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【SaaSビジネス】カスタマーサクセス実践論③-カスタマードリブンディベロップメント期のCSの役割

UB Venturesの大鹿琢也です。

本稿では、私がこれまで従事してきたBtoB SaaSビジネスのカスタマーサクセスの経験を元に、カスタマーサクセスに求められる役割を事業フェーズに分け、考察し、お話しします。

前回まで、カスタマーサービス期、カスタマーサクセス期のCSの役割について説明しました。

▼カスタマーサービス期のCSの役割の記事はこちら

▼カスタマーサクセス期のCSの役割の記事はこちら

今回はカスタマードリブンディベロップメント期のCSの役割をお話しします。
このフェーズでは事業の進展とともに、第2のコアターゲット顧客に向けた開発をドライブする上で、CSの役割も重要になっていきます。そうしたカスタマードリブンディベロップメント期におけるCSの役割を詳しく説明していきます。

無題のプレゼンテーション (6)

カスタマードリブンディベロップメント期:次なるターゲット市場へのPMF向上に注力

カスタマードリブンディベロップメント期は、第2成長を狙うプロダクト開発期です。カスタマーサクセス期を経て、顧客属性別のニーズとPMFも明確となり、注力すべき顧客市場を選別できている状態です。次にターゲットとする顧客市場に向けて、PMFを向上し市場開拓を企図するフェーズにあります。

第2のコアターゲット顧客に向けた開発をCSがドライブ。

ここにきて、CSが蓄積してきた情報やノウハウを、プロダクトやサービスへと還元します。ターゲット顧客のペインポイント、具体的な活用シーンと効果という情報が、開発の羅針盤になります。

具体的な取り組みとして、カスタマードリブンな開発会議の設置が有効です。この会議では、既存のターゲット顧客の中から代表的な企業をピックアップし、詳細な顧客業務、課題・ペインポイント、現在のユースシーン・ケース、理想像と現状の差分などを、CSと開発チームが一緒にディスカッションします。これを例えば3社分、1社につき1時間、四半期に一回という頻度で定期的に行い、狙うべきニーズと訴求すべき価値を見定め、具体的な開発へとつなげていきます。

CSが顧客とのコミュニケーションから拾い上げるニーズは、時に表面的、断片的なものになってしまいがちです。CSでは改善・新機能1件に要する工数が分からず、ROIが測れないまま、開発コストを浪費してしまうことにつながりかねません。また開発チームだけでは、様々なニーズの中から、本質的に重要なものだけを選別することは困難です。両者の持つ情報の差異によって連携の難しさが生じます。顧客情報を中心に置き、開発会議を進めることで、その差異を埋めて開発計画を立てることができます。

CSの持つ情報が開発のドライバーとなるためにも、やはりカスタマーサクセス期でのCSの取り組みは必要不可欠です。一足飛びではカスタマー ドリブン ディべロップメント期の開発は成しえません。また、カスタマーサービス期では、セールスが商談の段階から顧客のニーズ・情報を把握し、その還元を行うべきです。そのため、全てのフェーズでCSが開発のドライバーとなるわけではない点、ご留意ください。

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これまで3つの事業フェーズごとに取るべきアクションと、CSの取り組みについて、私の考えをお話をしてきました。

本稿の内容は、私のCS経験を基に展開しており、ビジネス性質やビジネスモデルの違いから、現場の実態と異なるといったご意見もあるかと存じます。

私がSPEEDAに参画した2013年当時、Customer Successという概念自体が日本ではほとんど認知されていませんでした。私自身、その時から、継続的に既存顧客に対して、何をすべきかを考え、自身とチームの役割を柔軟に変化させてきました。

そうした背景からも、本稿で、私が最もお伝えしたいのは、「CSはビジネスフェーズに合わせて変化すべき」という点です。ビジネスフェーズごとに柔軟に注力ポイントを変化させ、CSに求める機能も変化・拡大をさせていくことができれば、強くしなやかな経営が実現されます。

LTVの拡大という目標に向けて、更にできることや改善すべきことを考えるうえで、本稿がご参考となれば幸甚です。

UBVenturesとは?

私たちUB Venturesは、サブスクリプションビジネスへの投資に特化をしたベンチャーキャピタルです。

2018年のファンド立ち上げ以降、複数のB2B SaaS企業への投資を行っており、起業家への支援を日々行っています。スタートアップへの投資を行う中で、単に資金を提供するだけでなく、ユーザベースグループの持つ、「SaaS起業のナレッジを提供する」ことが、私たちの強みであると考えています。

「 解約率のボラティリティが高い段階で、MRRを追いかけすぎていますね。まずはPMFにフォーカスしていきましょう。」

「成長ペースは速いですが、プロダクトの特性を考慮した売り方を前提にするとARPAが小さすぎます。過去私たちがサービス単価を上げた方法ですが…」

このような自分たちのリアルな事業経験に基づいたアドバイスやサポートを提供しています。

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■執筆者のプロフィール

大鹿 琢也(おおしか たくや)

2013年にユーザベースに新卒1期として入社。入社2年目にSPEEDA Customer Loyaltyチームのリーダーを歴任。2014年末から香港に赴任、アジア事業の立ち上げを、岩澤(現UB Ventures代表)と共に推進。
入社以来、一貫してSPEEDAのCustomer Success(CS)に従事し、クライアントの産業調査・業界調査支援、プロダクト・コンテンツ企画・開発をリード。2018年から、Head of Asia Customer Sucessとして上海、香港、シンガポール、スリランカのCSチームのマネジメント、アジア事業企画・開発などを経験。
2021年より、UB Venturesに参画。国内外でのSaaS事業立ち上げ経験を活かし、ハンズオンでのスタートアップ支援を行う。

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執筆:大鹿琢也 | UB Ventures プリンシパル
2021.09.15