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業務委託契約ってなんですか?

管理部門の時事ネタや実務に役立つ情報を、小説形式でお届けする【小説で学ぶ人事労務】シリーズ第二段。

兼業・副業を考えている人、企業の人事部門で兼業・副業の制度や取扱いについて知りたいすべての人に送るフリーランス編です。

この物語は、菊桜(きくおう)商事株式会社に勤務する主人公の木崎が、生涯の師となる安才先生と出会い、管理部門のスキルの向上とともに、人間としても成長していく物語である。

主な登場人物 ​(経営管理部)
・木崎 (きざき) 新卒入社2年目。1年間の研修の後、経理に配属される。
・友永 (ともなが) 中途入社2年目。人事労務歴9年。年齢は秘密。
・只野 (ただの)部長 勤続20年以上。人柄の良さは社内でNo.1。
・安才先生 アドバイザー。只野部長の知人。詳細は謎。
~前回のあらすじ~
前回のお話は,会社に内緒で業務時間外にアルバイトをしていた従業員が過労で倒れてしまい,人事労務の友永が社外アドバイザーの安才先生からアドバイスを受けて,兼業副業の労務管理を改善していくお話でした。そんな中,友永は後輩の木崎から「業務委託契約」について知りたいと相談を受け,主に業務委託契約を締結する「フリーランスの働き方」について説明してあげると約束したのでした。今回はその続きです。


日に日に寒くなってきた年末、友永がお昼ご飯を買いに行こうと考えていると、後輩の木崎から社内チャットが入った。

「せんぱーい!今日一緒にお昼行きませんか~」

早速来たな!後輩。昨日、業務委託契約について話を聞かせてね!と帰り際に伝えた件だ。先輩から声を掛けられるまで待っていれば良いものを、じっとしていられないのが木崎らしい。

友永は長く人事労務をしているため、従業員から相談を受けることが多い。「昼休みにご飯でも食べながら、ちょっとした相談に乗ってください」と声を掛けられることもしばしばである。それで昼休みが潰れてしまうのだ。

「先輩、ごちそうさまでーす!」と相談に乗ってもらった挙句、友永におごらせる。それが木崎である。

早速、昼過ぎに木崎と一緒にランチに出かけた。先輩のおごりを当然と思っているのか、そそくさとステーキを注文する木崎。

「先輩、僕、この肉にします」
「あと、昨日話した業務委託契約ってなんですか?」

友永がメニューに迷っているのに木崎が話を進めてしまったので、友永も同じステーキを頼むことにし、話を進めることにした。

「業務委託契約というのは、個人と企業の契約形態の一つよ。個人と個人で業務委託契約を結ぶこともあるけれど、話をわかりやすくするため、個人と企業についてのみ説明するわね」

「契約形態というのは、身近な例で言うと〈雇用契約〉があるわ。菊桜商事と木崎くんは〈雇用契約〉を結んでいるのよ。正社員や契約社員、パート・アルバイトと言われる人達がこの契約形態に該当するの」

「フリーランスの人達は、それが本業であっても副業であっても主に〈業務委託契約〉を企業と結ぶのよ」

「もう少し詳しく言うと、民法には13種類の典型契約というのが定められていて、ざっくり言うと、個人と会社が結ぶ契約は〈雇用契約〉〈請負契約〉〈委任契約〉のどれかに該当するの。業務委託契約は〈委任契約〉の一種よ」

「〈委託契約〉は法律行為をすることを相手に頼むんだけど、法律行為ではない事務の依頼は〈準委任契約〉として定められているの。だから、法律行為ではない依頼、例えば、ホームページを作ってくださいという依頼を受けて仕事をするフリーランスの人達は〈準委任契約〉になるわ」

