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「エモい古語辞典」でニヤニヤしまくる

堀越英美「エモい古語辞典」を読んだら楽しかった。
マンガや小説をある程度読んできた人なら、きっとニヤニヤできる本です。
 
注意としては、一般的な辞典の役割を期待すると違うぞ、ということ。
巻末に五十音順の索引があり、ある語の意味を知りたいから引くという、ふつうの辞書としての使用も可能ですが、むしろ「読む」ものだと思った方がよさそう。
間違った期待は「収録語数が少ない」とかのレビューにつながり、著者・読者両方を不幸にします。


この作品のファンにおすすめ(リスト例)

私が関知した中では以下のファンが楽しめるでしょう。別の人が読めばまた違うはずで、おそらくこのリストは相当長大なものになります。
(※私がいう「楽しめる」とは、
「あっ『阿頼耶識』載ってるー! なるほどそういう説明がつくものですか(ニヤニヤ)」
「るろ剣の『九頭竜閃』、元ネタ(?)あったんか!」みたいな感じです)
 
・小野不由美「十二国記」
・京極夏彦「百鬼夜行シリーズ」
・高田大介「図書館の魔女」
・「封神演義」
・車田正美「聖闘士星矢」
・和月伸宏「るろうに剣心」
・清家雪子「月に吠えらんねえ」
・江口夏実「鬼灯の冷徹」
・「ロマンシング・サガ」
・「刀剣乱舞」
・短歌、俳句

「月に吠えらんねえ」ポイント

P.67の「ガラス」の項は必見。室生犀星・萩原朔太郎・北原白秋が連続で引用されています!!
著者はきっと月吠えクラスタだよ……! まあこんな本を出すような人が「月に吠えらんねえ」読んでないわけないよね(言い過ぎ)
 
日本近代文学(白秋、朔太郎、犀星、中原中也、三好達治、芥川龍之介……)が好きって人は清家雪子先生の「月に吠えらんねえ」もぜひ読んでみてください。アフタヌーンで連載されていた知る人ぞ知る怪作。
も少し気軽に楽しめるリブート作品の「月に吠えたンねえ」もあるよ!(ダイマ)


「夏は来ぬ」と『万葉集』

「卯の花月夜」の項を見て、
「あれ? 私これ知ってる……『夏は来ぬ』だ!」ってなった。

「五月山 卯の花月夜 ほととぎす 聞けども飽かず まだ鳴かぬかも」 

詠み人知らず、『万葉集』

卯の花の匂う垣根に
時鳥(ほととぎす)早も来鳴きて
忍音(しのびね)もらす 夏は来ぬ

「夏は来ぬ」

幼稚園で「夏は来ぬ」を歌ったんですよね。令和の幼稚園では歌わないかな?
「はやもきなきて」とかなんだかわからなかった(笑)
「さみだれのそそぐ山田に」って幼稚園児には「山田さん」にしかならんし。説明はあった気がするのですが。
児童合唱団時代にもこれは歌ったので覚えていまして。
「あ、もしかして『夏は来ぬ』って万葉集のこの歌ふまえてんの!?」ってなった。
 
改めてウィキペディア先生に伺うと、「夏は来ぬ」の歌詞は佐佐木信綱なんですね。(「月吠え」にもご登場の!)
で、私は寡聞にして知らなかったのですが佐佐木信綱っていうと『万葉集』研究の大家なんだそうで。
ビンゴじゃん。
「卯の花」と「ほととぎす」は『万葉集』以来の鉄板の組み合わせなんですね。
一般人の脳内ではもう『万葉集』の響きが消えた状態でセットになっているのかもしれないけれど、佐佐木信綱なんだからこれはもう十中八九、この歌を元にして書いた歌詞でしょう。とりあえず私の中ではそれで落ち着いた。

謎の季語「亀鳴く」に笑う

笑ってしまったのが「亀鳴く」の項。

実際にカメが鳴くことはないが、春になるとなんとなく鳴きそうだということで古くから俳句などに使われている不思議な季語。 

「エモい古語辞典」p.50

春になるとwwwwなんとなく鳴きそうwwwwwww
いいですねーこののどかさ。おおらかさ。春を感じますよ。

楽しみ方は人それぞれ!

私がいいなと思ったのは、〈用例文〉ですね。
美しいです。李白いいな! 『万葉集』すごいな!
 
で、心惹かれるものがあったら、巻末の出典一覧をチェックしてその本に直に当たることができる、と。
 
先日「ファスト教養」の感想を書きましたが、この本は教養を身に着けるためにも使えそうな一方、私としては「なんとなく知っている・どこかで知った言葉と出会いなおす」ための本と感じました。へえ、あなたそこから来たの! みたいな。
 
新たに身につけるには、花や色の名前とかはもっと画像があったほうがいいかもしれません。
でも画像を提示するとイメージが固定されてしまうという決定的な難がある。言葉が喚起するイメージが一つになってしまうというのは、創作という観点からは致命的でしょう。それで、あえてところどころにイラストを入れる形にとどめたんでしょうか。

とにかく、読んでよかったです。 

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