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スピッツとの出会い

「スピッツの曲を聴いてみたい」

初めて思ったのは中学生の頃だった。

親の車のオーディオから流れてきた〈ロビンソン〉は本人達によるものではなく、カバーされたものだった。
様々なアーティストのカバー曲が入ったアルバムだったので、〈ロビンソン〉は1ループしないと流れてこない。
どこか切なく、違う世界に連れていってくれそうな歌詞やメロディ。
不気味な存在感を放つ〈ロビンソン〉という曲名。
やっと流れてきたと思っても、短い小説を読み終わったような感じを残し、すぐに時が経ってしまう。
そして、「また今度」と言わんばかりに宇宙の風に乗っていってしまう。
とても不思議で、いじわるな曲だった。

当時、音楽プレイヤーを持っていたし、音楽にも興味があったから、いろんなアーティストの曲をかいつまみながら聴いていた。
だけど、スピッツはその中でも、ひときわ僕の心をつかんだ。
どこか待ち遠しくなってしまう、彼らの曲に。



近所のレンタルショップへ行った。
とにかく〈ロビンソン〉が入ったアルバムを探した。
掻き分け掻き分け、ようやく探し当てたアルバムには〈ロビンソン〉に加え〈空も飛べるはず〉〈チェリー〉も入っていた。
曲名だけは知っていたので、これらの曲もスピッツだったのかと少し驚くとともに、ラッキーという気持ちもあった。

家に帰るととすぐにパソコンにCDをセットした。
当時、たとえアルバムを買ったとしても、自分の気に入った曲しか取り込まないという方針を取っていた。
今思えば少し気持ち悪いのだけど。
だから十曲入りのアルバムでも三,四曲しか取り込まないことも多かった。

だけど、スピッツは違った。
〈ロビンソン〉に限らず、どの曲も全て魅力的だった。
カバーされたものも良かったのだが、やはり原曲の持つ雰囲気はそれの比ではない。
哀愁や寂寥を感じさせるメロディーと歌声、そしてより魅力的に聞こえる歌詞に心をとらわれてしまった。
心を奪う、といった荒々しいものではない。
不思議な世界を想像させてくれる奥行きの深さや、「あなたの味方でいるよ」とささやいてくれるような包容力に、あくまで心をとらわれてしまったのだ。


片隅に捨てられて 呼吸をやめない猫も
どこか似ている  抱き上げて  無理やりに頬よせるよ (ロビンソン
愛はコンビニでも買えるけれど もう少し探そうよ (運命の人
風が吹いて飛ばされそうな 軽いタマシイで 
他人(ひと)と同じような幸せを 信じていたのに (
やたらマジメな夜 なぜだか泣きそうになる
幸せは途切れながらも 続くのです (スピカ
時の流れ方も 弱さの意味も違う
でも最後に決めるのはさっきまで泣いていた君 (未来コオロギ
深く掘って埋めても 無くせないはずだから 
裸の言葉 隠さずさらす そこから始めよう (小さな生き物
わざとよける 不意にぶつかる (不思議
貝の中閉じこもる ことに命がけ
そんな日々が割れて まぶしかった 次の頁(ページ)(不思議
君と巡り合って もう一度サナギになった (遥か

どの歌詞も当時の僕にとっては衝撃だった。
初めて歌詞を見たとき、これが世の中で受け入れられているのか?と疑問に思ったほどだ。
ましてや、当時中学生の僕ですら知っていた有名バンドのスピッツの曲がこうだったから。

スピッツには、簡単には解釈しきれない言葉や感性によって紡がれている部分も多い。
正直、完全に理解できている人なんてほとんどいなかったと思う。
でも、その感覚は、当時の僕が周囲の友達との間に感じていた孤独感や生きづらさに似ていて、親近感を持った。

「物事の深い部分まで見つめてしまう。誰かに理解してもらえるか分からないけど考えてしまう」

決して多数派ではない人たちの、そんな気持ちを代弁してくれている気がした。
そして物事を深く考察されて書かれているからこそ、本当に困ったときや悩んだときに心強く、そっと背中をさすってくれる。
立ち直ることをせかしたり、何かを求めたりせず、聴く人の気持ちに寄り添い尊重し、かたわらでずっと歌ってくれる。
スピッツは他のどのバンドであっても代わりが利かない、そんなバンドになった。
きっと今までも、これからも、スピッツのそういう部分に救われてきた・救われていく人は多いんだろう。


スピッツとの出会いから今日に至るまでずっとスピッツファンだ。
色んなアーティストの曲も聴いてきた。
だが、結局スピッツに戻ってきてしまう。
いつまでも、ときに迷子になってしまう自分の拠り所でいてくれる。
そんなアーティストに出会えたことが、人生の何よりの宝物かもしれない。


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2021.6.19追記

note編集部の方々により「今日の注目記事」に選んでいただき光栄です…!
この記事をきっかけに少しでもスピッツに興味を持っていただける人が増えれば、それ以上にうれしいことはないです。
また、スピッツは感染症対策を万全に講じた上、6/18から新たにツアーをスタートしました。
アーティストに限らず、飲食店など大変な状況にあると思いますが、ライブなどに参加することやお店に行くことがそうした方々の助けになると思います。
色んな方面に目を向け、こういうときこそ他人への思い遣りを忘れずこの苦境を乗り越えていければと思っています。

多くの方の目に触れると思い、少し思いの丈を書かせていただきました。
長くなりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。
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