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まさかの誤算

1.はじめに

わたしは夫との離婚を決意した。
夫には不倫相手がいることが分かったからだ。
夫が家にいない時間も増え、買い物や宿泊先も隠さないかのように明らかなクレジットカードの出費が増えた。
何より、不自然な着信名を見たことと、風呂場に持ち込んで話していた会話を聞いてから、不倫はほぼ間違いないと感じていた。
あとは、離婚協議をわたしの有利に進めるだけだ。
夫の不貞の証拠を得るために、太田事務所という個人探偵の事務所に行き、わたしからの要望を含めて尾行を探偵に依頼した。

2.不倫の証拠

それから数日が経った頃、ついに探偵から尾行の報告を受けた。
たしかに夫は不倫しており、しかも相手の女も家庭を持つダブル不倫だった。これで証拠は握れた。
なぜか驚きや失望のような感情も無かったので、探偵も驚かれた様子だった。
さっそく離婚協議を進めることができるので、前向きな考えに進んでいたからだろう。
探偵からの報告をもとに、弁護士を通して話を進めることにした。

3.誤算

それから数日経ったある日、探偵から連絡が来た。とりあえず会って話したいとのことで、近所のカフェで面会した。
その探偵の仲間から偶然聞いたそうだが、じつはわたしにも尾行が付けられていたという。
夫も同じようにわたしの不倫を疑っていたのだ。
そして、わたしの不倫相手の証拠も握られていることも知った。
離婚協議の優位な立場になって早く決着を付けたかった。早く新しい相手との生活を始めたかったからだ。
しかし、これでは優位にはならないことが分かった。探偵からの報告の数日後、夫からもその連絡があった。
わたしの依頼した探偵は、わたしが報告を受けたときの様子に少しだけ違和感があったそうだ。そこから念のための探りを探偵仲間にしていたのが、今回のきっかけだった。夫に不倫がバレていたのも、こうした小さな気付きを相手に与えていたからかもしれない。

4.その後

離婚は決まったが、お互いに不貞の証拠は出さずに協議を進めて決着だけは早かった。
こんな時になぜか思い出す。元夫との出会いも、わたしから近づきながらも、夫との距離はすぐに縮まり、すぐに結婚も決めた。そして不倫相手との距離もすぐに。
良い時間が訪れるのも経過してから終わるのもすぐだった。有限な時間を濃密に過ごすのがわたしの人生なのだろうか。
離婚協議に優位な立場を求めていた当時の不倫相手との関係も終わらせている自分に今問いかけてみた。

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