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B級アイドル映画『モーニング刑事。』について

 モーニング娘。が2023年でデビュー25周年を迎えたことで昔のことを思い返すことが多くなった。これまでコンサートの他に深夜番組、映画、舞台・ミュージカルのDVDをリリースしてきたが、今回は久しぶりに1998年に公開されたモーニング娘。と平家みちよが主演を務めた映画『モーニング刑事(コップ)。抱いてHOLD ON ME!』を見返してみた。ネタバレ全開で振り返っていきたいと思う。

はじめに

 1998年8月18日に北海道・室蘭市市民会館を皮切りに全国上映ツアーとして公開され、本編上映後には平家みちよとモーニング娘。によるミニライブおよび握手会が行なわれた。後にVHSやDVD、サウンドトラックがリリースされた。

 ストーリーは、ファッション誌「らぶり〜」の素人モデルとして活動するモーニング娘。がストーカーに狙われている表紙モデルの平家みちよを助けるために自らをモーニング刑事(コップ)。と名乗って撃退するといった流れ。ちなみに上島竜兵(ダチョウ倶楽部)やたいせい(シャ乱Q)、カントリー娘。としてデビューする前の柳原尋美も出演している。

オープニングからアイドル全開

 今作のオープニングテーマである平家みちよの「だけど 愛しすぎて」と共にスタッフロールが流れ、モーニング娘。のメンバーがトランポリンでジャンプしてアイドル全開のベタな決めポーズするところから始まる。その後は「矢口真里です。いつでも誰かが見つめてる」といったようなセリフ口調の娘。達の自己紹介を挟み、平家みちよが紹介されるやいなや娘。達を機関銃で乱射して本編へと入る(セーラー服と機関銃?)。銃で撃たれているはずなのに腹痛を訴えているようにしか見えないのが最高に面白い。

 冒頭はモーニング娘。、平家みちよがモデルを務めている雑誌「らぶり〜」の編集部のシーンから。ここでは保田圭の「(彼氏がほしいだなんて)言ってるだけじゃできないよー。」という完全な棒読みと飯田圭織の「言ってるだけじゃないよ!」の舌っ足らずな話し方がなんとも言えない。そんな他愛のない会話をしている中、平家宛にストーカーから合成写真と共に「みちよは僕のもの」と書かれた手紙が届く。すぐさま警察に相談するが、なぜか拳銃を持った胡散臭い刑事(庄司哲郎)が登場。この怪しさにいち早く気づいた安倍なつみは「私たちの手でストーカーを捕まえよう!」とメンバーに提案し、次の場面へと移る。

どう見てもマニア向けで危険

 娘。達は平家のストーカーを撃退するために強くなりたいとの理由で上島竜兵がいるストロング道場へ出向いたが、三輪車や電車ごっこ、タイヤ引き、4段ピラミッドなど特訓というより上島のマニアックな悪趣味に付き合わされる羽目になった。ストロング道場も名前からして怪しいし、誰か止める人はいなかったのか…。

 平家への嫌がらせは日を追うごとにエスカレートしていき、ホームページの掲示板にストーカーからのメッセージが届いたり、自宅が落書きの被害に遭ったり、クラス中に嘘の結婚式の招待状がばら撒かれていたりと日常生活にも支障が出るようになった。一時はモデルの引退を考えていた平家だったが、「自分を試してみたい。歌も歌いたい…コンサートをやって皆にいっぱい拍手されたい…」と当時の心情をそのまま表したかのようなセリフで静かに感情を爆発させ、飯田の「やめたら夢が夢で終わっちゃうよ!」の一言でなんとか思いとどまった。

 娘。達はストーカーがパソコン通であるというメチャクチャな理由で秋葉原へ向かい、アキハバラを支配する帝王(シャ乱Qのたいせい)とアポ無しで面会することになった。明らかに職質案件の帝王にしか見えないが、「アイドルは遠くから見つめ応援するものだ!」と犯人探しに協力してくれるあたりは先ほどの胡散臭い刑事より信頼できる(そもそも平家さんはアイドルではなく表紙モデルという設定なんだけど…)