「つまり、業務委託契約は〈準委任契約〉ってことね」

〈雇用契約〉民法623条
雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。

〈請負契約〉民法632条
請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

〈委任契約〉民法643条
委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

〈準委任契約〉民法656条
この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。

「契約形態ってはじめて知りました!契約形態は誰が決めるんですか?」

「木崎くんと相手先の会社の合意のもとに決めるわ。だから木崎くんの副業先の会社も〈業務委託契約〉でお願いしますって木崎くんに言ってきたのよ。副業先からの申し出に対して、いいですよ、と承諾することで契約が成立するわ」

「契約は申込みに対して相手方が承諾したときに成立するの。これを諾成契約(だくせいけいやく)と言うのよ。ほとんどの契約が諾成契約なのだけれど、法律上は書面の作成までは求められていないから、口約束の人もたくさんいると思うわ」

木崎はびっくりした顔で聞いた。

「口約束って、そんなんで仕事を引き受けちゃっていいんですか?」

友永はネットを検索し、木崎に向かって見せた。

「ほらこれを見て!フリーランスの人達の 31.9 %が口約束よ。それと、契約トラブルがあったフリーランスの人達の 45.5 %が口約束みたいね」

「え~!!!僕はちゃんと書面を作成したいです。先輩、契約書の作り方もぜひ教えてください」

「わかったわ。私だけだと不安だから、総務法務グループの亀山さんに声をかけてみるわね」

「亀山さんってあのメガネの最近入社した人ですか?」

「そうよ。うちの会社の総務法務を長年担当していた奥山さんの再雇用が終わってしまったから、契約書に詳しい亀山さんを中途採用したのよ。今度一緒にランチにでも行きましょう」

木崎は満足そうにステーキを頬張った。友永は安心しきった木崎を少し困らせてみようと質問を投げてみた。

「では、木崎くんに質問です!田中常務は何契約でしょうか!?」

「正社員だから、雇用契約です!」と即答する木崎。

「ブッブー!委任契約で~す」とニヤリと笑って友永が返すと、木崎は少し怒った様子で言った。

「なんで委任契約なんですか?正社員でしょ!正社員は雇用契約だって、先輩が教えてくれたじゃないですか」

単純な性格の木崎に軽く仕返しして楽しむのが、友永のストレス解消にもなっている。

「田中常務は会社の〈役員〉なの。役員は、他の従業員とは違うのよ。役員のことは会社法に定められているわ。」

株式会社と役員等との関係 会社法330条
株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。

「別の法律だったんですか!同じ会社の人達なのに、契約が違うんですね~。まさか他にも違う契約の人っているんですか」

「ずいぶん勘がいいわね。うちに来てくれている派遣社員の村田さんは〈労働者派遣契約〉よ」

「あれ、先輩、さっき個人と会社とは〈雇用契約〉〈請負契約〉〈委任契約〉の3つだって言ってたじゃないですか。3つじゃなかったんですか」

「民法に規定されている13種類の典型契約のうち、個人と会社に関係するものを3つ挙げたんだけど、民法に規定されていない契約を〔非典型契約〕と言うのよ。〈労働者派遣契約〉は、〔非典型契約〕になるの。」

木崎はまたむすっとした顔になり返した。

「後出しじゃんけんみたいに〔非典型契約〕が出てきましたけど、〔非典型契約〕は他にもあるんですか」

「たくさんあるわよ。例えば、会社によっては〈雇用契約〉とは別に〈秘密保持契約〉を結んだりするけれど、〈秘密保持契約〉は〔非典型契約〕よ。これは個人と会社だけではなく、会社と会社が業務提携する場合などにも締結する契約よ」

「秘密を洩らさないようにってやつですね」と木崎はニヤニヤした。

「秘密を洩らしそうな顔で言うわね。〈秘密保持契約〉は NDA(Non-Disclosure Agreement)と呼ばれているわ。フリーランスの場合は,〈業務委託契約〉を締結する際に別紙で同時に締結するか,〈業務委託契約〉の中に秘密保持の条項を入れてしまうかのどちらかよ。」

「あぁ,もうそろそろお昼休みも終わりだから,片付けて亀山さんのところに行ってみましょうよ。」

業務委託契約のリスク編につづくーーー


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