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フードテック革命・世界700兆円の新産業「食」の進化と再定義、を読んで

久しぶりに読んだ本の随筆を書いてみたいものが現れた。フードテックの書籍である。この本に限らず、たまたま自分自身が「食」に関連した事業やプロダクトのことでちょうど今頭の中がはち切れそうであり、まあよい機会だった。

1.はじめに

特に哲学的や戦略的に示唆に富んだ本というわけではないんだけど、なにか書き残したくなったこの本。日経BPが出していて、いかにも業界トレンド&斜め読み本のようにしか見えなくて、半分バカにしていた。

だけどこのカテゴリの書籍をきちんと読んだことがなかったのとfacebookでスクラムベンチャーズの宮田さんが推していたのもあり(彼はシリコンバレーの少し先のマーケットトレンドのことをよく言い当てる)買ってみることにした。

そして今回、私が書いたこの書評というか、随想みたいな書き物を読んで、フードテックにたくさんの人がもっと参入し、自分の興味のあることを誰かが先んじてやってしまっても構わないと思う。

こんな感覚になるのは2017年にブロックチェーンレボリューションという本を読んで以来のことだ。要約はしないので自分の文脈で感じたことを以下書いてみようと思う。

2.フードテックと自分との関わり

この本はいろいろなことが書いてあるんだけけど、総じてコロナ禍になって今「食」のガラガラポンが起ころうとしているのではないかということを様々な角度から感じさせてくれる本である。

振り返れば3年ほど前、自分は上場を目指すリテールテック系のスタートアップベンチャーの仕事を手伝っていた時期があった。(今も株主ではある)そのときにリテールビジネス(ここでいうリテールビジネスとは小売をさすこととする)についていろいろと肌感覚で学んだことがあった。

商業施設や百貨店のことを館(ヤカタ)と言ったり、想像以上に現場の店長に権限があることなどの商慣習を知る。銀行の支店長みたいなものなのだろう。

そのときのリテールテックの最前線は間違いなく「ファッション」「美容」だった。今もそうかもしれないけれどコロナで大打撃をうけている。

イノベーションが起こりきらない間にコロナの問題がやってきて、アパレルメーカーがバタバタと倒れていったといったほうが良いのかもしれない。

最も合理以下が進んでいるグローバルレベルでのファストファッション領域は、合理化とイノベーションが起こり、旧来型のファッション・美容業界とは違うため、今回のコロナ禍も生き残るのだろう。

一方の「食」はというと、金額は大きいけれど嗜好品でもない限り利益率が低くローテクな分野という感じ。

実際2015年ぐらいはリテールテックと並んで当時はファッションテックがIT系のカンファリンスでもてはやされたことを思い出す。フードテック自体はまだまだ水面下の世界である。

そのリテールテックスタートアップでとある独立系(だけど業界トップシェア)のスーパーの来店促進&レジレスアプリ開発のプロジェクトに携わらせてもらったことがあった。

そこでいろいろなことを勉強させてもらった。ニューヨークで開催されるNRFにも行った。2018年1月の頃である。日本オラクルの人が主宰する日本の小売業の人たちが視察と勉強のために多数参加していた。まだ日本のスタートアップとか全然いない時代である。そこでの興味は当時話題になっていたウォルマートのScan & Goとネット投資戦略の話と、日本と異なりスマホのアプリを使いこなすピックアップが当たり前のNYの買い物体験だった。

ウォルマートの戦略の真髄を知るにつれて、デジタル側から既存のリテール業界のM&Aを仕掛けていくであろうamazonが単純にマーケットを制するのではなく、2020年代の最初は、ネット側と同盟を結びDX化に成功した小売(ウォルマートなど)がいったんデジタル勢力を駆逐して強くなる、そんなイメージを持った。

特に「食」は、小売のキーワードの一つである「体験」を売る意味合いもあり、今後とんでもないイノベーションが起こるのだろうなと思った。(2018年当時はまだDXという概念自体は、コンサル業界ででっち上げたちょっと古臭い業界のことだと思っていた。最近突然バズワードになったのは正直面食らった)

しかも日本の商慣習だと、食品メーカーが電通に支払う莫大なCM代はいまだ健全で、これはマーケットシェアの過当競争の争いをうまく広告代理店に操られ、お金をただ出させられている状況に近かったし、それが小売の現場で何一つ尽かされている感じがなくアナログな施策であった。ここをつないで、決済から購買履歴・マーケティングを繋ぐ戦略をやればいい。amaoznはここをやってくると確信した。

当時の僕は、週末にブロックチェーンゲーム向けのウォレットのプラットフォームを作りながら、普段はそんな仕事をしていた。

2020年に古巣のモブキャストに戻り、カリスマ料理家栗原はるみ・心平氏の仕事を手伝うことになり、流通という観点ではなく「食」そのものの関わり方を「料理家」という側から勉強させてもらう機会をもらった。

衣食住と言われて久しいけれど、これはとんでもなく大きなマーケットなのだ、ということをそのとき再度思い知ったのである。にしても2年たっても相変わらず以前にとして旧態依然とした世界。

3.イノベーションの波が「食」の世界に押し寄せる

リテールの決済は、消費増税とともにやってきた政府の還元施策をインセンティブの原資として照準を合わせ、中国で先行して発展したスマホQR決済を2年遅れで持ち込んだネット企業が最後のフロンティアだとして仕掛けたリテール決済戦争によって一気に近代化した。

QRコードは結局のところ非接触端末に置き換わるだろうけれど、そんなことはどうでもよい。各店舗にNTTデータの専用線利権になっていた決済端末が今っぽい安価なIOT機器を通じてオープンになった、そこのとが重要だった。

