い、ここは冷房が効いており涼しかった。
やはりこの時間帯になると、それなりに人は多く、席も大方埋まっている。

 二人は、『福岡市総合図書館/2F/E7/430/437コ/385』と書かれた地点を探し始めた。
「えーと、『E7』ってどこだ?」と拓実は周囲を見回しながら言った。
「こっち側は『B』の棚みたいね」と葵は言った。
「じゃあ、向こう側かも」

 広々とした館内に、沢山の書架がずらりと規則正しく、均等に配置されている。
そしてそれらの書架の側面に、英数字が刻印されたプレートがそれぞれに貼られてあった。
アルファベットと数字の組み合わせに応じて、様々なジャンルの蔵書が収蔵されているらしい。

 二人は少しの間、館内を歩き回っていた。
「あっ、こっちじゃない?」

 葵が指差す方向は、『E』と英字が表記されたプレートが貼られた書架の区画にあった。『E』とその隣に数字が表記されたプレートが、それぞれ手前から奥へと続いている。
「そっちだ、そっち」
拓実は小走りでそちらに向かい、葵も後に続いた。

 二人の背丈よりもずっと高い書架の間を縫って進むと、やがて『E7』とプレートの貼られた書架までやって来た。
その『E7』の表記の真下には、『自然科学・技術・産業部門』と書かれている。

 「科学系の本、、、?」葵は呟くように言った。
「とにかく、探してみようぜ」拓実は手に持っている案内状を見て言った。

 案内状には、『E7』の次に『430』と書かれてある。すぐ手前には、『400 自然科学』と書かれたプレートが嵌め込まれた書架がある。

 二人はその区画の奥まで歩き、やがて『430 化学』とプレートが嵌められた書架の前に立ち止まった。

 そこには『基礎有機化学』や『有機化学概説』といったタイトルの難解そうな本が並んでいた。
その一帯はどれも、有機化学に関する本ばかりがずらりと置かれている。

 そしてそれらの本の背表紙には、『437』という数字とカタカナの組み合わせの表記があるシールが、タイトルの下に貼られていた。
どうやら案内状に書かれてある『437コ』というのは、やはりとある一冊の本の在処を示しているらしい。

 「有機化学、、、。それが俺達に読ませたい本?」
「本自体っていうよりも、あるページに私達に伝えたい何かが書いてあるのかな」

 拓実は葵の方を見た。それから手に持った案内状に目を落として言った。「なるほどな、この『437コ』の次にある『385』ってのは、ページ数って訳か」
「その385ページに、案内状の答えが示されてる、、、とか?」
「多分そういうことだろうな。えぇと、『437コ』、、、。あっ、これだ」と拓実は言って、手を伸ばしてその本を手に取った。

 拓実が掴んだその分厚い本は、背表紙に『437コ』というシールが貼ってあり、その上に『【改訂版】有機化学概論』というタイトルが書かれてある。
本はずっしりと重量があり、少し古びた状態だ。

 二人の顔は緊張で少し強張っている。
拓実は恐る恐るといった様子で、分厚い本を開き、ページをパラパラとめくり始めた。

 そして385ページまで開いた時、そこに一枚の白い紙が挟まれてあった。
紙の上には何も書かれていない。

「また紙、、、」と葵は呟いた。
拓実はそのB4サイズ程の紙を裏返すと、そこには中央にこう書かれてあった。


 『ススソトソへウチマウオヲマウメキヤンモケアミウト

まえむきなさんぽはみちをきりひらくかぎとなるだろう』


 「え、何これ」と葵は顔をしかめて言った。
「間違いない、、、これ、暗号だよ、、、」と拓実は興奮を押し殺すように言った。
「暗号っ?」と葵は驚いて言った。
その直後、奥で本の整理をしていた若い女性の司書がふと二人の方を向いて、葵は慌てて口を押さえた。

 「この暗号文が、きっと何かを意味してるんだろうな」と拓実は口角を上げて言った。
彼はこういった暗号やパズルの類にはめっぽう惹かれるのだ。
「ススソトソ、、、全然っ意味分かんない。というか、これ書いた人は一体どういうつもりなの?」と葵は言った。
「さぁな、でも伝えたいメッセージが込められてるのは確かなんじゃないのか?でも、にしては妙に手が込んでるんだよな、、、。風船に載せた案内状といい、この暗号文といい」
「何か、凄い不気味に思えてきたんだけど、、、」

 「それ以上に俺は気になるけどな、これが何を意味してるのか」
「拓実、まさかこれ解くつもりなの?」
「当然だろ、ここまで来たら引き下がれねぇよ。答えが気になってしょうがないし、とにかく解いてみる」と拓実は言った。

 それを聞いて、葵はふと思い出した。
そういえば拓実は、クラスでたまに開催されるクイズや論理パズルの大会なんかは妙に得意だったな、と。

 担任の宮田先生は、そういったひらめきや頭脳を使った遊びが好きで、授業の一環でそのような大会を月に1回程度6の2で開催するのだ。
その際は、拓実と学級委員長の池澤君がよく優勝を争ってるっけ、、、。

