見出し画像

『胎界主』に挫折した俺は Kindle Unlimitedの『尾籠憲一異色短編漫画集』から再入門した。

尾籠憲一先生という作家はご存じだろうか。俺はよく知らない。しかし、その名前を聞かない日はほぼない話題の作家だ。氏は「胎界主」という壮大なWeb Comicシリーズを連載するインターネットの巨人であり、きわめて独特な作風を知られる奇譚作家とされる。

果たして、どのような世界観をもたらしてくれるのか調査隊は、未来を拓くためのガイドを連れて胎界主第一話に潜入し──そのまま消息を絶った。

調査隊からの最後の通信は「読みにくい……」であった。2019年現在webコミックは隆盛の極みにあり「Web-Toon」と呼ばれる縦スクロール新機軸が登場している。しかし、スマッホ画面では読みづらいページ構成、独特のコマワリ、細かいセリフ等も相まって膝までつかる血のような泥に飲み込まれ、死んだ。

調査隊が消息を絶った。故郷には俺の感想を待つ可哀想な酒浸りの子供たちやこれから『胎界主』へ漕ぎ出そうとする前途ある補陀落渡海達が待っている。俺はインターネット七賢者の一人とされる冷蔵庫さんのアドバイスに従い『胎界主』を読みやすくするために第二次調査隊を再編成した。

タブレットで読め。

冷蔵庫さんのアドバイスはこうだ。
「タブレットとかで横になりながら読むとよいぞ」

なるほど、画面が大きいほど画面が大きい!つまり読みやすい。俺は勢いに任せて第一話、第二話、そして……オロロロロ!!

「大変!急性『胎界主』中毒よ!」
ナースが勢いをつけてコロ付き担架を壁に打ち付けた!!
「グワーーッ!!」
たちまち患者はまろびでてのたうち回る!!
「(何か聞きなれない単語、たぶん悪魔の名前)!!」
「落ち着きなさい!イヤーッ!」
「グワーッ!」
殴られた患者がのたうち回る!!

暴力的に屈服した患者=俺は正気を取り戻した。あの体験は一体……?主治医の面談を受ける。

「急性中毒です。『胎界主』の全ての要素を分解しようとしましたね?」
「はい、一字一句、丁寧に拾いながら……球体?……球体使い?」
「落ち着いてください。ここに球体使いはいません」
「ギャグが……笑っていい場面なのか、意図的なのか天然なのか……」
「大丈夫です。安心してください」
「もう『胎界主』について考えなくていいのか?」
「そうです、ゆっくり身体を慣らしていきましょうね」

こうして俺は『胎界主』へ漕ぎ出すことをやめてしまった。「そのうち、そのうちね」いつものようにそれで終わるはずだった。

一か月後。
すっかり『胎界主』を意識から追い出し「キャバクラソロモン宮殿No2ロベスピエール嬢」や「孫悟空VSイエス・キリスト」等でリハビリを終えた俺は再び世界の縁(へり)へ立っていた。

黒い秘密兵器」等のライトな読み味のKindleコミックを読み漁る最中にある作家の名前を目にしてしまったためだ。しかも《短編》という福音を添えて。俺は迷いなく『尾籠憲一異色短編漫画集』へ飛び込んだ。

『胎界主』に挫折した俺は Kindle Unlimitedの『尾籠憲一異色短編漫画集』から再入門した。

よくきたな。お望月さんだ。
今日はお前に「尾籠憲一移植短編漫画集」について教えてやる。なお、俺はつい数日前に短編集の存在を知り本来ならお前に教えを請う立場だ。お手柔らかに頼む。

短編集は私が挫折しかけた『胎界主』初期と比較して作品が短く一貫したテーマで「わかりやすく」描かれている。特に良い点はKindleへの最適化で「ページを普通にめくって読める」という当たり前の設定がされているだけで心理的な抵抗がものすごく減る。

無料だからと言って、胎界主本体を薦めるよりは、きっちりまとまっている短編集を入門編として紹介するというのはどうだろうか。各話250円なので入手しやすいし、作家性や空気感、つまり文脈を掴むと作品に対して愛着が沸くはず。沸いた。

私はKindle Unlimited で読むけどね!hehhehhe!

これから読む方のために簡易的なレビューです。

短編集①「暮れ六つ」

女学生が大変なことになる青春ホラー。目羅博士みたいな主婦。隙間に不思議な顔を見る女。それぞれ切れ味のあるエピソード。特に表紙になっている「暮れ六つ」は心に残るエピソードで「印象的なトマト🍅」が出現するのが他人とは思えない。

短編集②「オレオレ詐欺」

オレオレ詐欺専門の経済ヤクザが謎生物を頼りにしてヤクザ世界を生き抜いていこうという怪談。順調にステップアップしていくが……おまけのスーパーハードモードの件が抜群におもしろい。

短編集③「童貞を捨てるなんてとんでもない!それを今から説明してやる!」

こりゃまた各方面から怒られそうな挑発的な内容……からの挑発的な色々のエロエロの……迫真の演説シーンは軽く流しつつもすべてが回収されていく展開に度肝を抜かれます。

短編集④「落とし穴」

「なんだこれ面白すぎる!!」「まだ実写化されてないの!?」というテンションが壊れた感想が飛び出た大傑作。非常にわかりやすいフォーマットで一定のルールに従って発生する怪異を語る「怪談」です。

短編集⑤「ようこそ俺の世界へ」

金額銀閣のひょうたん、独裁スイッチ、都合の良い道具は使いようでありまして、主人公はいまいちソレを使いこなせているわけではありません。しかし、問題はその先にあった。「ようこそ俺の世界へ」ああーっ!!なるほどー!


そして、最後に。
コレガヨクワカラナイ。
どうやら「お布施」「信仰」のために用意されている台座のようです。レビュー上の解説が非常に丁寧でとってもよくわかりました。はい。

未来へ

こうしてお望月さんは尾籠憲一先生に対するリスペクトを得た。

再び胎界主へダイブする準備はできたかい? じゃあ行ってきます。

#尾籠憲一 #胎界主 #コンテンツ会議 #読書感想文 #Kindle


この記事が参加している募集

#とは

57,902件

#推薦図書

42,703件

#コンテンツ会議

30,806件

#読書感想文

191,340件

いつもたくさんのチヤホヤをありがとうございます。頂いたサポートは取材に使用したり他の記事のサポートに使用させてもらっています。