 しかし、ここでも帝王からの条件として「コスプレ衣装を着て歌ってほしい」というマニアックな悪趣味に付き合わされる羽目になる。この場面で披露した「サマーナイトタウン」とコスプレ衣装が全くマッチしておらず、ちょっとした罰ゲーム状態で視聴者は困惑してしまう。完全に黒歴史案件。

 余談ではあるが、90年代後半に公開された映画とあって懐かしのグッズが数多く登場している。雑誌編集部のパソコンがMicrosoft Windows 95だったり、携帯電話がPHSだったり、同潤会青山アパート(現在の表参道ヒルズ)や秋葉原の石丸電気が映っていたりと時代を感じる。

 そして、ついに平家の自宅前にいたストーカーを撃退しようとモーニング刑事。が追い詰めるが、その際に「モーニング刑事。参上〜!」とポーズを決めるところが非常に面白い。この場面はバラエティ番組などにおいてモーニング娘。の過去を振り返る特集で使われることが多く、すっかり笑いのネタとなっている。撃退方法としてはストロング道場で学んだ電車ごっこでストーカーを取り囲んだり、保田がサマナイのダンスをしながら平手打ちをしてたりとツッコミどころが満載だった(決めゼリフは「決まったニャン」という謎の萌えキャラ設定付き)。

 だが、自宅前にいたストーカーとされる人物は学校のクラスメイト(柳原尋美)でストーカーではなかった。その後は平家と安倍が「遊びで刑事ごっこしたって犯人捕まらないじゃん!」、「遊びでやってると思ってるの?」と分かりやすく喧嘩を始め、一時は険悪ムードとなったが、雨が降りしきる中で平家の自宅前で張り込みをしていたところで互いにハグをして和解するといった王道のストーリーが展開された。一応は看板モデルなんだからメンバーに張り込みさせないで事務所が守ってあげればいいのにという感じだが…。

犯人の狂気な演技がすごい

 嘘の結婚式の招待状に書かれていた日程が「次の満月の夜9時」と記載されていたことから娘。達は信頼のおける編集部スタッフ(住田隆)の別荘へ行くことになったが、そこの一室が平家の部屋と全く同じだったことからストーカーの犯人が編集部スタッフであることが発覚する。タキシードを着た犯人は狂気化し、童謡「森のくまさん」を歌いながら暴れまくるあたりが最大のハイライトで、小学生の頃に見た筆者はちょっとしたトラウマになった(普通に怖いよ)。当時の画質も悪いためホームビデオっぽく見えてリアリティーがある。

 ラストはアキハバラの帝王(シャ乱Qのたいせい)が「アイドルに結婚を迫るとは愚かなことをしたな」と助けに来てくれるが、先ほどまで真っ暗闇の中で暴れまくっていた犯人は正気に戻り、特に抵抗することもなく降参(なぜか犯人と帝王は顔見知り)。娘。達も首を絞められて投げ飛ばされたメンバーがいるにもかかわらず、帝王が駆けつけると平然とした態度でいることに大きな違和感を感じた(𝐼'𝑚 𝑓𝑒𝑎𝑟𝑙𝑒𝑠𝑠…)。ここで再び拳銃を持った胡散臭い刑事が登場するが、「みんなー、無事でよかったー!」と棒読みであることに加えて、犯人を逮捕しただけでこれといって何もしていないという衝撃的な事実が発覚した。帝王が駆けつけてくれなかったら、本当に大変なことになっていたかもしれないのに…。「モーニング刑事。参上、悪党退治なんて朝飯前♪やったね♪」じゃないんだよ。

 エンディングはモーニング娘。の「抱いてHOLD ON ME!」と共にスタッフロールが流れ、同潤会青山アパートの前でアイドル走りをして終了する。ここで流れている音源は本来のオリジナルバージョンとは異なるため聴き比べてみるのも面白い。数週間後に3rdシングルとしてリリースされると、初のオリコン1位を獲得し、モーニング娘。は瞬く間に国民的アイドルグループへの階段を駆け上るのであった──。

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