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本屋、はじめまして #7 本屋 BREAD & ROSESー前編


「本屋、はじめまして」について
オープンしたての独立書店の店主が、本屋を開くまでのリアルなお話を綴る本屋開店エッセイです。本屋をやってみたいなーとぼんやり思っている人の背中を一押しできるような、そして開店準備にとりかかってもらえるような記事をお届けしていきます。前編は本屋開店エッセイ、後編は一問一答&ブックレビューをお届けします。お楽しみに!


本屋をやろうと思った理由ときっかけ

 本屋をはじめようと思った理由はさまざまです。少しだけ整理すると、
・定年後に地域で何かやりたいという思いが募っていたこと
・何かしら生きづらさを抱える人たちの拠り所あるいは逃げ場となるような居場所をつくりたい(本屋もそういう場になり得るのでは)と考えるようになったこと
・もともと本と本屋が好きで、勤務先を退職する3年くらい前から時間を見つけてはセレクト書店を回るようになり、いつか自分もやってみたいという思いを強くしていったこと
・本を媒介に人とつながる本屋の仕事が魅力的に思えたこと
などが挙げられます。そこには大きな勘違いもあったかもしれませんが、自分がやりたいことを最優先に考えるようにしました。

駅からつづくさくら通りをまっすぐ進むと見えてくる。春には桜の名所として賑わうそう


開業を決心するまで

 定年(ぼくの場合は60歳でした)が目の前に迫ってくると、多くの人は数年前から定年後をどう生きるかを現実的に考えるようになります。ぼくもご多分に漏れず、定年の3年くらい前から少しずつ考えるようになりました。職場に残るという選択肢も最後まで捨て切れず、勤務先との話し合いで正式に退職することを表明したのは退職の半年前でした。

 本屋をやってみたいと考えるようになったのは、定年後を意識するようになってからです。選択肢のひとつだった本屋が、時間が経つにつれて有力な選択肢になっていきました。ただ、どうしてもネックにならざるを得なかったのは、いまの時代に本屋という事業が本当に成り立つのかということです。いまでこそ惜しまず協力してくれる妻も当初は反対でした。生活していけるのかと。そうした不安は開業から1年近くになるいまも何ら変わっていないのですが…。家族との話し合いの中で「採算を考えたら本屋などできない」などと口走ったことすらあります。もはや理屈ではなかったのでしょう(笑)。

入口に近い棚(左側)には絵本や児童書が充実している

 何とか開業できるかなと思えたのは、実は退職後2ヵ月くらいして何とか店舗が決まってからです。退職する半年前くらいからぼちぼちと空き物件を探し始めてはいたのですが、なかなか適当な物件に巡り合えず、正直とても不安でした。退職するときは本当に本屋を開業できるのか確信がもてず、職場に「次は本屋をやるんです」とは公言できない状態でした。退職からあまり時間を置かずに決められたのは、今から思えばただただラッキーだったと思います。

 そのくらい、店舗物件を決めるというのは、開業にあたってのひとつの大きなポイントになると思います。


開業までの準備

ジャンルごとに分けられた棚には店主手作りのPOPが並ぶ

 開業までにやることはたくさんありますが、中でも大きいのは「本の選択・発注」と「本を並べる書棚の準備」だと思います。セレクト書店の場合、本の選択は自分の店の特徴を決定づける最も重要なものです。まずは少数の本の陳列からはじめて徐々に増やしていくというやり方もあると思いますが、開業時に本の選択・発注をすべて間に合わせるとなると、短期間では難しい。ぼくは、並べる本(約2,500冊)の選択(リストの作成)は1年半以上かけて行いました。本屋をやる/やらないにかかわらず、やることになった場合に備えてある程度時間をかけてやりました。振り返ってみると、これは自分としては数少ないナイスな対応だったと思っています。

 発注作業もまとめてやるとなるとなかなかたいへんです。ぼくは開業の1ヵ月くらい前に約1週間かけて集中して行いましたが、自分でつくったリストをもとに1件1件コピペしていく作業は精神的にも肉体的にもとても辛く、そのときに痛めた肘の痛みはその後1年近くも続きました(笑)。


