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手紙

前略 

今朝、カーテンの陽射しから冬が零れてきました。外は久しぶりによく晴れていて、部屋は冬の香りに満ちています。太陽に導かれるような目覚めです。ベランダの扉には朝露が染みていて、それをまた陽光が照らしてキラキラ輝いて。

思わず外に出て、澄んだ空気を肺に吸い込みました。路傍に名残の秋桜が咲いています。冬は好きです。冷気の中に吐く息が白んで、溶けて。それを見る度に私は、生きてるなと思うのです。人は夏こそが生命の季節だと言いますが、私は冬こそが生命の季節だと思います。
頬を撫でる冷たさがとても気持ちいい。

東京でもこれだけ朝が冷えるということは、そちらは相当冷え込んでいると思います。初雪は、もう降りましたか?雪国の生活はまだ慣れていないでしょうから、どうか身体を壊さないように気を付けてください。

先日、下北沢で喫茶店めぐりをしました。そこで出逢った喫茶店が素敵だったので紹介します。こじんまりと狭い2階に店を構える「いーはとーぼ」。文学好きな君なら知ってるかもしれないけれど、イーハトーブは宮沢賢治による造語です。宮沢賢治の心象世界中にある理想郷を指す言葉で、「岩手」をもじったというのが定説。

無愛想な老いたマスターが営んでいます。ぶっきらぼうなマスターが淹れる熱い珈琲。
個人的に、煙草が吸えるのがとてもお気に入り。爆音ジャズがひっきりなしに流れていて、珈琲だけで酔えるようなお店でした。

店内には所々に本やCDが積み重ねてあって、ひとつのCDが一際目を惹いたので、購入しました。パッケージを見た瞬間、君の顔が思い浮かびました。
試し聞きはできなかったので、どんな収録なのかも、好みに合うかも分かりませんが、是非1度聞いてみてください。気に入ってくれるといいのだけれど。

君の好きな銀河鉄道の夜は、夏の季節でしたっけ。夏は好きじゃないけれど、冬の季節に待ち焦がれる夏は好きです。 僅かに温もりが足りないくらいが、私達には丁度いいのかもしれません。

本当は直接、君の顔を見たかったけれど、お手紙になってしまってごめんなさい。
今度こちらに戻ってくる時は教えてください。一緒に喫茶店でも行きましょう。

雪が溶ける頃に、また逢えるといいですね。

                                                           草々





                                                          



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