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英雄とコメディアンを繋ぐ、冷めた笑いと自由について

2022年2月24日、支持率が低迷し、諸外国からは亡命政権樹立すら打診されていた元コメディアンは、敵国の大軍が迫り来る中、首都にとどまり続け、徹底抗戦を命じるという判断によって、世界的な英雄となった。

そう、今をときめくウクライナ大統領、ゼレンスキー氏である。全裸でピアノを両手を使わずに弾いて喝采を浴びた人間とは、別種の畏敬と崇拝を集めるまでに至ったその顔からは、かつての姿を思い浮かべることは難しい。

その心労たるや、並大抵の人間の想像を超えていよう、単なる役者だけでは、この一ヶ月を最高司令官として乗りきることはできなかったであろうし、その苦心が表情に表れたその風貌は、まさに英雄的指導者そのものだ。

話を、アジアに戻そう。我が国の隣には、どうしても英雄になりたいコメディアンの王国が存在する。北朝鮮だ。

「笑ってはいけない」の大団円を彷彿とさせるラストシーン
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/69606

彼は、もちろんのこと非道な独裁者であり、あまたの国民を飢えさせ、世界を相手に核ミサイルで瀬戸際戦術を挑もうとする恐ろしい指導者、のはずであるが、この動画をみて笑いをこらえられる人間は、どこまでいるだろうか。

「お笑い」それは言語をまたぐことが極めて難しい、文化的コンテキストの集合体である。外国語を習得した人間が、最後に行き着く壁とも言われる。どれだけ流暢に言葉を操れるかにみえても、異国語のコメディで笑う、というハードルは極めて高いとされている。

しかしながら、この映像は超文化的である。この動画を何度見ても、年末に家族や友人と並んで観た「笑ってはいけない」という番組が連想されるのは、何故だろうか?まさか彼の王国の撮影班が、日本の年末のコメディーショーを参考に、宣伝番組を作るわけがないのだ。

ありそうも無いことが、存在したとき、そこには笑いと尊敬が生じる

公園で、手品師が手に持ったリンゴをハンカチの中に包み、そして次の瞬間には、リンゴはどこかに消え去り、そしてハンカチだけが残っていた。聴衆は拍手する。リンゴがいつの間にか観客席のテーブルに移動していれば、その歓声は尊敬に変わるだろう。

公園で、リンゴをミカンのように手で向いて食べようとする人がいる、器用に爪を使いこなし、少しずつ皮をめくっていくところを思い浮かべていただきたい、そして皮が中途半端にちぎれた時に、あたかもそれが意外であるかのような、ちょっとしたリアクション。それらは笑いを引き出すことができるであろう。

公園で、奇抜な格好をした偉そうな先生が、屈強な生徒たちに奇妙な指示を出し続けたとしよう。

  • ハグハグハグ」という指示と共に、一斉に屈強な男たちが抱きしめ合う

  • くるくるりんぱ」という指示で、男たちが指示者の周りを手をつないで高速回転を始める

  • みんなにこんにちわ」という指示で、集合写真の撮影かのように一瞬で密なる陣形を作り出し、聴衆の方に向く

これは、いずれも笑いを引き出すだろう。少しは整然とした動きに敬意を感じるかもしれない。これは、権力とお笑いの関連性を示すサンプルに過ぎない。

絶対権力は、必然的にコミカルになる

こちらの映像をご覧いただきたい、ロシア語が分からない?私にも分からない。だが、「え?それを言ってしまうの?」という高官たちの表情と、直立不動の偉そうな将軍たちという絵が、単に王様が話しているだけの国営放送のニュース番組を、超文化的コメディ・リアリティ・ショーへ昇華する。

権力そのものがネタになる例

「笑い」の構成要素がボケとツッコミというのは漫才の話であって、世界的にはボケは単体で存在する。「ツッコミを入れる」のは聴衆自身だ。

かつて西洋には、王様について歩く「道化」という役割が存在したという、王がおかしな事を言ってしまっても、大臣たちですら指摘できない中、狂人を演じている道化は、あえて王の矛盾を笑うことで、王自身に気づきを与える役割を果たしていたという。

現代の独裁組織において、そのような余裕は存在しない

世襲という正統性を持った王は、狂人に笑われても、取り巻きと一緒に笑い返せば良かったが、正しさこそが権力の源泉である独裁者には、そのような道化を置くような余裕はない。

そして、必然的に権力者自身が道化となるのだ

ちょっとした冷めた笑い、それは自由な世界を維持する、不可欠な要素の一つである。一見、確からしい正義へ「冷笑」という冷めた視線を欠いた社会は、それこそ冷たく凍りついたコメディアンの皇帝が支配する、悪夢の劇場に過ぎない。

冷たい笑顔で、自由な社会を守り抜こう

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