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【地方創生】人が流入する街の共通点とは?

2ヶ月前の記事では人口流出の続く北陸の街、魚津、黒部、高岡の3市を歩き、地方の街から人が出て行く要因として何があるのか?を考えてみた。結果、3市とも若い人を呼び寄せる産業や娯楽が少ない事に加え、街並みの時代に合わせた刷新ができていない事が分かり、要因として大きいのでは?という結論に至った。

一方で北陸地方は人が流出している街ばかりかと言われるとそうでもなく、近年転入超過が続いている都市もある。人が出て行ってる街とは何が違うのか、比べてみて地方創生に必要なものを見極めたいと思い日を改めて訪問してきた。

ということで北陸の人口流入している街を取り上げていきたい訳だが、折角なので今回は近年人口が増え大きく発展した街として知られる愛知県長久手市も参考事例として取り上げてみようと思う。北陸と長久手では環境が微妙に違う所もあるが、若い人を呼び込む為に必要な要素は大きくは変わらず、寧ろ共通点を発見する事も出来たので書いてみたい。


・訪問概要


今回北陸で訪問したのは

・石川県かほく市
・石川県白山市

の二都市。

先述した通り参考事例として取り上げるのは

・愛知県長久手市

である。

この3市でどの様な光景が広がっているか、流出する街とどのような違いがあるか、実際に歩いて調べてみた。


・石川県かほく市


統計は
https://pop-obay.sakura.ne.jp/figures/top/top_17209.html より引用

能登地方の入り口に位置するかほく市は近年転入超過が続き、北陸新幹線開業後はその勢いが顕著になっている。

世代ごとの動態を見ると0代と30〜40代の流入が目立つ事から、子育て世帯の流入がメインになっていると考えられる。

そんなかほく市を悪天候の中ではあるが、かほく市役所に程近い宇野気駅から市役所を経てイオンモールまでを歩いてみた。

宇野気駅周辺は閑静な住宅地といった雰囲気で人の通りも決して多い訳ではない。しかし市役所のある通りに出ると雰囲気は一変。新興住宅地とロードサイド店舗の並ぶ街並みが姿を現す。

宇野気駅前は閑静な雰囲気
市役所のある通りは
真新しい住宅やロードサイド店舗が並ぶ

新しい街並みは高速道路を超えてイオンモール周辺まで続いており、近代的な雰囲気。部分的には古い街並みも残されているが、全体として新しい若々しい街という印象を感じることが出来た。

イオンモールかほく
イオンの周辺も住宅街が広がる

イオンから宇野気駅へ戻る際は鉄道の西側を歩いて街の様子を見てみた。

東側よりも高台となっているこの地域は住宅が建ち並んでおり、そのどれもがファミリー向けのものだった。一軒家で単身世帯が住むようなアパートはあまり見かけない。統計も踏まえると、子育て世帯で新居を構える際にかほく市に移り住んできた人が多く、街としても子育て世帯向けの住宅の分譲で発展している事が考えられる。

駅西側は高台に真新しい道路と住宅が並ぶ
住宅はファミリー向けの一軒家が多い

かほく市の社会動態は北陸が全体的に人口流出が続くのとは真逆の世相であり、如何に人(この市の場合は子育て世帯)を呼び込む街づくりが出来るかが人口の維持に重要であるかを示している。とはいえ、女性中心に若い人が市外に出る傾向も見られるので、今後は定住策も必要になってくるだろう。


・石川県白山市


統計は
https://pop-obay.sakura.ne.jp/figures/top/top_17210.html より引用

金沢市の西部に位置する白山市も北陸新幹線開業後に転入超過に転じた自治体。男女とも0代と30代の転入超過傾向が強く、かほく市同様に子育て世帯の転入が非常に多いと分かる。

今回は市西部の駅である加賀笠間駅から西松任駅を経て松任駅までを歩いてみることにした。

白山市についての印象だが、統計からも分かるようにかほく市以上にベッドタウンとしての特色が強い。加賀笠間駅周辺は古くからの、西松任駅周辺は真新しい住宅が並んでいて、金沢市や周辺地域へ勤務する人達が住む場所になっている事が伺える。特に西松任駅周辺は駅含め周辺一体が開発されたばかりということもあって、地方都市としてはかなり近代的な雰囲気である。筆者個人の感想として街としての快適性は金沢にも勝るのでは?と感じた。

