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エスカレーター事故を防ぐビジネスが育つまで
はじめに
UDエスカレーターの代表取締役をしております、江本と申します。
前回のブログで記述した「安全と収益を掛け合わせたソーシャルビジネス」を育てていくために、実際には何をしてきたのか、その軌跡を綴りたいと思います。
UDエスカレーターを設立したのが2019年11月、その2ヶ月後に日本で新型コロナウィルス患者が初めて確認されました。「エスカレーター手すりの表示媒体化」という新しいジャンルのビジネスとしては強い逆風の中、UDベルトの提供を開始しました。
私たちが提供するサービスは、UDベルトと言います。UDはユニバーサルデザインの略称です。エスカレーター手すりベルトをユニバーサルデザインが施された特殊ウレタンシートで覆うことにより、転倒事故を78%防止しつつ広告掲出も可能になる多機能シートです。
その鍵となるのが、シートにデザインされた目立つマーク(ゆうどうマーク)です。これにより、エスカレーターの方向、速度を把握しながら、身体バランスを整えることができるのです。
当社の転倒防止技術は、JR東日本との共同出願特許です。現在、エスカレーター救急搬送者は、東京都内でだけで平均1日3件以上、年間1400名に及びます。人口比率で計算すると、日本全国で年間1万名以上が、エスカレーター事故により救急搬送されています。事故原因で最も多く占める転倒事故の8割を防止できるUDベルトは、疑いもなくエスカレーター所有施設に受け入れられるものだと楽観的に考えていました。安全を守るというニーズはコロナ禍でも変わらないと考えていたのです。
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積み上がらない実績
新型コロナウィルスのパンデミックがWHOより宣言される中、エスカレーターを所有する施設は、感染症対策や売上減少の対応に忙殺されていたのは事実です。
創業当初は、1万基に及ぶエスカレーター所有施設リスト、提携可能先を独自に作成、リストの上から順に、UDベルト導入への電話がけを来る日も来る日も行いました。多くの施設は、「とても良いもので興味あります」という第一声でしたが、コロナ禍で新しいサービスの導入に手が回らないことやシート施工料金がハードルとなり、安全効果だけでは導入は難しいと断れる日々でした。
予想に反して、遅々としてUDベルト導入は進まず、ただただ膨大な電話がけで時間だけが過ぎていきました。専門書でエスカレーターの構造、安全システム、日常点検、保全、マーケット状況を日々勉強しながら、産官学の実証実験で積み上げた過去のUDベルトの実証データの整理、クライアントへの訴求資料を日々ブラッシュアップしていきました。地道に積み上げていくしかなかったのです。
しかしながら、コロナウィルスは猛威をふるい、ビジネス面での負の影響は大きくなっていく一方でした。
そこで、一計を案じたのが、「コロナ啓発媒体としてエスカレーター手すりを利用する」という切り口を訴求することです。ゆうどうマークというのは、そもそも利用者の視線を手すりに集中する技術です。マークの強い視線集中効果を利用しながら、通勤、通学、お買い物の反復導線上にあるエスカレーターで感染症防止啓発を行う、という切り口を訴えることを突破口にしようと考えました。限られた資金の中、紹介動画も作成し、再度営業を開始しました。
動画「感染対策への利用」
これにより、設立から約9ヶ月後、初めて西武新宿駅直結商業施設でUDベルトが採用されました。その翌月には、地下鉄仙台駅、その2ヶ月後に東宝新宿ビル内で、現在のコアとなる採用実績が積み上がってきました。
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この実績を横目に、UDベルトの安全効果を高く評価いただいたのが、東京都理学療法士協会でした。東京都理学療法士協会は、「エスカレーター止まって乗りたい人がいる」というキャッチフレーズを作成するなど精力的にエスカレーターのバリアフリー化を推進しています。すぐに、練馬区役所をご紹介いただき、当社を含めた3者共同の取り組みとして、エスカレーターの安全を担保するUDベルトを練馬区役所内に導入いただくと共に、安全効果の検証も改めて行いました。私たちの特許による随意契約で、地方自治体としては初めての導入事例となりました。
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アセットマネジメントという発想の転換
