願わくはこれを語りて 岩手旅1日目:遠野
2017年8月、岩手県に一人旅。
1日目に遠野ということで、おとも本は柳田国男『遠野物語』だった。王道。さらに2日目の花巻に備え、宮沢賢治の童話集(岩波文庫)まで持参。隙がない布陣。
「はやて」から釜石線に乗り換えて遠野を目指す。
駅看板にはエスペラント語が付してあり、おいでませイーハトーブ。
隣に座ったお兄さん(おじさん)が話しかけてくる。東京の運送会社で働いているK氏は遠野に里帰りだという。「やあ こんなきれいな人に会えるなんて」とかのたまっている。ナンパだ。すごいな、電車でナンパ。他に乗客もちらほらいる中で。
怪しいことは自覚があるのか免許証や実家の写真(旧家!)まで見せてくれて、1歳年上だった。
ちなみに茶ぶどうは美人である。1000年ほど前に御簾の向こうにいたタイプの。
遠野着。駅近くの宿に荷物を置いてレンタサイクル。
若干の風雨の中、それでも自転車で出かける。車がない人間は他に選択肢がない。こぎだすと、K氏がそのへんをてろてろ歩いていた。妙に和む。
伝承園へ。ひまわりの道。かやぶき屋根。
オシラサマを見たり。けいらんを食べたり。
サイクリングをしていて、本当に全然人がいない。ただただ田んぼの香りと、風と、水のせせらぎだけを感じる。日常から離れて浮き上がったような時間を一人で過ごすのが好き。
4時間ほどサイクリングをしてから宿に戻り、付近を散策。
通りを歩いていると猫が店に入りたがっている様子。私がドアを開けて入ったら、お菓子屋さんだった。プリンとクッキーを買う。
この猫はエサだけもらって懐かないでいる、と店のおばさま。
「でも営業しましたよ!」
だって私、あの猫いなかったら入店して買い物しなかったもんな。
宿でお夕飯。同宿の方々は6人組のおじさんたちで、どうも仕事っぽい? 郷土研究とかかもしれない。
この宿は猫がいるので選んだ。玄関で番をしていたりする。モフモフのふあふあである。
猫はいるが部屋に湯呑もない。貸してください、と言ったら夕飯のやつ持って行っていいよ、と。民宿!
風呂は正直、家のお風呂より〇〇だった……民宿! 客は大半が男性なのか、「女性入浴中」の札を掲げなければならない。リスキーである。
そして、歯ブラシもないことが発覚。最寄りのコンビニが徒歩15分、昼間ならともかく夜に歯ブラシのために出かけるのは……
指で磨くしかない。厳しかった。歯ブラシの偉大さが歯、いや、身に染みた。
しかし夜の涼しさよ。8月の半ばでこれとは、まさに別天地。
昼間だって、首都圏なら4時間サイクリングなんか絶対できない。いいな、夏涼しいの。
夜中、トイレに起きたら宿の猫ちゃんが部屋のすぐ外にいた。すりよってくる。さすが民宿の猫、なつっこい。なんでも、気に入りの客だったら部屋に入ってくるらしい。私はそこまでは気に入られず残念。
翌朝、逆方向へのサイクリング。愛宕神社~五百羅漢~羽黒岩。
自転車を置いて山道を歩きだすと、やはり人っ子一人いなかった。鶯の鳴き声だけがする。
なんとなく、智恩院のお堂に上がりこむ。
日蓮の真筆になるという掛け軸があるというが、どれか。
よくわからないまま、畳の上で数分横になった。誰もいない。静かだ。
教員1年目の夏、修学旅行の下見に行ったときのことは忘れもしない。
学年教師6人であちこち回り、あるお寺に入ったとき、40過ぎの女性の先生が「あー……」とおもむろに畳の上で大の字になられた。
あのいつもぴしっとされているS先生が! と20代半ばの私はだいぶ驚いたものだった。
それ以来、お寺などでチャンス(?)があるときには畳の上に座りこんだり寝そべったりしている。
昼ごはんの後、レンタサイクルを返却。猫ちゃんに別れを告げて、一路花巻へ。
(続く)
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