Talk-Night表紙_03-1

#03 饗庭伸×田中元子×水野祐①人口が減ると都市はどうなるのか

書籍 『アナザーユートピア』(NTT出版)を起点として、これからの街づくりのヒントを探るトークイベント「Talk Night オープンスペースから街の未来を考える」。2019年12月3日に開催した第三回目では、「広場と空き家から考える街のあり方」をテーマとし、首都大学東京教授の饗庭伸氏、株式会社グランドレベル代表取締役の田中元子氏、弁護士の水野祐氏をお招きしてお話を伺いました。(全5回)
▶② 1階をひらいて、街に賑わいをつくる 田中元子
③ 法が街づくりを加速する 水野祐
④ 街のオープンスペースはどこにあるのか
⑤ 街づくりの思想をいかに鍛えるか

――第3回目となる今回は、「広場と空き家から考える街のあり方」をテーマに議論していきたいと思います。人口が減少し、経済が低成長状態の日本では、お金も人材もない中で社会を回していかなければならないという課題を抱えています。人口が減れば、これまで使われていた空間も過剰になり、適切なサイズに調整することが求められます。今日は、オープンスペースを今までのように一からつくるのではなく、人口減少によって生じたスペースを、いかに使い、都市のストック活用をしていくかということを議論できればと思います。

 まず、首都大学東京教授の饗庭伸さんに本日のテーマの土台となる考え方を共有していただきたいと思います。饗庭さんは、『都市をたたむ――人口減少時代をデザインする都市計画』という、まさに今回のテーマを扱った本を出版されています。

都市にとって〈過密〉と〈過疎〉とは?

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饗庭:こんばんは。今日は、人口が減っていくと都市がどう変わっていくのか、ということを中心にお話ししていきます。

この図は、人口と都市の関係をダイアグラムで示したものです。縦軸が人口の多さ、横軸が都市空間の大きさです。

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歴史の中で日本の都市をながめて、規模も大きくない、人口3000万人くらいだった江戸時代・明治維新の頃の〈状態1〉から、現在の1億3000万人が暮らす〈状態3〉の都市へと、150年間くらいかけて歩んできました。では、これからどうなるのかというと、人口の減少にともなって、〈状態3〉から〈状態1〉へ戻っていくことが予想されます。これも150年くらいかけて、歩んでいくことになるのだろうと思います。

ただ、成長期の都市は、〈状態1〉から〈状態3〉へとまっすぐには行かず、途中で何度か〈状態2〉へと寄り道をします。これは、人口が先に増えて、都市の空間が足りなくなった「過密」状態です。過密は都市にとって大問題でして、伝染病が蔓延したり、災害で火災が起きたりと、弊害ばかりなので、都市計画はこの150年間、道路や公園の整備、日照の確保といったさまざまなことをして、道を逸れずにまっすぐ進むようにしてきました。そうして、なんとか過密から脱したのが今のわれわれの都市です。

これからの日本の都市は、〈状態3〉から〈状態1〉へ戻っていくのですが、今度は〈状態4〉に寄り道をすることが予想されます。つまり、人が先に減って空間が余る「過疎」の状態です。寄り道をして、空き家が目立つ状態が100年くらい続くかもしれないし、あるいは道に迷ったまま〈状態4〉に落ち着いてしまうかもしれません。そんな可能性があるので、都市計画家たちは過疎を顕在化させない術を考えています。

ただ、そこで、一つ大事なことは、過疎においては、伝染病は流行らないし、火災が燃え広がることもないので、過密に比べるとあまり問題がないということです。犯罪が増えると煽る人もいますが、僕は日本の中でそんな状況を見たことがありません。そういう人が参照しているのは、もともと治安の悪い海外の都市です(笑)。ですから、過疎が実際に都市にどういう影響を及ぼすのか、きちんと見極めることが重要です。

では、空間はどうなるのか。これから起きる過疎は、空き家や空き地がポコポコと増えていくスポンジ化という現象として現れます。都市の外側の建物がどんどん古くなり、内側にどっと人が集まってくれば問題なくコンパクトシティが実現したのかもしれませんが、実際は、外側に行けば行くほど新しい建物が建っているわけなので、内側が古くなっていきます。内側も一様に古くなるわけではないので、あちこちに空き家や空き地が生まれることになる。これを都市の「スポンジ化」と呼んでいます。

