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Eclipse-Part2

 少しずつ周囲の温度が冷え、まわりが暗くなっていく。
 僕の心みたいに・・・
 空を見上げると太陽の光が弱まっていた。
 そうだ、今日は日食-Eclipseなんだっけ。
 旅先で意図せず日食に出会い、僕はいやおうなく彼を思い出す。
 太陽はまだ明るく、サングラス越しでも 絶対的な存在だというように強烈な光を放っている・・・そう僕にとってのリョウちゃんみたいに。
 
 
 リョウちゃんと会ったのは、僕も出品してたフリーマーケット。
 まだデザイン学校に通ってた僕が自作アクセサリーを作りはじめて間もない頃だ。
 素人くさい僕の手作りアクセはほとんど売れず、ヒマな僕は、他の出品作家の売り場ばかり見てた。
 そんな時、パッと目をひいたアクセサリーがあった。
 無造作に黒いレザーの上に置かれたシルバーアクサは、すごく個性的だった。
 正直、普段使いには派手すぎだったけど、一度見たら忘れられないインパクトがあった。
 それを作っていたのがリョウちゃんだった。
 器用な彼は独学でアクセサリーを作っていて、彼自身も人を惹きつける魅力があった。
 自作のアクサリーに刻印された太陽みたいに彼はいつも輝いていた。
 背が高くイケメンでセンスもよくて話も上手、僕にないものばかり持ってた。
 小さな彼のブースの前はいつも人だかりで、デザインコンセプトとか説明する彼の話に聞き入り、そのアクセサリーは次々に売れていった。
 僕もその一人で、なけなしのお金をはたき、太陽がモチーフのシルバーのペンダントを買った。
 それがリョウちゃんと僕との出会いだった。

  二度目に別のフリマで会った時、リョウちゃんは僕を見て「よう、ゲンだったよね。アクセサリー作ってるんだったよね」と声をかけてくれた。
 その後も毎度買うようなお金もないのに彼のいるフリマに僕は通った。
 それでもリョウちゃんは「よくきたな、ゲン」と歓迎してくれ、僕の作ったアクセサリーも見てくれたりして、店番も手伝うようになったりしてたある日、本格的に手伝いをしないかと言ってくれた。
 まだデザイン学校の学生だった僕は、その申し出に飛びついた。
 最初はリョウちゃんの作業を手伝うだけだったけど、そのうちリョウちゃんはデザインだけ、僕が製作をやるようになった。
 リョウちゃんの独特なデザインを形にするのは難しかったけど、僕なりに実際の形にしていく作業は楽しかった。
 
 そのうち,僕らは作業場を借り、工房を立ち上げた。
 工房の名前に悩んでたリョウちゃんに僕は提案した。
「Eclipse、月食とか日食の意味なんだけど。リョウちゃん、太陽が好きだしどうかな?」
 僕の提案はすんなり受け入れられた。
 僕らの”Eclipse”はフリマだけでなく、ネット等でも販売をするようになっていった。
 僕らの工房のアクセサリーを芸能人がグラビアでつけたり、SNS等とかで注目され、セレクトショップからも取引依頼がくるようにもなった。
 二人だけでは納入がこなせなくなり、人も雇い入れ工房は大きくなった。
 リョウちゃんも慣れたのか、以前ほど作るのが大変な作品も減り、それを僕が作った後は型どりし、たくさん作れるようになった。

  前より時間が出来た僕は、空き時間で自分のデザインのアクセを作ることにした。
 リョウちゃんみたいに目をひくデザインは無理だから、シンプルなリングとかだったけど。
 人付き合いが増え、留守がちだったリョウちゃんが久々に工房に来た時、僕の作品を見て言ってくれた。
「ゲン、お前の作品もネットで売れば?」と。
 リョウちゃんには及ばないとわかってたけど、自分の作品を売れるのは嬉しかった。
 誰の作品か一目瞭然だけど、リョウちゃんの作品と区別できるよう、僕のには三日月の刻印を入れた。