しかし、ここでまた大きな壁が立ちはだかることになります。ベルトは耐久性や美観の問題から半年に一度交換するのが基本なのですが、一定期間以上継続されにくいのです。安全・啓発効果で一旦採用いただいても、施設側の費用負担を強いるビジネスモデルでは、持続的にUDベルトを維持いただくことは難しいことを実感しました。
「事業としてこのまま終わっていくのだろうか?」という不安から、眠れない日々を過ごしました。
転機は2021年11月、東京都中小企業振興公社の事業性可能性評価で、「エスカレーター事故防止を目的とした手すりアセットマネジメント事業」というタイトルで、「事業可能性あり」と認定されたことでした。
練馬区の施工が終わってから、長くクライアントが見つからない中で、ビジネスの持続性を確保するために考えたのが、手すりを収益化する、という発想でした。つまり、施設側の安全に関する施工負担をゼロにし、さらに収益を得ていただくモデルに切り替えたのです。
安全という価値を無理なく普及させるには、これを目指すことが売上につながるという環境を整える必要があります。もともと構想にあった、手すりをメディアとして捉え広告掲出を本格的に行う覚悟を、この認定を受けて持つことができました。
もちろん、私たちは広告代理店ではありません。当社のビジネスポジションとして思考した挙句、自分の腹にストンと落ちたのが「アセットマネージメント」です。アセットマネージメントというと土地や建物を収益化するための運用ポジションを指します。つまり、私たちはエスカレーターの手すりという資産を運用する立場で、安全を守ることを起点とした多面的な収益価値を提供する独自のポジションを確立していくことにしたのです。
安全×広告モデルの開始
その認定から2ヶ月後、初めて広告スポンサーをつけたUDベルトを東宝新宿ビル内エスカレーターで施工しました。広告代理店ではない私たちが広告主を見つけるためにやったことは、足が棒になるまで歌舞伎町の飲食店をチラシ片手に、繰り返し訪問することでした。訪問店舗で飲食をし、店員、店長と仲良くなり、安全効果と広告効果を愚直に説明していくという繰り返しです。
結果的には、5社に掲出していただきました。この東宝新宿ビル内の広告は、6ヶ月毎に広告主を入れ替え、もう15ヶ月以上絶えず掲出されている媒体となっています。
この体験は、私たちの大きな自信となったと同時に、またもや大きな課題をもたらしたのです。
それは、広告主獲得の持続性です。私たち独力でも、時間とコストをかければ広告主は積み上がっていきますが、コストパフォーマンスからビジネスとしては成り立ちません。つまり、広告代理店を含めた販売パートナーと強固な関係を築いていく必要があります。
UDエスカレーター設立当初も、広告代理店とは情報交換していました。当時は、特に大手広告代理店が取り扱いを行うには、「媒体としての認知度と単価が低い」と言われていました。しかし、設立当初から状況は変わっています。今なら広告代理店が売りたい媒体としてアピールすることが可能だと感じました。まずは、“面”で掲出可能先を開拓していくため、設立当初行った施設への電話営業を本格的に再開しました。
以前の営業時と違うことは、施設側のUDベルト導入費がゼロであることの根拠となる広告実績ができていることです。この変化により、設立後約2年間かけても10件に満たなかった掲出可能エスカレーターを、1年足らずの営業で約300件まで増やすことができました。
また広告効果についても当社内で実績、検証を積み上げてきました。
東宝新宿ビル内エスカレーター施工後調査では、広告内容を認識した人の内、平均52%が店舗を利用していました。
名鉄百貨店での8F店舗誘導効果の調査では、広告内容を認識した人の内、60%が店舗を訪問しました。
東宝新宿ビル内エスカレーターデザインが「販促会議」にも取り上げられました。
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エスカレーターの強みは、主要導線上にあるメディアであるため、人流を作れるという点にあります。また一覧性と利用者追従性のある長い手すり広告は、今までにないクリエティブを生み出せる可能性を秘めています。この積み上げの中で、当初は関心を示していただけなかった広告代理店や営業会社とも、積極的な事業連携に向けて交渉を進められることが多くなりました。
広告代理店との連携
広告代理店との連携として、最も早かったのは京王エージェンシーです。