 「意味不明なカタカナの羅列に、その下の文章はヒントの役割か?前向きな散歩は道を切り拓く鍵となる、、、で良いのかな。というか何でひらがななんだ?」と拓実は一人呟いている。
葵は拓実のその真剣な横顔を、少しの間見つめていた。

 それから拓実は暗号の解読のために、付近のテーブル席に座り、葵もその正面に座った。
館内はそれなりに人がいるために、二人が座った席は、数少ない空いている席だった。

 拓実の目線のすぐ下には、例の暗号文が置かれてある。
念のため、暗号文を挟んでいた有機化学の本も持ってきていた。

 「さぁ、やるぞ〜」と拓実は言って、指の関節を数回鳴らした。その直後、「いけね」と拓実は呟いた。
「どうしたの?」と葵は訊いた。
「筆記具とノート忘れた。つーか、要ると思ってなかった」
「私、筆箱と使ってないノート、一応持ってきたけど」と葵は言って、トートバッグからそれらを取り出して、テーブルに置いた。
「でかした、葵っ」
「用意が良いでしょ」そう言った葵の顔は、少し得意げだった。「でも、こういうのってやっぱりちょっと怖くない?誰が何のために暗号なんて残したのかって、考えるとさ」
「それを知るために今から解読するんだろ。怖いというより、好奇心しかねぇよ」と拓実は言った。
「拓実は本当に解けると思ってるの?この暗号文を書いた張本人も、まさか子供が見つけるなんて思ってなかったかもよ。こういうのは、大人じゃないと難しそうだけど」

 「なぁ葵、ゾディアックって知ってるか?」
「ぞでぃあっく?何、それ?」
「その昔、アメリカのサンフランシスコに現れた正体不明の連続殺人鬼だよ。確か、1960年代ぐらいだったかな」
「え、何?急に怖い話?」
「良いから聞けって。当時世間を震撼させていたそいつは、挑戦状としてとある暗号文を同封した手紙を地元の新聞社に送ったんだ。これを解読すれば、自分の正体に辿り着くだろうってメッセージを添えて。それに、これを記事に載せなければ、また殺人をやるってそいつは新聞社を脅してもいたから、ゾディアックの暗号文は世間に公開されることになったんだ」

 葵は拓実が何を言おうとしてるのか、よく分からなかった。
「それで、警察やFBIや専門家は勿論のこと、一般人もこぞってその暗号文を必死に解こうとしたんだけど、一向に誰も解けなかった。ところがだぜ、記事の公開から一週間後に、普通の一般人がそれを解いちゃったんだよ、暗号解読のプロよりも早く」

 「、、、それが?その話とこの暗号文に何の関係があるの」と葵は訊いた。
「だから、俺達が小学生だから暗号なんて解けっこないとか、そんなことはカンケーないんだって言いたかったんだよ。要は熱意なんだって。本気で解こうとすれば絶対解ける筈」と拓実は言った。
「そういうもんかなぁ。ていうか、何でわざわざそんな例え使うのよ、何か余計に不安になった気がするんだけどっ」
「今、偶然浮かんだんだよっ」
「それで、どうなったの?」と葵は訊いた。
「何が?」と拓実は訊き返した。
「その犯人、捕まったの?」
「いや、未解決のまんまだよ」

 葵はそれを聞いて、テーブルの下の拓実の左足を蹴った。
「いって、何すんだよ」
「るっさい、これでも加減した方だし」
「暴力女、、、」
「あんな怖い例え使ってまで、絶対解けるって豪語したんだから、絶対解いてよね」
「そのつもりだよっ。つーか、解読中は話しかけんなよ、気ぃ散るから」
「分かってるわよっ」

 そうして拓実は、テーブルの上の暗号文の解読に取り掛かった。
葵から借りた鉛筆を持ち、暗号文を真剣な表情で見つめては、時々ノートに何やらを書き込んでいる。
彼は興味のない授業に関しては何かと真面目に受けようとしないが、自分が興味を示す物事に対しての集中力は高かった。

 葵はそんな様子の拓実を静かに見ていた。
葵は6年2組のクラスの中で、常に成績が優秀な生徒だ。
しかし彼女はこういった暗号の類は、一切解ける気がしなかったので、全面的に拓実に任せることにした。

 自分が一緒に考えようとしても、多分彼の邪魔になるだけだろう。
自分にできることは、拓実がその暗号文を解読することを信じて待つことだけだ。

 腕時計を見ると、時刻は午後5時20分を過ぎていた。
この時期の5時というのは、空はまだまだ明るい。

 それでも葵は、塾などの習い事以外の私用で、この時間帯に校区外に出る経験はあまりなかった。
だから彼女の胸中には、少しの不安と大きな好奇心が同居していた。
葵にとって、拓実が一緒にいることは唯一の安心材料であった。

