その主張、ほんとに正しい?
理論武装 : 「論理」「確率」「統計」
自分の主張に説得力を持たせたいと思った時、どのように工夫したら良いだろう。感情やストーリーで共感を誘う、人間らしい方法もある。その一方で、いくつかの理由から自分の主張が正しい、と理論武装する方法もある。そのようなロジカルな主張は、誰でも同じ結論になる普遍性が魅力だ。ただしロジックが正しい場合に限るので、ロジックの正しさが最重要点になる。自分もゲームに関連して考察することが多い身として、間違いやすいポイントについて整理してみる。
整理するといっても、ロジックには様々な手法がある。ここで考えたいのは、感情がないコンピューターでも再現できる方法だ。例えば、25万部のベストセラーとなった『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』という本では、知能をコンピューターで扱う方法が「論理」「確率」「統計」の3つだけであると紹介されている。この3つの軸が、ロジックを整理するのにちょうど良さそうだ。
(「論理」「確率」までは、中学の数学~高等学校の数学Aのレベルであって、大半のオトナが分かっているべきの内容だ)
論理の間違い
「論理」について、ここでは論理学・演繹法と呼ばれるような論法について考える。つまり、前提が正しいのであれば、必ず結論が正しくなる論法のことだ。数学の証明に使われるような手法、と言えばイメージしやすいかもしれない。初学者向けに論理学を解説している『入門!論理学』では、いくつか間違いやすいパターンが紹介されている。
否定に逆の意味まで持たせてしまう (曲解)
間違いの例 : 「好きではない」とは「嫌い」という意味である (※正しくは「好きでも嫌いでもない」も含む)
間違いの例 : 「正しい根拠がないので間違っている」 (※正しくは「正しいか分からない」)
逆・裏も正しいと主張してしまう
逆も正しいとする例 (それさえすれば全部できる論法) : 「東大合格者 は 1日10時間勉強していた」ので「1日10時間勉強する なら 東大に合格できる」と言える
裏も正しいとする例 (それさえしなければ何しても良い論法) : 「万引きした なら 犯罪」なので「万引きをしない なら 犯罪にならない」と言える
確率の間違い
「確率」を使うと、まだ決まっていない未来についての起こりやすさを表現できる。日常での例が豊富な『眠れなくなるほど面白い 図解 確率の話』を参考に、間違いやすいポイントを挙げてみる。
起こりやすさが違う選択肢を並べて考えてしまう
間違いの例 (宝くじ50%論法) : 「宝くじは当たるか当たらないかなので、当たる確率は50%だ」
過去の結果に影響される
間違いの例 (バランス理論) : 「コインが3回連続で表だったから、さすがに次は裏だろう」 (※正しくは常に50%で一定)
何回も行った時の全体の確率を間違える
間違いの例 (何回も引けば、ほぼ当たる理論) : 「当選率1%でも、100回引けばほぼ当たる」 (※正しくは約63%しか当たらない)
モンティ・ホール問題
情報が開示されると気が付かないうちに前提が崩れていることがある (選択肢の中身が変わっていることがある)
事前確率と予測精度の問題
予測結果の正しさは、そもそもの状況 (検査前確率) の影響を受ける
結果 (陽性/陰性) によって正しさが違う
(ちなみに、1/nの確率をn回行った時に1回でも発生する確率は、nが大きくなっても63%ぐらいのようだ)
統計の間違い
データ (結果, 経験) から、一定のパターンを見つけるのが統計だ。分析に使ったデータが根拠になる。そのため、データが不適切な場合、結果も不適切になってしまう。演繹や確率のような、絶対的な正しさはない。そのような事情もあって、正しい結果を得るための工夫がいくつもある。(だから、統計学は難しい)『「原因と結果」の経済学 データから真実を見抜く思考法』を参考にまとめてみる。
データ集め・分析の間違い
データ数が足りない (大数の法則 : 多いほど正しい確率に近づく)
間違いかもしれない例 : 「コインを10回投げて表が7回出たので、表が出る確率は70%だ」
データが偏っている (方法の問題, エビデンスレベル)
解釈の間違い
交絡因子の見落し : 原因・結果に影響する別の要因がある, 直接関係ない
間違いかもしれない例 : 「キュウリを多く食べるほど血圧が高い」 (※キュウリにつける味噌や漬物の塩分 (交絡因子) が問題かもしれない)
