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特撮オタクはPS4さえ買えば夢が叶う。

 いい歳こいて怪獣とか、ヒーローとかが大好きだ。日曜朝は早く起きるし、新作が公開されれば映画館に行く。子ども用だってわかってはいても、変身ベルトとかフィギュアは新しいものが出る度欲しくなってしまう。大きくなったのは身体だけで、心は怪獣図鑑がボロボロになるまで繰り返し読んでいたあの頃からまったく成長してない。

 そんなオタクにとって、「エキストラ出演」というのは一つの憧れで、経験者であれば一つのステータスとして、一生自慢できるとさえ感じる。存分に自慢していい。俺は悔しがる。

 特撮のエキストラというのは、実はとっても美味しい役どころだと思っている。エキストラとは基本、“群衆”である。都市を破壊する怪獣や地球征服を企む悪の軍団に襲われ、我先にと逃げるのがメインだ。観客にとってはすぐさま忘れ去られる、顔も名前もない無名の俳優たちの集まり。だがしかし、逃げる群衆を演じるエキストラは、作品のリアリティを支える上でとても欠かせない存在である。彼らが真剣に逃げ惑う様を演じれば、観客に事態の深刻さが伝わり、「自分だったらどうするか」を想像させる。大好きな番組や映画に出演できて、そんな役回りを担えるとしたら、オタクとしては光栄の至りである。

 とはいえ、そのハードルは高い。エキストラ募集は抽選になることがほとんどだし、何より撮影は都内近辺で行われることが多い。地方でも極稀に行われているらしいが、機会は東京近郊と比べるべくもない。

 そんなオタクの夢を、大怪獣や巨大ロボットから逃げ回る群衆になりたい―という欲望を叶えてくれる、あるゲームが発売された。世間的にはすでに旧作だろうが、そこは勘弁してほしい。俺が遊んだのはつい先日のことで、今はこのゲームのことで頭がいっぱいなのだから。

 PS4専用ゲームソフト『巨影都市』である。地震や災害に見舞われた都市でのサバイバルを題材とした『絶体絶命都市』を開発したグランゼーラ社が、コンセプトはそのままに日本が誇る名キャラクターたちと悪魔合体させた、世紀のシロモノだ。

 主人公は待ち合わせた女性・香野ユキ(選択肢によって関係性が変化する)と共に、突如「巨影」が出現するようになった都市を生き延びるため奔走する。その最中、自身も謎の力に目覚め、それを狙うように様々な人物や、巨影そのものに追われるようになってしまう。

 その「巨影」とは、ゴジラ・ガメラ・エヴァンゲリオン・パトレイバー・ウルトラマンに登場したキャラクターたちだ。

 もう一度言う。同じ一本のゲームにゴジラ・ガメラ・エヴァンゲリオン・パトレイバー・ウルトラマンが登場するのだ。かの『コンパチヒーロー』と『スーパーロボット大戦』が一緒になって迫ってくる、ものすごいタイトルである。これで映画を一本作ってしまえば、あのスピルバーグも悔しがってリメイク権を買い叩くに違いない。そしてこのメンツで『レディプレ2』が製作されて、全世界のオタクたちが劇場で失神してしまう。そんなビジョンが見えます。

 このゲームの趣旨は、ただ「逃げる」ことにある。先ほど、主人公が謎の力に目覚めると書いたものの、基本的に主人公らに巨影に立ち向かう術はない。拳銃なんて持ち合わせていないし、実は体術と銃火器の扱いに長けた元軍人で…とかいう映画じみた設定は無い。プレイヤーは、踏み潰されないよう注意しながらウルトラマンと宇宙人の足元を潜り抜け、キングギドラの引力光線の流れ弾に当たらないよう全力疾走し、ギャオスの空からの奇襲を避け、群れで襲ってくるソルジャーレギオンから服をボロボロに裂かれながら、命からがら逃げ惑うのだ。それはもう命がいくつあっても足りないくらいの衝撃が、何度も襲い掛かる。そんなゲームである。

 そう、まさしくこれは逃げ惑う群衆になれる、究極のなりきりゲームなのだ。襲い掛かる怪獣、宇宙人、使徒、レイバーに怯えつつも、時にその巨大な姿に見惚れ、あっけなく命を落とす。本作においては「GAME OVER」の瞬間ですら、作中では直接描かれることはあまりない、だが確実に存在する「逃げ遅れたがために死ぬ」という状況の再現である。無事に切り抜けた達成感と、死ぬことによる多幸感は、このゲームにおいては等しく快感である。巨大怪獣に踏み潰されたり、光線の餌食になりたいとボンヤリ考えて休憩時間を過ごすようなオタクにとって、念願のゲームがついに現れた。

 このスクリーンショットに惹かれるものがあったら、迷わずゲームを購入するといい。コンセプトをしっかり明示しつつ、こんなにワクワクさせる画面写真もそうそうお目に掛かれない。その他どんなキャラクターが登場するかは、公式サイトwiki辺りを読めば詳しくわかるが、ネタバレは致命的なので自己責任だ。

 以上が、オタク心震わせる『巨影都市』を薦めたくなる、唯一にして最大のアピールポイントである。よもやこんなゲームが現れようとは、想像もしていなかったし、実際に遊んでみれば、その楽しさは伝わるだろう。

 もちろん、全体的に見れば、あまり褒められたものではないのもまた事実。人物のグラフィックは最新機種のものとは思えないほどの低クオリティだし、処理落ちも頻繁に起きる。そして何よりストーリーがクドい。市井の人にも物語がある、というのは面白い着眼点だが、妙に感傷的だったり、非常事態でもあり得ない行動を取るキャラクターが多数いて、没入感を著しく阻害する。ずっと巨影から逃げ惑っていたい人にとって、堅苦しい動きと不気味な表情の人物が織りなすドラマ部分は、すべて早送りしたくなってしまうかもしれない。

 とはいえ、減点方式で偉そうに採点をしたところで、最終的には親指が立っちゃうようなゲームなのは間違いない…ある一定の趣味嗜好を持つ者にのみ、という前提の元ではあるが。

 ゲーム自体の完成度よりも、コンセプトに敬意を表し、お金を払いたい。そんな気持ちにさせられてしまう、とっても珍妙だが愛おしい挑戦作だ。権利関係の許諾とか原作再現とか何やらで制作陣の心労たるや凄まじいものだったのではないかと勝手に察するものの、まずはこのゲームを産みだしてくれたことに感謝したい。最高の死亡体験をどうもありがとう。

 繰り返す。特撮オタクはPS4を買って、そして『巨影都市』を買え。上期のボーナスをつぎ込んで、怪獣とか巨大ロボに殺されろ。平成最後の夏を豊かにする、俺からのライフハックは以上だ。健闘を祈る。

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