DIYにこだわった理由

 店舗物件は古いマンションで、入居したときは正直オンボロ感がすごかった。穴の空いた壁や天井はパテで埋め、やすりをかけ、その後ペンキを3度塗りくらいしました。電気系統と床の張替え以外はほぼすべてDIYでやりました。

すべて手作りの什器たち。新刊が多く並ぶ平台のあるスペースはイベントスペースにもなる

 大小織り交ぜて28本の書棚、平積み台、カフェテーブル、受付台の製作はとにかくたいへんでしたが、やり終えたときの達成感は半端なかった。何より並走してくれる人たち(後述)との共同作業は楽しく、かけがえのない思い出になりました。書棚は1本つくるのに、いくつもの工程を経なければなりません。裁断された板にケガキ(棚板の位置を書き込むこと)をし、下穴をあけ、組み立て(棚板のネジ止めなど)、そのあと粉塵にまみれながら全体にヤスリをかける。ヤスリをかけると棚がつるつるになって別物に生まれ変わります。それからペンキを塗る。正確にはペンキではなく、ワトコオイルという塗料を使いました。これは2度塗りかつ拭き取る作業が必要で、手間はかかりますが出来上がりがすばらしく、優れものです。

 こんなに面倒な作業だけど、書棚づくりの本を参考にすれば、日曜大工すらほとんどやったことがないぼくでも何とかできた。このことはぜひ強調しておきたいと思います。

店主の義母が描いた絵が飾られる。店名にもある薔薇のモチーフのもの

 またDIYは、コストを下げるという効果もそうですが(モノにこだわると実際はそんなに下がらないのですが…)、店をつくる過程を地域のみなさんに知ってもらえるという効果もあると思います。お子さんも含め地域のみなさんに書棚づくりのワークショップに参加してもらったり、SNSで準備状況を随時発信したりもしました。ある日突然ポンっと本屋ができるのではなく、地域のみなさんと一緒に店をつくっていくという感覚を持つのは大事かなと思います。


一緒に走ってくれる人たちの存在

 たとえ小さくても一つの店を立ち上げるのには大きな力が必要です。けれど並走/伴走してくれる人がいればまた違った景色が見えてくる。ぼくの場合は、地元の不動産会社、omusubi不動産さんとの出会いがそうでした。omusubiさんは大きな理念として「まちづくり」を掲げているから、物件の販売で終わらず、その後も一緒に走ってくれる。店全体のコーディネートや書棚づくり、さらにはまち全体の盛り上げまで、さまざまな形でサポートいただいています。このように、不動産会社がひとつの中心になってまちづくりやまちの活性化を進めているのは、全国的にもめずらしいのではないかと思います。

黄色いシールが貼ってあるものは店主が蔵書として所有していた古本


地域で本屋をやるということ

 開業からまだ1年足らずですが、本屋の仕事は日常にこそ意味がある、重みがあるというのが、本屋をはじめたばかりの人間の率直な感想です。何気ないことも含め、地域のみなさまやお客さまに親身に接すること。また、お客さま同士の交流を促すこと。その先には、ちょっとやそっとでは消費されることのない無形の資産が生まれると信じています。この場合の無形の資産とは、地域の人たちの知識や知恵だったり、横のつながりだったりします。これらはいざというときにも力を発揮するに違いないと思っています。

地元のフリーステッチアート作家  itohiroさん の作品が展示・販売中(9月29日まで)

 店では、トークイベントや読書会を開催したり、ボードを使ってアート作品を展示したりしています。いずれも地域のみなさまに足を運んでもらうのはもちろん、地域の方にスピーカーになってもらったり、地域でアート活動をしている方の発表の場にしてもらったりと、できるだけ地域に根差した取り組みをしていきたいと考えています。こうした取り組みを積み重ねることで、地域の本屋としての社会的責任を果たしていければと思います。




住所:〒270-2261 千葉県松戸市常盤平4丁目8-15(新京成線常盤平駅、五香駅から徒歩約10分)
営業時間:12:00~20:00(日曜日は18:00閉店)
定休日:月曜日
SNS・HP:https://breadandroses-books-matsudo.jimdofree.com/

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