同じことがこれから「食」の世界でも起こる。レシピや献立アプリの世界から、調理器具や家電に到るまで、誰が「キッチンOS」の世界を早く登るのかという世界になりつつある。本書籍でもキッチンOSという山頂に向けて誰が登っているのかを垣間見ることができる。

・・・・・というのが本書籍の大まかな内容である。キッチンOSに、食のすべてのプレイヤーがバーティカルに繋がる時代がくる。

各地に散らばる食材や、献立レシピ、食事をするシーンや、食べる人の健康状態、それらがデジタルの世界で一つにつながる世界がやってくるのだ。それをOSという形でつなげるプレイヤーが現れるのか。

4.食のバーティカル化という視点

googleは長らく商業化された一部を除いた大部分の研究者とサブカルチャーのためのwebを検索の仕組みを使ってバーティカル化した。それぞれが発信している情報をバーティカルに引っこ抜くような形にして検索結果に並べられるパーツとして相対化してしまった。その後blogを中心とするCGMの仕組みが成長しwebは巨大なweb2.0という仕組みに成長した。ここにユーザーの行動データが集積し今日のディープカルーニングをはじめとするAIの流れができている。

その後googleは、Youtubeを買収し、動画を同じくプラットフォームの上でバーティカル化した。すべての動画はYouTubeのタイムラインで比較されただ消費されていく世界。それまで制作プロダクションや放送局がもっていた動画・映像の様々な仕組みを相対化してしまった。個の時代とは今に始まった話ではないのだ。芸能人やスポーツ選手が発信する情報が個別に相対化される時代が昨今のトレンドであるが、こんな話は10年以上前から起こっていた話なのだ。

これと同じことが「食」のあらゆる要素で起こる。

そしてなぜ今なのか。

いくつか自分なりにはすくつかの仮説がある。

①「食」の体験を商品にしてきた外食の一領域を除き、そこは今まで一番儲からなくて(利益率が低い)、もしくは職人芸に依存して、デジタル的なイノベーションが起こっていなかったからである。SNS登場前夜の2002年ぐらいのネットコミュニティ(全く儲からない代物)を見ているかのようだ。

「食」のマーケットはそういう観点で考えると「モビリティ」のマーケットよりも巨大でレバレッジが聞きやすい分野。こんな巨大なマーケットをGAFAがほっておくわけがない。

②コロナ禍の時代、あらゆるものがネット側に移行しつつある。ファッションですら、メタヴァース上でのアバターのカスタマイズなど、そちら方面に移行していく。しかし「食べる行為」は最後までネット側に移行しない。ここは最後まで残るフロンティアなのだ。

ライフスタイル全版のそれなりの事業領域がオンラインに移行していくとき、そちら側の事業拡大は新しいスタートアップにとってはネタの宝庫であるが、食の領域に焦点を定め、そこを深掘りしていくというのも筋が悪いとは思えない。

少し違う視点で考えてみたい。

「食」をライフスタイルの一つでしかないと位置づけ、ライフスタイル全体を事業領域として攻めようとしていたのは、お家騒動前のクックパッドであった。「食」そのものを中核にして、このマーケットのガラガラポンをしかけようとしているのが昨今のクックパットであるような気がする。

クックパッドの株価や業績がすぐれないのは、そのあたりの「食」のガラガラポンが見にくいからだ。海外ではこの分野に投資資金が集まり有力プレイヤーが出てきている。

ただそうしたプレイヤーがどこで儲けるつもりなのだろうか。流通やIT化という観点ではそのあたりが当面考えるに面白い分野になっていくと思うし本書籍はそのあたりの示唆を与えてくれると思う。

5.流通だけではない「食」そのものの体験が変わる時代

一方でこの本では「食文化」そのもの自体にもイノベーションの可能性があると説明している。外食が今後どうかわっていくのか、豊で暇になった時代における料理の価値は何なのか、「食べることに困らない」時代の「食べること」「食べさせてくれること」の価値とは何か?

哲学的な話に聞こえてしまうかもしれないけれども、ロボットが調理するような時代になったときに、料理家は今後どうあるべきか、人は料理家に対して何を「ごちそうさま」というのか。このあたりは「食」は「エンターテイメント」の領域に入ってきているのだ、みたいな話である。

料理家も発信力を持つインフルエンサーとして活動することがある程度前提となる時代。組織に属することなく、様々な環境やプロダクトに応じて役割をはたしていく、「食」がバーティカル化されたときのメインプレイヤーの一人でしかなくなる時代がまもなくやってくる。

僕が所属しているモブキャストはもともとはゲームと映像を作る会社だった。その会社が料理家の会社を昨年秋子会社化した。料理は「エンターテイメント」である、と社長が見出したからであったらしいが、今後食のバーティカル化が推進していく中で、間違いなく料理家は「食」をめぐるエンターテイメント領域において極めて重要なキープレイヤーになる。

インフルエンサーとして、エンターテイナーとして彼らの活動領域は無限大であり、ロボットが調理する時代になり、そういう形で活動の領域を広げていかない限り、彼らの役割は相対的に小さくなっていってしまうのだろう。

レシピアプリで高評価が集まったレシピに言われるがままに、調理するだけで簡単に美味しい食事が作れる、というのは、「おふくろの味」「料亭の味」をレシピアプリという名のソフトウェアが、原始的なロボットとして人間の手を借りて料理を提供しているとも言える。

食のイノベーションはなかなか面白い分野だと思う。

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