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短編小説

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『アップルパイ』(短編小説)

『アップルパイ』(短編小説)

(あらすじ)
 夫は無類のアップルパイ好き。それはどうやら、昔の彼女に訳があるようで...アップルパイと初恋をめぐる小さな物語。

**『アップルパイ』 上田焚火 **

「あなたって、どうしてそんなにアップルパイが好きなの?」

妻にそう言われて、確かにそうだ、と私は思った。

その日は誕生日で、目の前にはショートケーキじゃなくて、アップルパイがあった。

銀色のアルミの皿に入っているホールのア

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『二番目の女について』(短編小説)

『二番目の女について』(短編小説)

(あらすじ)
 彼女のつき合う男たちには、いつも本命の女たちがいた。今度こそは本命の女になれる、と思った矢先......二番目の女がもたらす奇跡とは。

    『二番目の女について』 上田焚火 

「実は結婚しているんだ」
 と男に言われたとき、やっぱりそうか、と彼女は思った。男はベッドから起きあがると、ベッドサイドの照明をつけようとした。
「やめて」と彼女は小さく言った。
「タバコが吸いたいん

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『ナンとインドカレー』(短編小説)

『ナンとインドカレー』(短編小説)

(あらすじ)
 高校時代に友人だった男と女が再会する。過去にそれぞれ引きずる愛を持つふたり。インドカレーとの関わりが、ふたりの愛をいやしていくことに...

『ナンとインドカレー』 上田焚火

 なぜかわからないが、インドのカレーを食べると高揚する。

 香辛料のせいなのだろうか。無意味な力が体の底からわき起こってくるのだ。もしインドのカレーを食べていなかったら、彼女とあのようなことにならなかった

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『雨で手を洗う』(短編小説)

『雨で手を洗う』(短編小説)

あらすじ
 三年前にわかれた彼女に偶然出会い、マンションに誘われることになった男。過去に戻ろうとする男と女のすれ違いを淡く切なく描く。

『雨で手を洗う』 上田焚火

「今はつきあっている人はいないの?」

 と彼女が訊ねてきたので、「いや、いないよ」と僕は答えた。

 だからといって、彼女と何かが始まるとは思えなかった。そもそももう終わったことだった。どうしてこんな所にいるのか、その理由をなる

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