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【ポンポコ製菓顛末記】                   #22 こんなオイシイ仕事やめられまへん

 前回ポンポコ製菓のムダな仕事をご紹介した。しかし、そのような例は日本中ゴマンとある。いや世界中であろう。一流企業でももちろんだ。
中でもオイシサ・ピカイチは2021東京オリンピックの後始末で世間を騒がせた「あの」会社の業界だ。
 
 

人に仕事


 
 広告業界では毎年、その年の優秀な広告作品を表彰する。大手の広告会社やテレビ局が主催して〇〇賞として選出するので、選ばれるクライアントとしても名誉なことであった。
 中でもポンポコ製菓が昔から取引が合った大手広告会社・コンコン広告社の「コンコン賞」は伝統ある賞であった。コンコン広告社はあらゆるメディア、クリエイティブのジャンルを細分して様々な賞を選んでいた。
 ノミネートされる広告作品は膨大なものになる。審査は公平を期すためにクライアントの部長や担当、また業界の批評家や学者も動員して行う。それらを取り仕切るコンコン広告社のスタッフも相当なものであった。彼ら審査員とスタッフが総動員で1年かけて周到に選出する。その作業、工数はかなりのものであることは想像にかたくない。

 各ジャンルごとに何回かの選抜の末、最優秀賞をコンコン広告社の本社で最終選出する。私はその場に何度か出席した。最終選出なので多少イベントチックなのだが、その様が仰々しく、いかにも滑稽であった。

 その様はこうだ。

 選出は議員選挙のように用紙に手書きで書いて提出する。それを回収、集計して選ぶのだが、その手順が大げさなのだ。
 
まずスタッフが全員の紙を集めると、壇上の審査委員会委員に渡す。委員はコンコン会社の審査委員会専任のお偉方数名である。
 数名いるので、最初の人が回収用紙を揃えて、隣の委員に渡す。渡された委員は一枚一枚読み上げる。読み上げられると隣の委員がその用紙を引き取り候補作品ごとに「正」の字を書いてカウントする。全て読み上げると集計結果用紙を隣の委員に渡す。渡された委員は数が間違えていないかチェックする。間違いがないと、隣の審査委員長に最終結果を渡す。そして委員長が結果を読み上げる。

 以上、揃える人、読み上げる人、数える人、チェックする人、結果を発表する人、とたかたが選ぶだけの作業をいい大人がにぎにぎしく5人で分業するのだ。その大袈裟ぶりが私は滑稽で仕方なかった。もちろん最終選考会だから多少の演出はあるだろう。だが、壇上の委員は天下のコンコン会社のそれなりのお偉方である。事業の本流ではない審査委員の専任となられているので、失礼ながら明らかに余剰となっている方々であろう。

 しかし商社のWINDOWS 2000のように、広告業界では余剰であろうが年間報酬は確定申告条件を確保されている筈だ。
 
 大企業の場合、余剰の方には人に仕事を創る、或いは自ら仕事を創って仕事しているフリをするのだが、中小企業になるとムダな仕事と簡単に片づけられない深刻な場合がある。
 
 読者の皆さんがテレビで見ているコマーシャル(CM)は、実はCM1本1本のCM原本動画をテープやDVDなどのメディアにコピーして各TV局に配送し、それを番組の間に挿入して放送している。通常、CMは15秒が最低単位で、それを都度々々コピーし各局に渡す。TV局は放送事故を嫌うので、毎回新規でコピーする。同じCMでも時間帯が違えば、新規にコピーする。しかも全国ネット番組のCMならばキー局一本で良いが、各地方局で流すスポットCMの場合は地方局分(通常24~26局分)のCMをコピーする。

 従って、大量にTVCMを流す場合、そのコピー代、CMプリント費というが、なかなかバカにならない量になる。しかも何故かそのプリント代が高いのだ。15秒CMをコピーするだけで数万円もする。モノは皆さんが家庭で録画しているメディアと変わらない。昔は磁気テープで家庭用のVHSではなく業務用テープであったが、それでも家電量販店で売っているVHSテープのケタが2つも違うことは無いだろうと常々不思議であった。

 それを確信したのはデジタル化した時であった。テープからDVDに変更するというのでコストダウンされるのかと思ったら、広告会社からはDVD1枚コピーにつきテープの倍増の請求をしてきたのだ。ポンポコ製菓程度のTV広告の場合でも年間数千万円のプリント費となった。トヨタやアサヒビールなどの大量CMクライアントとであれば恐らく億のオーダーであろう。

 なんで市販では10円やそこらの同じDVDに15秒CMをコピーするだけで数万円になってしまうのか合点がいかなかった。そこでコンコン広告社を介して制作会社のコピー作業現場を見せてほしいと依頼した。当然先方は嫌な顔をしたが、そこはひるまずお願いした。実際作業現場を見学して愕然とした。