商業施設はいわゆる郊外型の店舗が中心であるが、新しい店舗も多く店舗の種類も豊富。車があれば日常生活の利便性は高いと感じる。

西松任駅北側の新興住宅地
西松任駅前の住宅
西松任駅前のロータリー
駅周辺は整備されたばかりという事もあり
非常に近代的な雰囲気
広い駐車場を持つ商業施設も市内には多い

松任駅周辺は駅南側が古くからの住宅街や商店等が広がっている一方で、駅北側は真新しい商業施設が多く建ち並んでいる光景を見ることができた。白山市が北陸新幹線開業後に転入超過に転じたのは、こうした街中心部の大規模開発がなされ、住みやすさを向上させた事も無関係ではないだろう。

松任駅南部は伝統的な市街地の雰囲気
松任駅北側は新しい商業施設が広がる

白山市は県境の山間部まで広がる広大な都市であるが、中心部の近代的な街並みの整備により、多くの人を呼び寄せる事に成功したのが分かる。

一方で、市で育った若者の多くが定住せず外部の都市に流出している事も統計から読み取れる。白山市は郊外に工業系の企業も多く立地しており雇用がない訳ではないが、近くの金沢や関東の仕事と比べると若者にとって見劣りするように見えてしまうのかもしれない。


松任駅の北側にあったJRの工場は新幹線開業に合わせて閉鎖され再開発を待つ状態である。この開発で若者の定住を促せる施策が打てると良いのではなかろうか。


・愛知県長久手市


最後に参考事例として日本一若い街、愛知県長久手市を紹介する。

統計は
https://pop-obay.sakura.ne.jp/figures/top/top_23238.html より引用

近年大規模な都市開発を行い人口が急増した長久手市。住民の平均年齢が全国で最も若くなったことから「日本一若い街」とも呼ばれるようになった。

https://www.athome.co.jp/town-library/article/122803/

今回はリニモの杁ヶ池公園駅から長久手古戦場駅までを途中通りの裏路地にも入りながら歩いてみることにした。


やはり開発された年代が新しい事もあって、街全体がとにかく新しい。大都市ですら古いビルや住宅地が目立つ事が少なくない中で、長久手市は明らかに少ない。道路は広く綺麗だし家は新しくお洒落で「ここに住めば快適な暮らしが約束される」というのが肌感覚で伝わってくるのである。

杁ヶ池公園駅前 周辺はロードサイド店舗が並ぶ

通りの裏手も新しい住宅地が広がり、現在もまだ開発が進んでいる様子だった。

大通りの裏手は住宅地が広がる
真新しい家が多く
新規分譲中の場所もある
リニモの車窓から。市西部も住宅地が広がる


また、杁ヶ池公園駅、長久手古戦場駅共に駅直結のショッピングモールが併設されている事が特徴。特に古戦場駅併設のイオンモールは学生や若者向けのショップも多数入っており、買い物の利便性は非常に高そうだった。

杁ヶ池公園駅も長久手古戦場駅も駅隣に商業施設があり
生活の利便性は極めて高い

商業施設の充実は実際に住民の住みやすさにも寄与しているようで、多くの人が流入する一因であることは間違いないだろう。

https://www.athome.co.jp/town-library/article/122803/ より

新規の街開発が人、特に若い世代を呼び込む上で重要になっているのはかほく市や白山市と同様だ。

一方、一度に街全体を開発すれば数十年後に街が老朽化してきた時にどう刷新するかが課題になりそうである。また、開発が一段落した段階で人の流入の勢いも鈍くなってしまう懸念がある。

実際に統計を見ても年々転入超過のペースは落ちていて、2023年には遂に日本人で転出超過となってしまった。

項目冒頭の統計を見ると、2019年には30代の転入が多くあったのが2023年には鈍化している。
一方で、2023年は20代の転出が急増し、就職を機に市外に出る傾向が強くなっている事が分かる。

長久手市でも将来の街の高齢化は懸念しているようで、現状に甘んじていられるわけではなさそうである。

以上の点からすると、長久手市には何の課題もなく、明るい将来が約束されているように見えるだろう。しかし、長久手市で地域の活動にかかわる人びとの声からは、そんな能天気な明るさは聞こえてこない。むしろ、不思議なほどの緊張感に包まれている。それは、単純に明るい展望のみを描くことができないためである。

