俺の日記(5) 映画『ダム・マネー』は日本人に向かない?
実家は月に1、2回映画を見に行く習慣があった。
邦画は特撮かアニメ、大半はハリウッド映画だった。
チョイスをする親父が「邦画はクソしかない」などと洋画至上主義だった事が大きい。
一度だけ「ハリーポッターと賢者の石」が公開される時に観たいと直談判したことがあるがそれ以外は親父に任せっきりであった。
映画はほぼビブレ宇多津(現イオンタウン)のワーナーマイカルシネマズで、たまに高松の映画館に行った。
劇場版Zガンダムはホールソレイユ、機動戦艦ナデシコはセントラル高松で観たような記憶がある。
セントラル高松も高松東宝も潰れてしまった今、ホールソレイユは1日でも長続きしてほしいものだ。
しばらくして大学に入ったら文化人かぶれがしたかったのかTSUTAYAで毎週5本名作映画(サイレント期含む)をDVDで借りて見ていた。
しかし流石に疲労が凄かったのか1年くらいでそういうのを終わらせた。
丁度成人して色々な誘惑に合法的に向き合える段階にも来ていたのもあった。
いつからかエネルギーを相場に全力で注ぐ日々を過ごすようになった。
トレードの息抜きの意味もありここ1、2年で少しずつ映画館に行く回数が増えてきたように思う。見てる間は他の余計な相場情報を見なくて済む。
上映代金が2000円になってからの事なのでタイミングは悪いのだが、大スクリーンかつ包み込むような音響で見る作品は格別のものがある。
今年最初に見に行った映画は『ダム・マネー ウォール街を狙え』である。
劇場は東京ミッドタウン日比谷の東宝シネマズである。
昨年は日比谷にゴジラ-1.0を公開初日に見に行ったが、エンディングロール終了後に拍手が起きた。
親父がモスラ対ゴジラ(1964年公開)でモスラがゴジラを倒した時に観客が拍手していたと言ってたが、試写会や映画祭以外で拍手が起こることがあるんだと圧倒されてしまったのである。
東宝シネマズだと新宿や上野の方がアクセス的に近いのだがやらないのだから仕方がない。題材的に少しとっつきにくいのかな?と勘繰ってしまう。
よく考えたら投資系映画はほとんど見たことがない。相場を張る者なら基礎教養である「ウォール街」「ウルフオブウォールストリート」も見てないし、あの「マネーショート」さえ実は見ていない。
唯一見たのが木曜洋画劇場でやってた「大逆転」だがエディ・マーフィーの演技しか覚えてない。
チケットをとったはいいが、本当に俺は席を立たず見切ることができるのか心配になってきた。
この映画の内容は『ローリングキティ』ことキース・ギル氏及び個人投資家陣(エッセンシャルワーカー、借金持ちの学生、金のないゲームストップ店員など)とヘッジファンド陣(主にメルビンキャピタル)の仕手戦である。
あの記憶に新しい「ゲームストップ事件」がテーマである。
話の展開としては一進一退の攻防というわけでなく主人公側が大体ヘッジファンドに優勢である。ピンチが苦手な人も安心して観る事ができる。
そりゃそうだ。
買いが押しまくらない限りあんなイカれた暴騰は生まれない。
話としてはそれぞれの登場人物の名前及び保有資産が紹介される。
主人公であるキース・ギル氏、俺はこの人を冴えないけど煽る力は超一流なトリックスターだと思っていたのだが実際は生命保険会社社員で資産も9万ドル弱あったのである。
普通に金持ってるじゃん!!!
