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みーちゃんとママ⑥ ひいおじいちゃんとひいおばあちゃん


ひいおじいちゃんとひいおばあちゃんは老人ホームに入っている。みーちゃんは何度か行ったことがある。エレベーターに乗って三階で降りると廊下があって、その両側にドアがずらっと並んでいる。それぞれのドアには花が飾ってあり、ドアの横には名札がある。
ひいおじいちゃんの部屋に入ると、ひいおじいちゃんはイスに座り、大音量でテレビを見ている。ひいおじいちゃんの口元は内側に巻き込まれぎゅっと閉じている。みーちゃんたちが来たのを見ても、ひいおじいちゃんが笑ったりはしない。それでも、ひいおじいちゃんが「嬉しい」と感じたのがみーちゃんにはわかる。
ママとパパは「おじいちゃん、げんき?」とか、「具合はどげんですか」とか声をかける。おじいちゃんはテレビに視線を戻して、黙ったままうなずくか、うなずきもしない。
みーちゃんと弟は窓際にあるベッドによじ登って立ち、窓の外を見たりしてみる。
会話もないのですることもなく、「そろそろ行こうか」とママが言う。みーちゃんと弟はひいおじいちゃんの手にタッチする。
みーちゃんたちが部屋を出るとき、おじいちゃんは来たときと同じで、笑ったりしない。でもみーちゃんたちを見つめて、手をあげてバイバイをする。みーちゃんたちもバイバイをする。
ひいおじいちゃんの部屋を出て、すぐ隣の部屋はひいおばあちゃんの部屋だ。
ママたちに続いて、みーちゃんと弟はひいおばあちゃんの部屋に入る。
テレビはついておらず、ひいおばあちゃんはいつもベッドに寝ている。
真っ白な髪と、細い手足が毛布から出ており、みーちゃんたちが部屋に入ってもぴくりとも動かない。ママは毛布の上からひいおばあちゃんの体をそっとさわり、「おばあちゃん、来たよ」と何度か声をかける。
ひいおばあちゃんはやっと気がつくと、顔だけ動かしてママを見る。そして、「ああ、ああ」と言って体を起こそうとする。
ママはひいおばあちゃんの体を支えてそれを手伝う。ひいおばあちゃんはやっと上体を起こす。それからみーちゃんと弟を見ると、震える声で「大きくなったね」と言う。ひいおばあちゃんは笑っているような泣いているような顔で、うなずきながらみーちゃんと弟を見る。
しばらくすると、ひいおばあちゃんはなんだか落ち着かない様子になり、
「なにもあげるものがない。なにかあればいいんだけど、なにもない」とつぶやき、部屋を見回す。
「大丈夫だよ。おやつは食べてきているし、なにもいらない」ママが言うけど、ひいおばあちゃんは耳が悪いので聞こえていない。
ひいおばあちゃんは気を取り直して、またみーちゃんと弟を見る。
「可愛いねえ、本当に可愛い」
ママが抱っこしてみーちゃんと弟をひいおばあちゃんの隣に座らせる。ひいおばあちゃんは震える細い手でみーちゃんや弟に触れる。
みーちゃんは、本当のことを言うと、ひいおばあちゃんが少し怖い。やせこけていて、髪が白くて、震える手が怖い。ひいおばあちゃんの匂いも怖い。ひいおばあちゃんは、みーちゃんの気持ちが分かるのか、
「怖いねえ、こんなおばあさんだもんねえ、怖いねえ」という。そして悲しそうに口をつぐむ。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
ママが言って、みーちゃんと弟はひいおばあちゃんにタッチする。
ひいおばあちゃんは悲しそうに、震える手をあげてみーちゃんたちを見送る。

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