2022年に、京王線八王子駅におけるユニバーサルデザイン企画として、地元ラグビーチームがスポンサーとなりUDベルトが採用されました。
プレスリリースにてラグビーチームからはこのようなコメントをいただいています。
「日野レッドドルフィンズは様々な社会貢献活動を展開する中の一つとして、『交通事故ゼロプロジェクト』を展開しており、SDG’sにある「住み続けられるまちづくりを」を目指して活動を行っております。エスカレーターも人の移動を助ける交通手段の一つであり、京王八王子駅をご利用される多くの皆様が、事故なく安全にエスカレーターをご利用いただけるよう、今回の取り組みに賛同し協力させていただきました」
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そして2023年10月には京王新宿駅でオプテージが広告主となり、ユニークなデザインをUDベルトとして採用いただきました。さらにまた別の京王電鉄駅で年内施工予定が入っています。
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来年には、新たな広告代理店、鉄道会社や商業施設、スポーツチームとともに、移動する人々の安全を守る取り組みの中で、毎月必ず施工実績を出すことを目標としてスケジュールを埋めています。
更なる資産運用価値を高める
安全×広告モデルの広告効果部分をより高めるため、私たちのビジネスモデルが確定したタイミングで、「エスカレーター専用NFCタグ」の開発を開始しました。
NFCタグは通常携帯に搭載されているNFCリーダーと非接触で通信を行い、情報を読み取るものです。代表的な例として交通系ICカードなどが挙げられます。NFCタグを手すりとシートの間に挟み込むことで、手すりに携帯をかざすだけで電子情報を読み取ることができる世界を作れます。
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例えば、エスカレーターを降りた先にある店舗の電子クーポンを受け取れたり、施設内を回遊していただくための電子スタンプラリーの媒体として利用したりと、様々な使い方が想定できます。さらに、広告コンテンツはクラウド管理でデータ変更していけるので、朝・昼・晩と内容を変化させることも可能になります。
また、電子クーポンは使用履歴の管理が容易なので、広告を出すために広告費を支払うという既存ビジネスモデルから、無料で広告を掲載いただく替わりに電子クーポンと紐づいた売上をシェアするというモデルも考えられます。
このような開発は安全面でも着手しています。例えば視覚障害者の方がより安全にエスカレーターを利用するためのシステムを、UDベルトとの連携により開発できる可能性も議論しています。
私たちが忘れてはならないこと
私たちと手すり利用のための契約を締結しているほとんどの施設は、広告価値もさることながら、安全のための広告という社会貢献価値に共感していただいています。しかしながら、プロジェクトが進んで行くごとに、主従が逆になる、つまり広告第一で安全はその次となり、ゆうどうマークをデザインに取り込まない事例も稀に出てきています。
このことは、実は私自身が社内で口を酸っぱくして伝えていることでもあります。確かに、収益をもたらすのは広告主/協賛者であることは間違えありません。しかし、UDベルトは広告ベルトではないのです。安全を持続的にするための一つのツールとして広告モデルを取り入れているだけに過ぎません。それは大義を持続的にマーケットに取り込ませる一つの手段です。
そもそも、私がこの技術を引き継いでUDエスカレーターを創業したのは、そこに大義があったからです。安全を目的としているからこそ、広告に目を向けていただけるという大前提は、私たち自身が心に刻むべきことです。
“人に優しく、社会に優しく、その結果として売上は必ずついてくることを身をもって証明したい。”
私たちは覚悟を持って、安全の普及を達成するための高収益ビジネスに立ち向かいます。まだまだ若いベンチャー企業ですが、これからも応援お願いします。
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一人でも多くの方にこの価値を感じてもらうことを目指して、株式投資型クラウドファンディングに挑戦しています。
応援どうぞよろしくお願いいたします。
https://ecrowd.co.jp/projects/27
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