原因と結果が逆 : 「AとBが同時にあることが多い」しか言えない (「Aの結果Bである」という原因・結果の情報は含まない)
間違いかもしれない例 : 「交番を少なくしたほうが犯罪が減る」 (※犯罪が少ないから交番が少なく済んでいるかもしれない)
(見せかけの相関 ... 色々工夫しても、単なる偶然である可能性は論理的には拭えない)
論破のためのチェックリスト
「論理」「確率」「統計」の3つの軸で、武装している理論が間違いないかチェックした。あらためてチェックリストとしてまとめる。ロジックの間違いを指摘するのに役立つかもしれない。
(そもそも、主張に根拠・理由があるか)
論理のチェック 「絶対~だ」
否定「~ではない」を理由に逆の意味を持たせる "曲解"
逆「BならばA」が理由 "それさえすれば全部できる論法"
裏「AではないならBではない」が理由 "それさえしなければ何しても良い論法"
確率のチェック 「~したほうが良い」
選択肢の起こりやすさが揃っていない "宝くじ50%論法"
過去の結果に影響されている "バランス理論"
統計のチェック「~したほうが良い」「データによると~」
データが足りない
データ集め・解析の方法の信頼性が低い
交絡因子を見落としている (直接は関係ない)
原因と結果が逆
なお、「論理」の項目で書いたとおり、ロジックが間違っているからといって、結論が間違っているとは限らない。もっとも、結論の正しさをロジカルに示してもらうには、相手にロジックを練り直してもらう必要はある。
でも、そんなの屁理屈だ
実際にロジックを検証してみると、ロジックがない/正しくない主張が多いかもしれない。むしろロジックだけでは確実に言えることが少なくなってしまう。
では、多くの主張はどうやって「正しそうな感じ」が演出されているのか。それが、この記事のはじめに書いた「人間らしい手法」である。つまり、人間の判断のクセを利用する手法だ。「行動経済学」というジャンルで、人間の判断・意思決定のクセについて研究されている。
直感とロジック・分析を組み合わせて判断している
直感 (システム1) : 無意識・楽, 早い, 分かりやすさ重視
分析 (システム2) : 頭をつかうので疲れる, 時間かかる, 正しさ重視
システム1を使いたがる
分かりやすいものを重視しがち
感情
具体例, ストーリー, たとえ話
目先の出来事
ピークとラスト (ピーク・エンドの法則)
相対評価しがち
単位が大きくなると、変化を小さく見積もる
(感応度逓減性 : 300万円の買い物の際に1000円単位に無頓着になる など)
ロジックを分かりやすい形に曲解
「ランダム」として理解しない, 言及していない因果関係を見出す (ストーリーを作り出す)
確率の違いを無視/過大視 (「ほとんど」で置き換える)
人間は分かりやすい (イメージしやすい) ものを重視しがちで、油断するとそれがロジカルに正しいと誤認することすらある。
これは会話術や文章術としてもよく利用されている性質だ。コミュニケーションの基本は、ロジックではなく分かってもらいやすさ重視だからだろう。正しさを重視するときはロジックのチェックは必須だが、そうでない文脈で持ち出してしまうと、ただの屁理屈として煙たがられるだろう。
誰かの主張を批判する時は、その人がコミュニケーション目的で発信しているのか、正しさを検証されるべき場面で覚悟を持って発信しているのか、そこを見極めたい。(やたらと論破しにかかるのはコミュニケーションとしてイマイチだ)
参考図書
新井 紀子. AI vs. 教科書が読めない子どもたち. 東洋経済新報社; 2018.
野矢 茂樹. 入門!論理学. 中央公論新社; 2006.
野口哲典. 眠れなくなるほど面白い 図解 確率の話. 日本文芸社; 2018.
中室牧子, 津川友介. 「原因と結果」の経済学 データから真実を見抜く思考法. ダイヤモンド社; 2017.
ダニエル・カーネマン (著), 村井 章子 (訳). ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか?. 早川書房; 2014.
ダニエル・カーネマン (著), 村井 章子 (訳). ファスト&スロー(下) あなたの意思はどのように決まるか?. 早川書房; 2014.
最後に、この記事のボツにして切り離した記載のリンクを貼っておく。
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