とはいっても相手にするヘッジファンド達は余裕で億超えのアセットを持っているので、キース・ギル氏も十分『我々側』のキャラクターなのである。
映画は実際の出来事に即して進んでいくので、この事件を一通り調べた人なら流れと結論が大体分かってしまう。
そこを演出でどう乗り越えていくかがノンフィクション映画の生命線であるが、今回ストーリーにアクセントを加えているのがキース・ギル氏の弟である。
この弟はウーバーイーツみたいな類の食品デリバリーのバイトをしているのだが、オーダーされたポテトを食い漁るわドリンクもガブガブ飲むわのとんでもない野郎である。
投資の事もなにも分かっていない上に、兄であるキース・ギル氏に憎まれ口を叩いては親からたしなめられている。
大体こういうキャラは物語の後半でヘマをして主人公の労力を割くのがお約束なのだが、ところがどっこい実は弟のある言葉が物語のキーポイントになりラストまでの展開の大きなエッセンスになるのである。
舞台は2020年末~2021年初頭のコロナ禍真っ只中。
断絶しがちな社会でキース・ギル氏は個人投資家達との絆、そして弟をはじめとした家族の絆という2つのネットワークを武器に戦っていくである。これがノンフィクション性に彩りを加える部分である。
是非この点も注目して見てもらうと楽しめると思う。
このような痛快な下剋上を楽しめるのがアメリカ人であるが、しかし日本人は違う感想を持つらしい。
この日、東京ミッドタウン日比谷のスクリーン7には俺のよく知っている著名投資家が来ていたのだった。
鈴の音の様な声とギャルっぽい容姿、そしてリスク全無視の肉弾トレードで熱狂的支持を集めている「ごはっちゅうちゃん」である。
俺は一番後ろの席かつエンディングロールまで見る派なので、彼女が先に出てしまっていた可能性が非常に高いが新年の挨拶くらいはしたかったのが本音だ。
いたことも十分インパクトなのだが、それ以上に気になった部分が彼女の「空売りで死にかけた」という部分である。
そうだ、日本の投資家達は空売り大好きなんだった。
どこかのニュースソースかは忘れたが、アメリカ人や中国人が高値でもガンガンに株を買う一方で日本人は空売りを入れてしまう傾向があるようだ。
この映画では敵役であるメルビンキャピタル(のケイブ・プロトキン氏)が日々積みあがっていく含み損に段々と焦り苦しみ、冷静さを欠いていく様子が克明に描かれている。
余裕ぶっこいてるヘッジファンドが格下に見ていた個人投資家集団に一泡吹かされるのがストーリーの一つの目玉だ。
しかし、ショートポジションを持っている(or 持ってて爆損した)人がこの映画を見ると演出が逆に作用して心苦しくなってしまうのではないかと危惧する。
特に物語の途中で妻からいくら損したのか聞かれたプロトキン氏が大汗をかきながら伝えるシーンについては、ショーターも心をかき乱されてしまい途中退席してしまうかもしれない。
ゲームストップを始めとしたあの頃のミーム株ムーブメントの空気を味わっていた人なら「そうそう、こんな感じだった」と頷きながら楽しめる事が出来るこの作品。
是非この映画を見に行く際は空売りポジションを整理し、過去のトラウマがある人は思い出さないようビールを2本くらい買って酔っぱらいながら鑑賞する事をオススメしたい。
なお物語の山場として描かれている「ロビンフッド売買停止事件」について一つ話しておこう。
この時俺はミーム株ムーブメントに乗ろうとSYNとかいうよく分からない安い株を購入した。
すると購入してほどなくして売買停止のアナウンスが出て、SYNはどんどんと下がっていったのである。
異様な興奮とその後のパニックで顔が滅茶苦茶火照っていた事を覚えている。
当時自分が作っていたブログの記事を見る限り、暴落フラグは何個もビンビンに立っていたようだ。
ミーム株シリーズで今後も映画を作る企画があるとするなら、第二段はゲームストップと並び称されたあの映画会社 AMCの株を巡るストーリーになるだろう。
その場合はAMCを歴史的大天井で掴んでしまった俺にも出演オファーがこないだろうかなあ・・・、などとアホな妄想をしながら今日も日が暮れていくのであった。