 拓実は小声で呟きながら、ノートに鉛筆を走らせている。葵はその様子を、頬杖をつきながら見守っていた。

          *

 時間が刻一刻と過ぎていき、腕時計は午後5時54分を差していた。

 葵は付近の書架に置いてあった、ピラミッド特集の科学雑誌を読んでいた。
しかしその内容は殆ど頭に入っていない。拓実が解読に成功するまでのただの時間の埋め合わせだ。

 その時だった。
「解けた、、、」と拓実は呟いた。その声色は少し震えていた。
「嘘っ」と葵は言った。

 「これ、見ろよ」拓実はそう言って、暗号文の紙を葵に渡した。拓実の表情は自信に満ちている。

 『ススソトソへウチマウオヲマウメキヤンモケアミウト

 まえむきなさんぽはみちをきりひらくかぎとなるだろう』

 そして問題の暗号文の下には、拓実の乱雑な字でこう書かれてあった。


 『午後7時半、セブンイレブン前、室見川、ベンチ』


 「午後7時半、セブンイレブン前、室見川、、、。ちゃんと意味のある文章になってる、、、。凄い、どうやって解いたの?」と葵は訊いた。
「この訳分かんねぇカタカナの羅列の下に、ひらがなでヒントみたいな文章が書かれてあるだろ?」と拓実は言った。
「うん」と葵は頷いた。
「俺、最初はこれを『前向きな散歩』って読んでたんだ。そのせいで、しばらくは全然意味が分からなかったんだけど、ふとこれって『散歩』じゃなくて、歩数の『3歩』って意味なんじゃないのかって、思い当たった。それで、その『前向きな3歩』って意味を前提に考えてみたら、上のカタカナの文字を、それぞれ3歩ずつ前に戻すって法則が浮かび上がってきたんだよ」
「え、3歩ずつ前に戻す?どういうこと?」
「つまり、『前向き』って言葉は性格とかのことじゃなくて、その字の通り『前を向く』って意味なんだ」
「前を向く、、、?」
「あぁ。そもそもはヒントの文章がひらがなで書かれていること自体が、ヒントになっていたんだ。ひらがな、ひらがな表、、、って連想していったら、すぐに分かった。つまりは、五十音順だよ。五十音順における『前』っていうのは、出てくる文字の順番が『先』ってことになるだろ?要するに、『前向きな3歩』っていう言葉は、このカタカナの羅列を五十音順に3つずつ文字を『前に戻す』って法則が成り立つんだ。例えば、『え』の3つ前は『あ』って具合に。だからその法則に従って、ノートにひらがな表を書いていって、それを見ながらカタカナの文字を1文字ずつ3つ前に戻していった。そしたら、それが見事に嵌って、この意味の通った文章が浮かび上がったって訳」

 「拓実、あんたって凄いね、、、」と葵は拓実を見つめて言った。
「いやぁ、そんな大したことじゃねぇよ。ちょっと、時間かかっちゃったけど」と拓実は照れを隠すように言った。
「ふ〜ん、私だったら絶対無理だなぁ。ねぇ、将来は探偵とか向いてるんじゃない?」
「何でだよ、大抵は浮気調査とかだろ。それより重要なのは、この解読で浮かび上がった文章だけどさ」

 「うん、室見川って、まさにさっき通ってきた場所じゃない。このセブンイレブンも、道の向こう側にあったし」と葵は言った。
「偶然にも、目的地は既に通過してたってことだな。そして、気になるのは時間の指定があること。わざわざ具体的な時間を設定してあるのは、その時に何かが起きるってことなんじゃないのか」と拓実は言った。
「確かに、、、。例えばそのベンチに何かが置いてあるとしたら、時間は関係ない筈だもんね」
「間違いない。この時間のこの場所で、きっと何かが起きるんだ」
「何が起きるんだろ」

 「さぁなぁ、今は分からないけど、どうせ行けば分かるだろ。午後7時半って、俺は大丈夫だけど、葵は?」
「私も大丈夫、塾とかの習い事で遅くなる日も全然あるし」
「決定だな」
「あっ、これ以上どこかに連れ回されるってことはないよね」
「あぁ、この時間にここに来いってことは、多分ここが最終地点ってことだろ」
「良かった、ちょっと安心」
「きっとここに答えがあって、これまでの謎が解けるんだよ」 
「何か、ここまでの冒険になるなんて
思ってもなかった」と葵は苦笑するように言った。
「あぁ、俺も」と拓実は同意した。

 「ちょうど良かったよね、室見川ならどっちみちまた帰りに通るんだから。それにセブンイレブンの辺りなら、家からもそんなに離れてないし」
「うん。帰り道の途中に指定の場所があるのは、都合良かったよな」
「どうする?午後7時半までまだ1時間半近くあるけど、もう出る?」と葵は訊いた。
「出ようぜ。誰かに場所取られちゃう前に、着いておきたいし」
「だね」

 それから二人はテーブルの上を片付け、席を立って、図書館を後にした。

 外に出ると、やはり汗ばむような気候が纏わりつく。時刻は午後6時を過ぎていた。

 二人は駐輪場に駐めてあったそれぞれの自転車に乗り、目的の室見川に向けて走り出した。
そこで一体何が起きるのか、確かめるために。


(第5話へ続く)

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