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【読書メモ】『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』(山口周著)

▶今回の書評本『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』

・『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』
・山口周著
・光文社新書

▶読後メモ

はじめに

イノベーションはビジネスの世界に咲く大輪の花のようなもの。人間は、花それ自体を創造することはできない。人ができるのは、花が健全に芽吹き育成されるように、適切な土壌、太陽、水、風通しを整備してあげることだけ。
企業におけるイノベーションについても同様まず組織とリーダーシップの在り様に目を向け、苗床となる土壌を整備してあげることそれができて初めてイノベーションの趣旨は健全に芽吹くようになる

第一章 日本人はイノベーティブか?

問題は「個人の創造性」ではなく「組織の創造性」
●日本人は、個人としての創造性はある。これが組織になるとさっぱりになるのは、組織内に小姑のような人がいて色々とケチをつけたり混ぜ返したりするからだ。だから日本人に創造性を発揮させたければ個人を鍛えるよりも組織の在り様を変えなければダメだ。

第二章 イノベーションは「新参者」から生まれる

●これまでに誰も考えたことがない「新しい要素の組み合わせ」がイノベーションの源泉
●この「新しい要素の組み合わせ」を実現するために、多様性が非常に重要な要件になってくる
●最終的に重要なのは「意見の多様性」であって「属性の多様性」ではない
●重要なのは、人と異なる考え方/感じ方をどれだけ組織構成員ができるか、そして考えたこと/感じたことをどれだけオープンに話せるかということ
●これは「多様な意見を認める」という組織風土の問題であり、さらには「多様な意見を促す」という組織運営に関するリーダーシップの問題
「日本人は、目上の人に対して意見したり反論したりするのに抵抗を感じやすい」という事実と、「多くのイノベーションは組織内の若手や新参者によって主導されてきた」という事実は、日本人が組織的なイノベーションにはそもそも向いていないということを示唆している
改善可能なのは「組織風土」しかない。ポイントは、組織構成員の言動を変えられるかどうかというその一点にかかっている。対処法は、上下間での情報流通、つまり、組織の下層の人間は上層部に対してモノを申し、上層部の人間は、下層の人間の物言いに対して耳を傾ける
●日本のように権力格差指標の大きい文化圏では、「聞き耳のリーダーシップ」を組織の長が発揮できるかどうかが、大きく組織パフォーマンスを左右することになる
「アメ(報酬)」は組織の創造性を高める上では意味がないどころか、むしろ逆効果となり害悪を及ぼしている。
●「ムチ」も創造性の発揮には有効ではない。「一度大きな失敗をして×印がついてしまうと会社の中では出世できない」という考え方が支配的な日本よりも、「どんどん転職・起業して失敗したらまたチャレンジすればいい」という考え方が支配的なアメリカの方が、セキュアベースがより強固であり、人は未知の世界へと思う存分挑戦できる
人が創造性を発揮してリスクを冒すためには「アメ」も「ムチ」も有効ではなく、そのような挑戦が許される風土が必要だということ、さらにそのような風土の中で、人があえてリスクを冒すのは「アメ」が欲しいからではなく、「ムチ」が怖いからでもなく、ただ単に「自分がそうしたいから」ということである。
●イノベーションの歴史において、「指令を受けた大企業のエリート」対「好奇心に突き動かされた起業家(アントレプレナー)」という戦いの構図がたびたび現れるが、なぜエリートは負け続けるのか? それは「動機」の違いによるものが大きい。エリートは「課題優先型」、アントレプレナーは「好奇心駆動型」
●イノベーションの推進にあたって「慌て者のの誤謬」が多くの障壁となる。典型的なのは「それは以前試してみたけど、うまくいかない。理由はいくつかあって…」という声。
職業のフィットや仕事の成果は大きく3つの社会性動機に影響される
①達成動機:設定した水準や目標を達成したい
(例)登山の目的は「自分が目標と定めたその山に登頂する」こと
②親和動機:他者と親密で有効な関係を築き、これを維持したい
(例)登山の目的は「仲間と一緒に事をなす」こと
③パワー動機:自分の行為や存在によって組織や社会に影響を与えたい
(例)登山の目的は「自分の達成によって社会にインパクトを与え、尊敬と名声を獲得する」こと
●組織を率いて大きなイノベーションを実現する管理職は、高い「パワー動機」を持っている傾向が顕著。言われたことをやるよりも自分の興味や関心にドライブされて仕事をやっているため、上司や経営幹部からは扱いづらいという評価を受けていることも多い。自分の興味関心に駆動されて仕事を勝手に作ってしまう人=「好奇心駆動型のアントレプレナー」
●一方で、一般に企業において高業績を上げる人材は、高い「達成動機」を持っている傾向=「課題優先型のエリート」
安定企業が新事業を通じて成長を甦らせようとする際に直面するジレンマのうち、最も厄介なものの一つは、社内の「経験の学校」が、破壊的事業の立ち上げ方を教えるような「科目」をほとんど提供していないということだ。したがって、中核事業でもとめられる成果を一貫してあげてきて、役員から絶大な信頼を得ているマネジャーには、色々な意味で新成長創出の先導役は任せられない(クリステンセン『イノベーションへの解』)
イノベーションは「言い出しっぺ」にやらせるほうがいい
●特にイノベーションの実現という文脈において「適材適所」は重要な論点として浮上してくる

