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みーちゃんとママ

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4歳の女の子みーちゃんとの生活の断片。
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みーちゃんとママ10 夏の終わり

みーちゃんとママ10 夏の終わり

八月の終わりのある日、ママは隣の公園の桜の木の葉が黄色く変色し、落ち始めていることに気づいた。
日中の最高気温は三十七度という暑い日が続くのに、桜の木はもうすぐ秋だと感じているのだ。そのことがママには不思議だった。桜が秋の準備をしているということは、夏がもうすぐ終わるということだ。

夏の終わりを思うとき、思い出すことがある。二年前、二才のみーちゃんと〇才の弟を連れて、初めて行く児童館に行ったと

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みーちゃんとママ9 ひいおじいちゃんの死

みーちゃんとママ9 ひいおじいちゃんの死

ある朝、ママがスマホを見て
「あら」
と言った。
みーちゃんたちがママを見ると、ママは
「ひいおじいちゃんが昨夜死んだって」
と言った。
ひいおじいちゃんは肺炎で入院していた。ひいおじいちゃんが肺炎になるのは珍しいことではなかった。でも今回はなかなか退院にならず、最近は食べることもできないのだとおばあちゃんが話していた。
その日、ママは仕事を休み、葬儀の打ち合わせや親族に連絡をするおばあちゃんの手

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みーちゃんとママ8 ごはん

みーちゃんとママ8 ごはん

みーちゃんは野菜を食べない。お皿の上の野菜はすぐによけてしまって、お肉とごはんだけを食べる。お肉も食べずに、ごはんにふりかけや生たまごをかけて食べることもある。そしてすぐに遊び始めてしまう。
みーちゃんに、ママはそれほど口うるさくは言わない。前はよく怒っていた。でもそうすると、ごはんのたびに怒らないといけなくて、このままではみーちゃんが食事の時間をはっきりと嫌いになると思い、怒るのをやめた。
とは

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みーちゃんとママ⑦ 猫

みーちゃんとママ⑦ 猫

七月のある雨の日、ママとみーちゃんたちが車を降りると、すぐ近くから
「ミィ、ミィ」
と鳴く子猫の声が聞こえた。
ママは隣の車の下をのぞき込んだ。みーちゃんと弟もかがんで車の下をのぞいたけれど、子猫はいなかった。
「ミィミィ、ミィミィ」
またしてもすぐそばから子猫の声がした。
「どこから声がするんだろう、車の中かな」
ママは隣の車の中を見た。
「ミィミィ」
また声がした。みーちゃんと弟も傘をさして、

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みーちゃんとママ⑥ ひいおじいちゃんとひいおばあちゃん

みーちゃんとママ⑥ ひいおじいちゃんとひいおばあちゃん

ひいおじいちゃんとひいおばあちゃんは老人ホームに入っている。みーちゃんは何度か行ったことがある。エレベーターに乗って三階で降りると廊下があって、その両側にドアがずらっと並んでいる。それぞれのドアには花が飾ってあり、ドアの横には名札がある。
ひいおじいちゃんの部屋に入ると、ひいおじいちゃんはイスに座り、大音量でテレビを見ている。ひいおじいちゃんの口元は内側に巻き込まれぎゅっと閉じている。みーちゃんた

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みーちゃんとママ⑤ おばあちゃんち

みーちゃんとママ⑤ おばあちゃんち

みーちゃんはお休みの日にときどき、田舎のおばあちゃんちに行く。みーちゃんの住むマンションから車で三十分くらいのところに、おじいちゃんとおばあちゃんが住んでいる。
おばあちゃんの家は古くてぼろぼろだ。
家の隣に物置小屋があって、その前に花壇と庭がある。庭の向こうに古い木造の車庫があり、車庫には軽トラックとジープ、白い乗用車があって、その脇にはすすけて白くなった「とうみ」や、鍬やすきといった古い農具が

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みーちゃんとママ④ 路面電車

みーちゃんとママ④ 路面電車

みーちゃんの住むマンションから歩いて三分のところに、小さな無人の駅がある。
電車は単線の路面電車で、二両編成の先頭に運転手さんがいる。駅では一両目の最後部のドアだけが開き、乗る人はそこから乗る。
少し前までは、乗るときに整理券をとって、降りるときは運転手さんの前で現金を運賃箱に入れてから降りていた。三年くらい前からICカードが使えるようになり、降りるときに「ピ」をする人が増えた。みーちゃんのママと

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みーちゃんとママ③ ピアノ

みーちゃんとママ③ ピアノ

みーちゃんはこの春からピアノを習いに行っている。
といっても、みーちゃんはまだ「ド」の位置もわからず、先生が伴奏をひいてみーちゃんは先生の合図に合わせてシールで印がつけられた「ド」を叩く、という具合だ。
みーちゃんの先生は若くて、フリルがついた可愛らしい服を着ており、茶色く長い髪はきれいに三つ編みでまとめられている。ピアノはもちろん歌も上手だ。みーちゃんは先生が大好きで、土曜日のレッスンを楽しみに

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みーちゃんとママ② 公園

みーちゃんとママ② 公園

みーちゃんの家族は、築二十五年のマンションに住んでいる。
このマンションはママのパパ、つまり、みーちゃんのおじいちゃんが新築の時に買ったマンションだ。おじいちゃんとおばあちゃん、そしてママはここで暮らしていた。ママが結婚したとき、おじいちゃんとおばあちゃんは田舎の家に帰ることにした。それから、ママとパパ、そしてみーちゃんと弟が暮らしている。
マンションの隣には大きな公園がある。
公園の外周にはぐる

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みーちゃんとママ①

みーちゃんとママ①

みーちゃんはこの春四歳になり、ぱんだ組からきりん組になった。今までいたぱんだ組のお部屋には、隣の建物にいた赤ちゃんたちがやってきた。赤ちゃんといってもみーちゃんとは一歳しか変わらないのだけど、みーちゃんは「赤ちゃんがきた」と思っている。みーちゃんは自分がお姉さんになったのだと思って嬉しい。
みーちゃんには弟がいる。弟は二歳で、隣の建物のうさぎ組さんにいる。みーちゃんと顔がそっくりだと言われるけれど

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