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【読書メモ】『クルド問題』(編:今井宏平)

産経新聞は決して「外国人の受け入れ」すべてに反対ではありません。ただ単に、今後多くの外国人が日本社会に受け入れられていくだろうという現実を前提に、「では、問題のない受け入れにはどうすれば良いか」という問題提起をしているだけなのです。少なくとも私たちは、事実を誇張して何らかの世論誘導をするつもりはありません。

私たちが声を大にして言いたいのは、事実を報じないのはおかしいということです。日本に在留する外国人にしても、「難民」「不法滞在者」「正規の外国人就労者」をきちんと区別して考えるべきで、「外国人差別は良くない」「強制帰国させるのはかわいそう」などという情緒的な話ばかりでなく、事実をきちんと報じ、現実から出発して、物事を考えることが重要なのではないか。そう思うのです。

出典:「川口クルド人問題を新聞・テレビはなぜ報じない 産経新聞コンテンツ統括・皆川豪志」
(『産経新聞』2024年9月1日)

少し前「(クルド問題についての緊急レポート)特集にあたって」とのレポートでお名前を知った今井宏平さんのお名前で引っかかってきた『クルド問題』を図書館にて拝借して、拝読してみました。

大枠では「5章」での構成になるのでしょうか、先ずはクルド民族の指導層を俯瞰してから、その次にイラク、シリア、トルコ、イラン各国でのクルド人の在り様、実像をといった枠組み。編著ですので複数の執筆陣のお名前がそれぞれに入り組んだ形になっています。

【クルド人リーダーたちの肖像(今井宏平・吉岡明子・青山弘之)】
クルド民族の中でも価値観の相違が存在する。各国との融和を図ろうとする勢力、あくまで「クルド民族としての独立国家」を志向する勢力といった形で、ある意味モザイク状。

【イラク・クルディスタン地域の国家性(吉岡明子・廣瀬陽子)】
興味深かったのは、主権国家としての独立志向ではなく、イラクの自治地区として留まっていることの価値とは、さて、、といった所。

【シリアにおける移行期正義の限界と可能性(青山弘之・阿部利洋)】
シリア国内での代理戦争というか、周辺国家からの影響度合いの濃淡も絡み合っていて、シリア一国で見通せる内容ではないとの感じでしょうか。

【クルディスタン労働者党(PKK)のリクルート方法(今井宏平・岡野英之)】
PKKのイデオロギー変遷やトルコ国内での共存との視座、、少なくとも「トルコ国民」としてのクルド人難民は存在しないのかな、との見立て。少し前の「国別政策及び情報ノート(2023年10月)」とも合致しますね。

【イランにおけるクルド民族主義組織の動向と外部アクターの影響(今井宏平・辻田俊哉)】
一口にクルド人と言っても価値観・イデオロギーは多種多様で、組織によっての色味がだいぶ異なっている。またその異なりが「国境」で線引きされているわけでも無さそうとの事は、単純に「○○国のクルド人」で括ってしまうのは危険かな、、とも。

そういった意味では、先日の産経さんでの「90年代に入り、イラン国籍のクルド人を頼ってトルコからもクルド人が来日するようになっっていった」との内容も何となくイメージできるような、、そういった意味ではイランだかイラクだかとのクルド人議連云々はやや懐疑的にみています、一国だけでクロージングする話ではなさそうですので。

なお「おわりに」では、今井さんが各章の抄録的にまとめていただいているので、先ずはこちらをざっと俯瞰してからの方が、よりイメージはしやすいかもしれません。

図書館の本で期限もあったのであくまで素人目線での粗読みですが、お名前が挙がっている方々の論文とか寄稿文を探してみようかな、、著作のほかに。あと、ヨーロッパでのクルド人の活動については『想像の共同体』の視座もちょっと見返してみようかなぁ、とも思いながら。

先進国で外国人労働者が従事するのは、自国民が「やらない」仕事ではなく、「現状の賃金ではやりたくない」仕事です。こうした仕事については、仮に外国人という選択がなければ、自国民がやりたくなるまで賃金水準は上がり、企業はより一層の技術開発などで乗り切ろうとするでしょう。日本の高度成長期などは、移民の力は一切借りず、賃金を上げて1億総中流という社会を築いたのですから。

出典:「川口クルド人問題を新聞・テレビはなぜ報じない 産経新聞コンテンツ統括・皆川豪志」(『産経新聞』2024年9月1日)

個人的には、トルコ国内(に限らなそうですが)の各クルド人・コミュニティでもやっていけないレベルの愚連隊がいわゆる”ニューカマー”として潜り込もうとしているのではないかなぁ、、と。その辺りは昔からきちんと生活を罪化されておられる「価値観の異なるクルド人」とは分けて考える必要もあるよな、とも考えながら。

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