 案の定、地味な僕の作品はあまり儲けにはならなかった。
 ゴールド使いのリョウちゃんの作品と違い、シンプルなシルバーの僕の作品は単価も安かったし。
 でも逆に手頃な値段だからか、ポツリポツリと注文が入ると嬉しかった。
 買って使ってくれた人から「指になじむ」「シンプルで飽きがこない」なんて感想も届くと張り合いにもなった。

 有名になったリョウちゃんは、忙しいのが、たまに顔をだしても疲れた顔の時が多くなった。
 新作のデザインも滞りだし、やっと持ってくるデザインも似た感じの平凡なものが多くなっていた。
 そんなある日、リョウちゃんが久々に新作のデザインを持ってきた。
 悪くはなかった。
 ただ。最近みた大手ブランドの新作のリングとかなり似ていた。
 そう僕が告げるとリョウちゃんはあからさまに不機嫌になった。
「とりあえず作れよ。似てるかどうかはあとで判断すればいいだろ」
 それだけ言ってリョウちゃんは工房から出て行ってしまった。

 僕はそのデザインを形にした。
 出来る限り、ブランド作品のデザインからは遠ざけようとたけど・・・出来上がりはカッコいいけど、やはり模倣品にみえた。
 いつもなら完成作品にはリョウちゃんの太陽の刻印を入れるけど、その時だけはやめた。 心のどこかで、躊躇があったのだ。
 僕は出来上がったリングを置いて旅に出た。
 リョウちゃんと顔を合わせるのがイヤで逃げたのだ。
 自分で「これはムリ」と言う勇気がなかったから・・・ リョウちゃんもあのリングをみたら、これはやはりうちで出してはいけない、と悟るだろう、そう思っていたから。

 でも、それが裏目に出た。
 僕がいない間に、あのリングは型を取られ製品化され、大手のセレクトショップで売られていたのだ。
 そしてやはり“盗作じゃないか”という声があがり、ネットで炎上。
 僕らの工房はそのリングの販売をやめたけど、"デザイン盗作"という   悪い評判は、もう消せない事実となってしまっていた。

  あの時僕がはっきり止めていたら・・・僕は大きな責任を感じていた。
  旅から戻った僕はリョウちゃんに言った。
「あのリングは僕が作った事にしよう・・・刻印がないからそれで通る、僕が責任をとるよ」
 その言葉に、リョウちゃんは何も言わなかった。
盗作の作品は僕が作ったものとしてあらためて謝罪をした。
そして僕は工房をやめた。

 ふたたび空を見上げると、太陽はほぼ月に覆われている。
 心なしか肌寒くなってた・・・太陽の光がないだけで、これほど気温が違うのだな、と僕は思った。
 月に覆い隠された真っ黒な太陽・・・まるで今の僕の心みたいだ。
 僕が辞めた事に迷いはなかった。
 でもそれより心が冷えたのは、リョウちゃんがなにも言わなかった事。
 せめて一言、引き留めてくれてたら、 僕の心はこれほど闇に閉ざされていなかったろう。
 僕は彼にとって、捨て去っていい存在にしか過ぎなかった。それがなにより哀しかった。

 太陽から一筋の光がもれ、また光がだんだんと大きくなっていく。
 まだ太陽は三日月のような寂しい姿だった。
 でも太陽にとってそれは一瞬の事で、すぐに月を追いやり、自分の本来の輝きを取り戻すはずだ。
 一瞬、自分を隠した月の事なんて忘れて、輝き続けるのだろう。
 僕は歩き出した。
 あてのないまま・・・太陽に背を向けて。

    ~ Fin ~


別のEclipseのお話

Eclipse-Part1
https://note.com/u_ni/n/ncf58f512000e

Eclipse-Part3
https://note.com/u_ni/n/n81956f979ca6

Eclipse-Part 4
https://note.com/u_ni/n/n40a4c4189692



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