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【ポンポコ製菓顛末記】                   #42 商売とは三方良し

 前回までオカネの話から始まり、市場経済、資本主義の功罪を述べてきた。
 経済の原点、商売はそもそも売り手と買い手双方の価値観が合致して成り立つものと先日お亡くなりになった100円ショップDAISOの創業者・矢野博丈氏は述べている。その合意が崩れ、売るほう買うほう両者の欲の張り合い、弱肉強食の状態が現代だ。
 
 


美味しいかどうか決めるのは消費者ですよ


 
 日本製品は昔から良いモノを安くお届けしているという自負?があった。「安いニッポン」を自慢し、安いことこそ正義、要求するのは顧客として当然のような風潮となった。それをマスコミがまたまた煽るものだから、いつからか経済環境が変わっても値上げできないトラウマとなり、そのしわ寄せを弱者、中小企業や労働者がこうむっているのが現代だ。
 
 しかし、良いモノを安くではなく、実は価格の割には品質がそこここに良いだけで、本当に良いモノとは別の筈。先のDAISOの話にあるように良いか悪いかを決めるのは顧客だ。そこを勘違いしている。
 
 ポンポコ製菓も昔から「当社の菓子はおいしいよな!」と自負していた。創業者は子供たちに栄養があるオイシイ菓子を安くお届けするというモットーで始めた。だから、創業家の末裔はそのことを金科玉条の如く守り、とにかく美味しさを第一と掲げ、社風となっていた。そのため利益度外視の商品が多く、長らく低収益企業であった。
 
 それを特徴つけることがあった。
 
 90年代末期に当時の流行にのってポンポコ製菓も中国進出に乗り出した。特に当時上海の進展が著しかったので、日本で一番売れている商品を持っていけば売れる筈だと甘い考えで乗り出した。
 上海の人口は約1億人で経済発展もすさまじいので、日本全体が富裕層みたいなものだから売れない筈はない、などと稚拙なマーケティングで進出したのだ。(詳細は#28を参照されたい)
 ところが、そんなに簡単にいくものではない。そもそも文化も民度も異なる中国である。日本で売れればどこでも売れるなどというのは 「井の中の蛙」そのものだ。十歩下がって経済力も民力度も日本と近い先進国ならば可能性もあるかもしれない。中国は経済発展著しいが、まだ途上国である。案の定、予定通りいかないものだから、安売りしたり、販売地域を変えたり、あれこれ売り方を変えたがちっとも向上しない。それこそダッチロール状態になった。
 そこでついに社長が決断を下した。品質を落とし価格を下げて利益を確保しようと。そのことを経営会議で研究所長に至急研究するように指示した。  
 すると研究所長は困惑し返事が無かった。社長は怪訝に思い、「どうしたんだ」と問うと、研究所長は「入社して以来品質を上げることしかやったことが無いので、下げることはどうすれば良いか解りません」と答えた。会議の場は一瞬凍り付いた。
 
 これは冗談ではなく事実である。そして当社風土を良く表している。とにかく原価も利益も、さらに市場も競合も顧みず、自分たちが良いというモノを創り上げてきた。顧客や市場よりも自分たちが満足し、そしてトップに気に入られるモノを創ってきた。
 
 だから商品の市場調査で「競合は何ですか」と聞くと「競合はありません」という答えをマーケターは良く答えていたものだ。
 唯我独尊である。顧客の価値観、市場のニーズとマッチしている時はそれでも良い。しかしズレ始めると質が悪い。モア、モアと顧客にとって過剰サービスになっても気付かないのだ。気が付かないから見直そうともしない。
 
 しかし、そんな社内常識をある時、社外取締役に一喝された。「社長、当社商品は美味しい、オイシイとおっしゃいますが、美味しいかどうか決めるのは消費者ですよ」と。
 そのとおりである。
 商品ターゲットでもない、60,70歳の老人たちが美味しい、オイシイと言っても何の役にも立たない。
 
 
 

三方良し


 
 #37でお話ししたように古来、利益は生産の余剰であった仕組みが、逆転して利益を求めるようになったのは近世以降のことだ。資本主義の隆盛と共に激しくなり、昨今は株主資本主義とか新自由主義とかで暴走している。
 
 だからポンポコ製菓のように唯我独尊でも消費者のことを考え、利益は結果の余剰であるという経営は、皮肉にも中世以来の仕組みを守っていると言えないことは無い。
 しかし企業は社会の公器である。利益を出さないで顧客ばかりに貢献していては犯罪である。株主にも従業員にも社会にもあらゆるステークホルダー(利害関係者)に報いなければならない。
 
 その辺のさじ加減を企画、経営するのがマーケティングである。読者もマーケティングという言葉を耳にしたことがあるだろう。Wikipediaにあるようにマーケティングは顧客・社会に価値を提供するための企業のあらゆる活動・仕組みであり、大手企業では常識である。何故なら従業員を介して組織活動をバランスよく行わないと、関係者の利害が偏るからである。
 日本には1950年代からアメリカより導入されたが一般にはあまりなじみがないようだ。何故なら筆者は最近の情報で企業にマーケティング部があるのは20%と聞いた。またプロ経営者として有名な資生堂会長・魚谷氏が10年前に資生堂社長に就任する時の朝日新聞の紹介が「マーケティング=市場調査が得意」と紹介された。半世紀前に日本に導入されたときは良く解らなかったのでマーケティングとは市場調査と紹介されたのだが、マスコミはいまだにそのような認識なのだ。
 
 しかし、難しいことではない。マーケティングとは昔からある『三方良し』である。すなわち「売り手良し、買い手良し、世間良し」の観点で商品、事業のあらゆる仕事を企画、設計、実行することだ。その時、自分だけ(売り手)良くても、また客(買い手)のいいなりでもダメである。そして社会の公益性も考慮しなければならない。
 昨今は資本主義の暴走で地球環境をないがしろにしたため環境は人類史上最悪の瀕死状態になっている。今最も優先しなければならないのはこの地球環境問題を筆頭にした「世間良し」であろう。
 
 これを前提に、『三方』の価値観が合致するように、値段やコスト、利益を決める。

この計算はいたって簡単。何故なら
  利益 = 値段 ― コスト
で導かれるからだ。
但し、計算は簡単だが『三方』の価値観が合致すようにバランスを見出すのが難しい。
 
 売り手が利益を求めるには、値段を上げる、売上を上げるか、コストを下げるかだ。現在の先進国のように成熟市場となると売上をあげるのは難しい。値段を上げるにはマスコミが煽るものだから顧客の反発を買う。するとコストを下げるしかなくなるのだが、原材料は逼迫し輸入原料は円安で上がる一方だ。結果として内部コストを抑えることとなり、最も安易な方法が人件費抑制、すなわち賃金カットだ。それも出来ないと利益が確保できなくなる。多くの企業はそのどちらかか、両方かである。特に中小企業がそういう状態であろう。
 
 良いモノを安くお届けしているという「安いニッポン」だが、『三方良し』のバランスが崩れてちっとも幸せでないのが現在だ。
 
そのモノ、サービスについて一度冷静に考えてほしい。
 
次回から深堀したい。



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