第三章 イノベーションの「目利き」

イノベーティブな組織では「社内外に広く濃いネットワークが形成されている」。つまり通常業務で情報交換をする相手以外の異なる部門や社外との間でも活発な情報交換が行われている。
「イノベーションの目利き」とは、アイデアの萌芽を見せられた時、そのアイデアの持っている可能性をどれぐらい正確に見抜けるかという「眼力」のこと。イノベーションの目利きは非常に難しく、そのイノベーションがもたらすインパクトが大きければ大きいほど見抜きにくいという側面を持っている。したがって、一人による単視眼的な見方ではイノベーションの可能性を見逃してしまう。
●イノベーションの可能性を見極めるためには複眼的・多面的な検証がかかせない。ポイントは「ネットワーク密度」の高い組織で「多人数で目利きする」こと。「捨てる神あれば拾う神あり」の「拾う神」が重要な役割を果たす。これにより、アイデアを持っている人とアイデアによって利益を得る人とを結びつけるネットワークの密度が、非常に重要。
●過去の多くの事例において、イノベーションの核となるアイデアは組織の外部からもたされている。このことから、情報流通を司る組織のネットワークは、内部はもちろん外部に対しても開かれていることが重要
●オープンイノベーション=外部のネットワークを高密度に組織内部にジョイントするという取り組み
●組織内における情報流通の質と量を高めようと考えた場合、組織内の「密度」と同時に、組織の外に向かった「広さ」にも目を配ることが必要
●「普段出会わないような人たち」と接して洞察を得ることも重要。人は自分と似た人とコミュニケーションを取りたがるという非常に良くない傾向を持っている。未知との遭遇は、往々にして今まで考えたこともなかったようなトピックや視点を含んでいる。
●組織のリーダーは、常に組織の同質性、密度、広さに留意し、意識的に新しい情報が流通するための「仕掛け」を考え、行動し、発言することが求められる。を
●仕組みづくりには、大きく「場づくり」と「制度づくり」という二つの方向性がある。
・場づくり=グーグルの「イノベーターズ・チャレンジ(社員の出したアイデアを審査し、活動継続に必要資金を出す)」、「ブレイン・ストーミング・セッション」、社内ネットワーク構築のための「無料で24時間提供のカフェテリア」
・制度づくり=3Mの「就業時間の15%を自由な研究に費やしても構わないというルール」
→例えば「15%ルール」だけを真似して導入するなど、部分的な仕組みだけを入れてもイノベーションは発現しない。
→理由は「15%ルール」が他の色々な制度やリーダーシップ開発と組み合わせることで初めて最適化され、効率を発揮するものだから。
→3Mは「15%ルール」と「新商品売上高比率ルール(全売上高のうち発売から1年以内の新商品が10%、4年以内の商品が30%を占めなければならない)」の2つの制度を組み合わせることで、イノベーションに関する取引市場(売り込みたい研究者とイノベーションの種に飢えている管理職との取引)を社内に作っている。
働き者だけの組織は非効率。短期的な目標に対して組織を効率化させすぎると、イノベーションは発生しにくくなる
●イノベーションを数十年にわたって起こし続ける企業の多くが「規律」と「遊び」を絶妙にバランスさせている
●用途市場は明確化できない。イノベーションンの可能性を見抜くことは難しい。多くのイノベーションは結果的にイノベーションになったに過ぎず、当初想定されていたとおりのインパクトを社会にもたらしたケースは少数派
●一方で、用途市場を明確化せず、野放図に開発投資を行っても成果が出るわけではない。
イノベーションは研究開発段階から市場化段階へと至るステップで「死の谷」を経由する
●消費者はイノベーションを見抜けない
●イノベーションでは七転八倒が当たり前
●イノベーションの普及速度を左右する5つの要素(①と②が最重要)
 ①相対的優位性:イノベーションがこれまでのものよりも良いと知覚される度合い
 ②両立可能性:既存の価値観や過去の体験に対して、イノベーションが一致している度合い
 ③複雑性:イノベーションを理解したり使用したりすることの容易さの度合い
 ④試行可能性:たとえ小規模であっても、イノベーションを採用決定前に試すことのできる度合い
 ⑤観察可能性:イノベーションのもたらす結果が他人の目に触れる度合い
●杓子定規なルールはイノベーションの成否判断には向いていない
●「みんなの意見」は案外正しい(「優れた個人」よりも)

