わたし、下の名前でよばれないと、生きてるって実感できないよ。
子供は二人いる。でも私は『お母さん』じゃないの。
先日会った初対面の保健士さん。名字を覚えるのが面倒だから、どの人にも「お母さん」って呼びかけてるんでしょう。
私と話をしているのに、『私』が息子のつけあわせになってませんか?
そんな時はとびきり辛いハバネロになって、人参のふりしながらハンバーグの旨さの邪魔をしたい。
家の修繕に来てくれた業者さん。
私のこと『奥さん』って。
私は夫の金魚のフンじゃないのよ。
第一、夫と会ったこともないじゃない。
目の前にいる私を見てちょうだい。
水槽で悠々と泳ぐ金魚を横目に、わたしは二酸化炭素を送り込むホースになりたい。
夫はもう数カ月わたしの名前を呼んではくれない。よばないと要求をのまないと言っても、かたくなに拒否する。
引っ越ししたばかりの街。私を知る人はいない。
ああ、誰か私の名前を呼んでくれないか。
個として存在していても、名前を呼ばれないとわたしは消えてしまいそうで。
やり場のない怒りの先は、ブロッコリー。
ぐらぐら煮える湯に落とし、塊ごと茹でて、真っ赤なキッチンバサミでバツン バツンと切り落とす。間違って自分の指を落とさぬよう気をつけて。ふと、荒々しいもぎもぎフルーツみたいだな、なんて思って。
この意味のわからない文章と、考えても逃れられない『お母さん』の呪いと、全部排水口に流れていってくれ。海で魚が食べて毒で海底に沈めばいい。
はぁ、意味わからんものを書いてしまった。いつか自分を愛したい。認められる日が来るんだろうか。
令和2年7月29日 ブロッコリーの茎を噛みながら
もしサポートいただけたらマヌカハニーを買って、息子に与えて小躍りさせたいと思います。私も台所の隅でこっそり。風邪にもきく気がするし、おすすめですよ。