実際、長久手市の人口動態を注意深く見ていくと、1970年代以降の多摩をはじめとしたニュータウンの動向との類似性に気づかされる。ここから予測されるのは、長久手市では2035年頃まで人口増加が続くと予測されているが、その直後から急激に高齢化が進み、全国のニュータウンで問題となっている高齢化、空き家の発生、地域コミュニティの衰退などの問題が、短期間に、集約される形で押し寄せることだ。

このような問題も、現在の市の豊かさで乗り切れるのではないかと思われるかもしれない。しかし、一般にベッドタウン型の都市は、人口増による一定の税収の伸びや、大型商業施設の開店による地域経済への効果・税収増はあるものの、自動車産業を中心とする大規模な製造業集積地である愛知県西三河地域のようには、法人市民税の大幅な増収を見込むことができない。逆に、人口増によって若い世代に対応した生活基盤整備や、高齢化が一気に進む際の多額の歳出増に対する懸念が大きいと言える。その意味では、ここ数十年にわたる若い世代の人口流入は、将来の大きな課題を潜伏させている状況と見るべきなのだ。

https://president.jp/articles/-/27809?page=2 より

今後は移り住んだ人の定住を促進する事や継続して新しい人が入る為の施策が必要になりそうである。


・人を呼び寄せるのに必要なもの


3市とも共通していたのは市内に新たに住宅地や街並みを整備した区画を多く持ち、街の雰囲気が新しかった事だ。

街の開発→人を呼び寄せる→街が発展する→更に街の開発が進み人を呼び寄せる、というサイクルが成り立っていると考えられる。

いわば、街の新陳代謝が活発なのである。

東京が全国から人を呼び寄せるのは、圧倒的な需要と資本力によって常にどこかの地域で再開発が行われていて、新陳代謝が機能している事も大きいだろう。街に新しいものが常に入ってくる環境は若い人を中心に刺激的な生活を提供できる為、外部から若者を呼び寄せたり留まらせたりする大きな要因になる。

逆に人口流出が顕著な地方の街は、街全体が昭和のまま時間が止まってしまってる場所も多い。娯楽の少なさも相まって若い人に「つまらない、寂しい街」という印象を与えてしまう。これは田舎だけでなく大規模な再開発が行われていない都市で人口流出が起きているのにも関連しているのではなかろうか(例:京都、神戸、広島)。

街の新陳代謝による新しい雰囲気の維持と買い物施設の充実による利便性、この二つが合わさり街の快適性が高くなっているからこそ、地方都市でも人が流入する街になれていると言える。


ただし、3市とも子育て世帯が子供を育てる為に転入している面が大きく、街で育った若者が定住してくれないという問題を抱えている。特に長久手市は20代の転出が急増する形で2023年には転出超過となった。成長した子供が就職を機に他の街に移住するケースが多いと分かる。こうした現象はそれこそ嘗てのニュータウンと同じで、ベッドタウンの宿命なのかもしれない。

街が新規に開発されるうちは流出人口が多くてもそれ以上の人の流入で補える。が、開発が一段落すると大きく人が流入する余地がなくなるので、定住を図る取り組みをしなければいずれ転出超過になってしまうだろう。なので今後、少子化により子育て世帯が減少すれば、かほく市、白山市もいずれ転出超過に戻る可能性はある。両市のようなベッドタウン型の都市は子育て世帯の流入に頼り切りになるのではなく、若者に定住して貰える施策が必要だ。


ということで地方に人を呼び寄せ地方創生を実現する為には、何らかの形で街を新陳代謝させていくのが必須になる訳である。再開発の手段は住宅地や商業施設である必要はない。人を呼び寄せる力のあるものであれば十分効果は見込める。半導体の工場誘致で街全体が活況を見せる熊本県が良い例である。今ある街を将来どのように再開発するか今から構想を練ったり、街を一括で開発するのではなくあえて再開発の余地を残しておくことが出来れば理想的だ。


実際にこれが出来るかは住民がやる気を見せれるか、政治が機能していて議員がきちんと仕事をするかが最終的に必要になるだろう。



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