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トップダウンの「法律」、ボトムアップの「制度」

饗庭:今日は弁護士の水野祐さんがいらっしゃるので、法律の話とかかわる、都市計画の権力がどう変化するかということにも触れたいと思います。みんなのための公園をつくるから立ち退いてくれと、強い権力とともに実現しようとするのが「法」による都市計画です。法は「行為の制限」と定義されるのですが、上から目線で、権力をともなうのが法の本質です。

他方、同じことでも、町内会の人たちが話し合って、土地とお金を出し合ってみんなのための公園をつくることもあります。それを可能にする地域の仕組みを「制度」と呼びます。いわば制度による都市計画ですね。制度は「行為の肯定的な規範」と定義されるのですが、ボトムアップで、自発的に「みんなで守ろうよ」「助け合おうよ」というような原理に貫かれているのが制度の本質です。

上からの法と下からの制度、そのバランスがどう変わるか考えてみましょう。

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図の1番目は、何もない状態です。人がいないので法も制度もない状態。2番目は、都市に人が住み始めた状態、ちょうど明治維新の後くらいの東京をイメージしてください。都市に人口が集中すると、そこに集まった人たちは初めから仲が良いわけではないので、都市計画と法で押さえるしかありません。そこから人々がだんだん仲良くなると、町内会をつくったり、住民運動を起こしたり、自分たちでいろんなことをするようになる。すると、法だけの状態から、法と制度の両方が多い状態になっていきます。おそらく、今の日本はこの状態です。

ここから先、法はだんだん必要とされなくなって、地域住民が自治を進め、制度だけが多い、いわゆる「民主主義」的な状態になるのか。はたまた、人も行政も減った中でどう変化していくのか。そこが論点になると思っています。

少し前に、大学の研究室で、近所の団地に、自治会の人たちと小さな広場をつくったことがありました。これは、法を使わずに制度だけでつくった都市計画とも言えます。法がなくなり、制度だけの状態になったときに増えていくのは、こうした手づくりのものではないかと思います。

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これからの都市計画を担うのは誰か?

饗庭:最後に、これから誰が都市計画をしていくのかということを考えたいと思います。都市計画は、「政府」と「市場」と「コミュニティ」の三者によって担われています。「コミュニティ」という言葉は多義的なのですが、ここでは地縁によって結びつくコミュニティと、目的によって結びつくアソシエーションを含む言葉として使っています。町内会、自治会とNPOをあわせたようなイメージですね。コミュニティは活発であると思いますが、その影響力は局所的で、政府と市場が大体をコントロールしているのが、今の日本の状態といって良いでしょう。この三者で合意形成をし、まちづくりや都市計画が進められていますが、これから人口が減る中では、この3つの力が全体的に弱くなっていくだろうと僕は考えています。図はその変化を描いています。

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まず、コミュニティがかなり減っていくでしょう。今でも、高齢化もあり活動が成立しなくなっている自治会が数多くあります。市場も、基本的にはお金が動くところでしか活動できないので、活動できるフィールドが減っていくはずです。政府はギリギリまで頑張ろうとするでしょうが、税収も減り財政破綻が起きたりして、やはり影響範囲が小さくなります。

そうなったときにバックアップとして出てくるのは、家族や民族や宗教のような別の共同体なのではないか、と僕は考えています。太陽と星空の関係に喩えると、昼間は、太陽の光が強いから星は見えません。でも、星がないわけではなくて、太陽が沈めばたくさん見えるようになる。

同じように、今は政府と市場とコミュニティの光がすごく強いので、家族や民族、宗教が果たしている機能は見えてきません。しかしながら、政府や市場やコミュニティという陽が沈んだ後に見えてくる星空は、きっと家族や民族、宗教のようなつながりなのではないかと思います。そして、そのような共同体が担い手となる都市計画、そこに可能性があるのではないかと興味を持っています。

日本人はもともと民族のつながりが弱いので、家族的なものと宗教的なもののつながりが相対的に強く見えてくるでしょう。ですが、それすら縮小すると、誰も何もしない場所がたくさん現れてくるでしょう。今は、政府、市場、コミュニティ、家族、民族、宗教というそれぞれの視点がきれいに重なっていますが、きっとそれがバラバラになっていく。家族が支配しているところ、コミュニティが支配しているところ、コミュニティと市場ががっちり協力しているところ、政府だけが支配しているところ等々、重なり方もバラバラになるのだろうと思っています。

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→次回 饗庭伸×田中元子×水野祐
②1階をひらいて、街に賑わいをつくる


日時場所
2019年12月3日(木)@シェアグリーン南青山
主催
NTT都市開発株式会社 デザイン戦略室
撮影
高橋宗正
グラフィックレコーディング
藤田ハルノ+津布久遊 (テクストの庭)