第四章 イノベーションを起こせるリーダー、起こせないリーダー

リーダーシップとは「リーダーとフォロワーの関係性」「リーダーを取り巻く周囲の環境との関係性」の中で成立する概念。「リーダーの属性」として独立する概念ではない。
どんな状況でも通用するリーダーシップの在り様はない
文脈によって求められる最適なリーダーシップは異なる
→リーダーシップには複数の側面があり、それらの組み合わせをポートフォリオのようにコンテキストによって使い分けられるのが最も有能なリーダー
6つのリーダーシップスタイル(①⇔②、⑤⇔⑥)
指示命令型:言ったとおりにやれ=即座の服従
→いつまでに何をやるかを細かく指示し、進捗をチェック
ビジョン型:「なぜ」をわからせる=長期視点の提供
→なぜ、その仕事が必要なのかを背景や関連情報も含めて理解させる
関係重視型:まず人、次に仕事=調和の形成
→本人や家族の状況を気にかけ、情緒的な関係、人と人とのつながりを重視
民主型:メンバーの参画=情報の吸い上げ
→メンバーから意見を吸い上げ、意思決定の際に衆知を結集させる
率先垂範型:先頭に立つ=模範の提示
→仕事の進め方を行動で示し、困難の際には自ら対応する
育成型:長期的な育成=能力の拡大
→多少時間がかかっても、部下の成長を優先し、相手に合わせて指導やフィードバックを行う
●イノベーティブな会社では、②ビジョン型が一番多く、⑤率先垂範型が一番少ない(日本企業の平均では全くその逆)
●「その先(=共感を得るビジョン)」を打ち出せるリーダーがイノベーションには必要。ビジョンに求められる最も重要なポイントは「共感できる」ということ
リーダーの仕事とは究極的に「ここではないどこか」を指し示し、そこにむけてフォロワーをリードしていくこと
「ここではないどこか」へフォロワーを駆動させるために必要になるものは「共感」
自分も一緒にそこへ行きたい、そのために自分の能力を捧げたいと心の底から思うこと、つまり「フォロワーシップ」が生まれることで初めて、それと対になるリーダーシップが発現する。
●共感できるビジョンに関する3つの構成要素は「Where」、「Why」、「How」
●ビジョンは抽象的ではいけない。それがありありと目に浮かぶような喚起力のあるものでなくてはならない。
●ケネディのアポロ計画のビジョン
「Where」1960年代に人類を月に立たせる
「Why」現在の人類が挑戦しうるミッションの中で最も困難なものであり、であるがゆえにこの計画の遂行は、アメリカおよび人類にとって新しい知識と発展をもたらす
「How」民間/政府を問わず、領域横断的にアメリカの科学技術と頭脳を総動員して最高レベルの人材、機材、体制を整える
●グーグルのミッションステートメント
「Where」世界中の情報を整理し、誰もがアクセスできるようにする
「Why」情報の格差は民主主義を危うくするものであり、根絶しなければならない
「How」世界中から最高度の頭脳を持つユニークなタレントを集め、コンピュータとインターネットの力を最大限に活用する
●アップル
「Where」人類の知性にとって自転車になるような道具を、普通の人々に提供する
「Why」自由になるためには知性が必要である
「How」テクノロジーとリベラルアートの交差点をレバレッジする

第五章 イノベーティブな組織の作り方

●人材採用/育成/配置
○人材採用
・イノベーションの促進のためには「人材の多様性」が重要
・新卒一括採用は、類似性バイアスにより似たような人ばかりが集まる傾向がある→金太郎飴化
・面接で確認する「イノベーションに必要なスキルセット」
→「新しいアイデアへの情熱」を示し「創造性を発揮」し「人と違う考え方をしてきた実績」を確認する必要がある
○人材育成
・「個人の創造性」を「組織の創造性」に昇華させるには、個人のアイデアが組織内で流通し、別のアイデアと反応して化学反応を起こす社会的プロセスが必要
組織内の若手スタッフに対しては「常に自分の意見を持つ、口に出す」ように求める(=「ポジションを取る」)
・組織内のシニアスタッフに対しては「人に意見を求める」ようにしてもらう
○人材配置
・イノベーションの実現においてキーとなるコンピテンシーのスコアは、事業ドメインをまたがった異動経験の回数と正の相関がある
・イノベーションは「非専門家」によってなされている→「高度専門家」はiPhoneを作れなかったのはまさに「高度専門家」だったから
「経験をデザインする」→日本企業の人材育成はデザインするという発想に欠けている
「適性」と「仕事のマッチング」が大切
「動機」と「職務」のフィットが大事