 作業はこうだ。

 ハードは普通のDVD録画機と変わらない(ように見えた)。そこで作業する人が5人。内訳は次のとおり。 DVDメディアをDVD機係に受け渡す人、DVD機のトレイを開閉するDVD機係の人、マスター機でコピーのボタンをオン・オフする人、コピーしたDVDの中身を間違いないかモニターでチェックする人、全体進行を管理する人、総勢5人。
 広告賞の審査発表会さながらに1人か2人で出来そうな仕事を薄~く5人でやっているのだ。しかもDVD機を操作している2人は明らかに学生バイトであった。
 コピーするのは15秒のCMだからチェックを入れてもせいぜい1分かそこらの作業工数だ。いくら5人で作業しているからといっても1本数万円はやりすぎだろう。
 しかも何もしないのに間を経由しているコンコン広告社の管理費マージンはしっかり乗っている筈だ。

 私は開いた口がふさがらなかったが、感想を何も言わずにお礼を言って作業現場を後にした。
 
 

こんなオイシイ仕事、やめられまへん


 
 大したことのない仕事を薄~く伸ばして5人がかりでやっている例を2つご紹介した。
 
 広告業界は広告会社、TV局などの媒体社、そして芸能界、この3業界が持ちつ持たれつのスクラムを組んで特権を駆使し長年オイシイ思いをしてきた。

 こんなことがあった。ポンポコ製菓担当のある準キー局(大阪、名古屋のTV局)の営業担当が実家の都合で故郷に帰るか否か悩んでいた。相談を受けた私はご実家の重要事だから退職して故郷へ帰ることを薦めた。すると彼は開口一番、「生方さん、こんなオイシイ仕事、やめられまへん」と即座に断られた。
 
 かつては、本当だったのだろう。しかし、広告会社でさえも昨今はそんなことを言っていられなくなってきた。
 
 大企業にとって40代以上の社員の大半はお荷物であり、本音では、若い人に部課長ポストを与え、モチベーション高く、権限と責任を与えてバリバリ働かせたい。だが、すでに居るものは仕方がない。ヒトはモノのように捨てられないから、待遇を維持しながらどちらでも良いような仕事を与える。最終的には一定の年齢になったら役職定年といってなるべく早めにポストオフして権限を減らし、賃金を下げる。或いは割増退職金のインセンティブをつけて早期退職を促す。それしかできないのが今の日本の実情である。

 広告会社の場合、新入社員150人に対し局長(メーカーの部長に相当する)は35人。一度局長になれば数年は続けるので人が多すぎるのだ。皆ポストにつけないので、組織の屋上屋を重ねる。
 会社によって呼称は違うが、〇〇部長、ライン部長とか部付部長とか、部長がいっぱいいる。ポンポコ製菓でも、同じ組織で〇〇部長、〇〇部部長、〇〇部付部長と部長が3人いることもあった。

 皆さんは誰が一番偉いと思うであろうか?

 正解は〇〇部長が正式の部長である。他の部長は報酬だけの部長で組織のマネジメント責任はない。
 こういった日本的終身雇用、年功序列を今急激に見直されている。もう昔のように寄らば大樹で、大企業に正社員になれば定年まで安泰と言えなくなってきている。役職定年前の50代、40代でラインに外れた人に会社は積極的に第2の人生を薦める。
 といっていきなり欧米型のジョブ型雇用を目指すのは危険だ。何度も述べているように終身雇用型のメンバーシップ雇用もジョブ型雇用も一長一短ある。そもそも日本型終身雇用は産業革命以降の欧米ジョブ型雇用の反省を踏まえて育てられたものだ。その辺りをよく理解して改善しないと90年代に安易に取り組んだ成果主義の二の舞となる。
 
 もう一つの例のCMプリント作業は事情が違う。CMプリントの場合、それだけ見ればボロ儲けであることは明らかだが、下請けの制作会社は本業のCM制作費の赤字補填にわずかながらでも補填しているのだ。CM制作の場合、当初予算を上回るのが常である。広告会社のいい加減な管理が原因であるがそのオーバー分をクライアントが認めないと、広告会社は下請けの制作会社に負担させる。自分たちは決して損しないようにするのが広告会社だ。

 どの業界も常にいじめられるのが下請け会社である。作業現場を見学して人件費を入れても1枚数千円のプリント費コストと私は見積もった。しかし、その辺の事情を私は百も承知であったから、デジタル化での値上げはいうくらなんでもやりすぎなので、据え置きにすることで手を打った。
 
 一口にムダな仕事と言っても事情は様々だ。


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