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【読書メモ】『夏から夏へ』(著:佐藤多佳子)

男子400メートルリレーが行われ、パリ五輪に出場する日本は1走・坂井、2走・柳田、3走・桐生、4走上山で挑み、今季ベストとなる38秒07で優勝した。

出典:「リレー侍がパリ五輪前哨戦V 坂井、柳田、桐生、上山で38秒07 3走桐生が爆走、英国がバトンミスで失格で独走V DLロンドン大会」
(「デイリー」2024年7月20日)

パリ五輪前哨戦となるダイヤモンドリーグ、男子陸上400Mリレーにて今季ベストタイムで優勝されたとの事、幸先のよいスタートをきれているようでよかったです。

前回・東京五輪でのバトンミスは残念でしたが、あれは攻めた結果ですし仕方がなく、リオ五輪の夢再び!とあらためて期待しています。そのリオで2位になった時のレース映像からは今でも身震いするほどの感動をいただけています。

なんて考えながら、この季節になると思い出すのが『夏から夏へ』との一冊となります、ノンフィクション。

日本での陸上競技と言うと、昔から活躍する方が多いマラソンに代表される長距離のイメージが強いかもしれませんが、こちらで取り上げているのはトラック競技、その中でも100M×4人で走る「400Mリレー(四継、ヨンケイ)」となります。

ただ速く走れるだけでは“ヨンケイ”は勝てない、実際に陸上王国たるアメリカも、ことリレーにおいては決勝進出すらできずに消えていくことも多いそうです。それでは勝つためには何が必要となるのでしょう、、速さはもちろんですがそれ以上に“確実なバトンつなぎ”が求められる、とのことです。

さて、物語の始まりは2007年の世界陸上大阪大会、その舞台を駆け抜けた、塚原選手、末續選手、高平選手、朝原選手、そしてリザーブの小島選手を含めての5名の選手の生い立ちや陸上への想い、ちょっとほんわかなエピソードなどを交えながら綴られていきます。

実際に走る時間は4人を併せても40秒足らず、しかしその数十秒に全てをかけるひたむきさが伝わってきました。そしてその瞬間の時間を、濃やかに臨場感たっぷりと描き出されている佐藤さんの筆致に一気に引き込まれます。

「(佐藤さんは)陸上選手の心理描写に詳しい」との朝原選手の言葉を映しとっているかのように、まるで自分もその場で一緒に走っているかのような気持ちになれるのは、ヨンケイが個人ではなく団体での戦いとの様相を見せてくれるからでしょうか。

そしてまた伝えていきたい、つないでいきたいとの想いがこめられているからでしょうか、行きついた果てで「幸せでした」との言葉を異口同音に紡ぎ出したメンバーの皆さんを、心の底から羨ましいとも思います。

またこれは同じく佐藤さんの小説で、高校の陸上部を題材にした『一瞬の風になれ』でも感じたのですが、つないでいくのはレースを走る4人のバトンだけではない、それまで連綿と引き継がれてきた日本陸上界の先達の想いも一緒につなげていってるのかなぁ、未来の代表たちに向けて、なんて風にも。

さて2007年の大阪大会では「38秒03」という当時のアジア新記録(例年なら優勝してもおかしくない記録)を残しながらも、アメリカ、ジャマイカ、イギリス、ブラジルに続く5位入賞止まり。でもこのステップがあったからこそ、翌年2008年の北京五輪で3位(後に繰上げ2位)という快挙へとつながったのかもしれません、こちらのレース映像もいつ見ても魅入られてしまいます。

一瞬に全てをかけるために、連綿と、陰に日向に、ただひたすらに試行錯誤を積み重ねていく、そんなことの大事さを気付かせてくれる、そんな一冊です。

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