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#03 饗庭伸×田中元子×水野祐③法が街づくりを加速する

書籍 『アナザーユートピア』(NTT出版)を起点として、これからの街づくりのヒントを探るトークイベント「Talk Night オープンスペースから街の未来を考える」。2019年12月3日に開催した第三回目では、「広場と空き家から考える街のあり方」をテーマとし、首都大学東京教授の饗庭伸氏、株式会社グランドレベル代表取締役の田中元子氏、弁護士の水野祐氏をお招きしてお話を伺いました。(全5回)
▶① 人口が減ると都市はどうなるのか 饗庭伸
▶② 1階をひらいて、街に賑わいをつくる 田中元子
▶④ 街のオープンスペースはどこにあるのか
▶⑤ 街づくりの思想をいかに鍛えるか

法律家がなぜ都市にかかわるのか

――最後に、弁護士・法律家の水野祐さんです。法・法律というと、制約や禁止といったイメージがあると思いますが、水野さんは、むしろそれを逆手にとって、法律や規制がクリエイティビティやイノベーションを加速すると主張されています。それを「法のデザイン」あるいは「リーガルデザイン」と呼ばれ、法のイメージを刷新する活動をされています。

水野:普段はスタートアップから大企業まで、新しい事業に取り組む企業の法律的なサポートをしています。今日は、饗庭さん、田中さんの強力なプレゼンの後に、なにを話そうかと迷っていますが、不動産や建築、まちづくりや都市計画といった文脈でどんな仕事をしているかお話しして、最後に、今自分なりに興味があることに触れられたらと思います。

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まず、田中さんのように、都市や街で今までにない面白いことをしようとする人たちが、規制やルールの壁にぶつかったときに、法的な視点から、その壁を乗り越えるためのロジックを一緒に考え、行政やその他のステークホルダーを説得する仕事をしています。

企業法務の中で、これまでも建築不動産にかかわる法律相談や契約書の作成といったいろいろな業務をしてきたのですが、ある時期から、空き家や空室、都市の公共空間を利活用したサービスをやりたいという相談者が増えてきました。近年は、どうしたらそれを実現できるかを事業をつくっていく段階から一緒に考えていく仕事が多いです。

たとえば、古い建造物のリノベーションひとつとっても、建築基準法や消防法といったいろいろな法規制があります。ですが、今の日本の法律は、リノベーションを前提にしていません。「新築至上主義」という言葉もあるように、1回更地にして新しい建物をつくることが原則で法制度ができています。それゆえ、旧建築基準法を前提とした建物の豊かなボリュームを残したい場合でも、いわゆる「既存不適格」となってしまい、そもそもリノベーションできなかったり、リノベーションの方が新築よりコスト高になるパターンが非常に多いです。また、本来なら残せるはずのものでも、オーナーや事業者にそういった知識がないために、壊さざるをえないという場合もあります。そうしたときに、事業者やオーナーさんと一緒に、法律的なハードルをクリアしていく方法を検討しています。

私の仕事は、饗庭さんのように都市計画の方から街を考えるというよりは、田中さんのように、一つの場所を起点に広げていく方向で頭を巡らせてきたのですが、そういうことをしているうちに、単体の建築物だけではなくて、その周辺や街をどうしていくかという話に発展していきました。行政から建築基準法をどう変えたらいいのか、都市計画法をどう変えたら面白くできるのか、といった具体的な部分でアイディアを求められるケースが増えてきて、今は自治体や政府のアドバイスをする機会も増えてきています。

ボトムアップの法律づくりの可能性

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水野:自分としても、都市計画のこれからには興味があります。饗庭さんも参加されている『白熱講義 これからの日本に都市計画は必要ですか』をはじめ、都市計画の研究者や実践者の方による本が、最近いくつか出ています。

都市をたたんでいく時代に、マスタープランと呼ばれる大きなビジョンに基づいた、トップダウン的なアーバニズムの考え方が果たして機能するのか。日本の政府がこれまでつくってきた法律は、過密化して、膨れ上がる市場性を押さえこむためのものだったけれど、その必要がなくなったときに、法や都市計画は邪魔になるのではないか。そんなふうに、都市計画家たちが、都市計画は必要なのかというそもそもの前提を問う、内省モードに入っているような印象があります。

それでも都市計画家は要る、という考え方が饗庭さんの実践なのだと思いますが、一方で、こうした議論では、規制緩和だけすればいいとか、法律はもう要らないという考えになりがちです。ですが、私は法律家として、田中さんのようなボトムアップの動きを促進するような法律のデザインもあるのではないかと考えています。饗庭さんの先ほどのプレゼンで言えば、「制度」をより促進するための法律や契約のデザインと言うことができそうです。

『法のデザイン』という自著の中で、「リーガルデザイン」という考え方を提唱しています。そもそも法律のつくり方として、「余白」や「コモンズ」をあらかじめ設定していく必要があるのではないかと主張しています。

建築や不動産、都市の領域に限ったことではありませんが、一番重要なのは、田中さんが主張される「マイパブリック」のように、ルールを自分ごととして考えていくことです。トップダウンで、政府や自治体に任せきりにするのではなく、ボトムアップのルールメイキングをもっと重視していくこと、その方向性を「リーガルデザイン」という言葉を使って、いろいろと模索し、実践しているところです。

法律や契約には、行動や行為を制限するものというイメージがあると思います。確かに、その機能が法の重要な側面であることはこれからも変わりません。ですが、「補助線のデザイン」、あるいは飛行機を離陸させる滑走路のように、クリエイティビティやイノベーションと呼ばれるものが生まれていく地ならしとして、法をうまく設計できるのではないか、というのが私の提案です。

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→次回 饗庭伸×田中元子×水野祐
④オープンスペースは街のどこにあるのか


日時場所
2019年12月3日(木)@シェアグリーン南青山
主催
NTT都市開発株式会社 デザイン戦略室
撮影
高橋宗正
グラフィックレコーディング
藤田ハルノ+津布久遊 (テクストの庭)