●評価/報酬システム

○評価システム
・目標管理制度(MBO)の限界を知る。イノベーションの実現のように不確実性を高度にはらんだ営みの測定には適用できない。イノベーションは予定調和しないから。
→ひとつの方法として、業務内容に応じて評価システムを切り分ける。
→漸進的な改善業務については目標管理制度、イノベーションの実現というラジカルな業務については複数年の時間軸を用いて成果設定をしたり、プロセスではなく能力をベースにして評価するといった制度を適用する
○報酬システム
・予告された報酬が人間の創造性をかえって低下させる
イノベーターは「仕事の面白さ・楽しさ」で自分をドライブしている。イノベーターの多くは、達成そのものや世の中へのインパクト、社会的な意味といった「非経済的報酬」によってドライブされている。つまり「仕事そのもの」が報酬になっている。
・イノベーティブな人材を集め、彼らを動機づけするためには、インセンティブやボーナスなどの報酬システムに工夫を重ねるよりも、挑戦的でやりがいのあるビジョンを与え、思い切りその実現を追求できる環境を与えてやることが重要

●意思決定プロセス
○撤退基準
・組織のリーダーは「杓子定規なルール」を設定した上で、最終的には「イノベーションの開花」に関する直観に基づいて継続/撤退の意思決定を行うことが求められる
○コンセンサス
・コンセンサスを形成しようとすると非常に長い時間がかかり、その時間の間い、イノベーションの価値に気づいていない競合他社に対して「気づき」を与えることにもなる
過度にコンセンサスを重視する従来の日本型の意思決定システムから脱却し、リーダーがトップダウンで意思決定する必要がある
○新しい意思決定モデル
・ひとつの方向性は「集合知を経営の意思決定に活用していく」という考え方がある。
・もう一つの方向性は「意思決定権を思いっきり現場に振ってしまう」という考え方がある。
○ノイズ
「ノイズ」とは直接の関係者ではない部署や人物からの「余計なアドバイス」のこと。
→多く若手は「言われた以上は何か対応しなければ」と考えて対応策を考えることになり、結果的に「名ばかり管理職の意見がテンコ盛りにされた、意味不明な新商品」が産み出されることになる。
→経営管理や組織開発の責任者には、その性癖を念頭に置いた開発/意思決定プロセスのデザインが求められる。

●価値観
○多様性の尊重

・イノベーションを追求しようとする組織では、多様な意見が歓迎される風土を醸成することが求められる
→これは、「人と異なるということ、ユニークであるということをポジティブに評価する組織風土を作る」ということ。
「組織風土」とは「経験的に学習された行動・意思決定のパターンの集積」
自社において求められる思考様式・行動様式を「ウェイ」(その会社における価値観、あるいは推奨される行動や考え方を簡潔に明文化したもの。J&Jの「我がクレド」)という形に落とし込み、この「ウェイ」に沿った行動を報奨し、沿わない行動についてはペナルティを与えるといった取り組みが考えられる。

●リーダーシップ
○聞き耳のリーダーシップ
・革命的なアイデアを出す人物は「新参者」「新米」が多い
→ともすれば権力格差にふたをされ埋没しかねない彼らの「声」を積極的に取りに行くという「聞き耳のリーダーシップ」の発揮が求められる
○サーバントリーダーシップ
・環境変化の激しい世界では、現場で培った業務知識やスキルがあっという間に陳腐化する
→自分が引っ張るのではなく、部下が前に進むのを後ろからバックアップする、いわゆる「サーバントリーダーシップ」が求められる。
・しかし一方、社内外に培ったネットワークや業務以外の広範な知識、知見、リスクに関する直観的な嗅覚といった能力や資産は、今後リーダーが現場に対して提供できる貴重な支援材料になるはず。
○ビジョンの提示
・ビジョンを提示するのは、経営トップだけの仕事ではない。上の人間がビジョンを示さないのが悪いと言っている限り、その組織に人を鼓舞するビジョンが生まれることはない。
リーダーシップの本質は、役職や権限とは全く関係がない
ビジョンの提示は、企業トップのみならず、フォロワーをけん引する立場にあるすべての組織内リーダーに求められるもの

▶感想

イノベーティブな組織の作り方の具体策として、特に第五章の内容を1つ1つ、会社組織の仕組みに組み込んでいきたい。

以上です。

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