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人が流出する北陸の街を歩いてみた

以前の記事で北陸の各都市の社会動態について各資料からまとめてみた。しかし統計データだけでは実際の街並みがどのようなものかは分からず、人の流出入の要因を把握する事は出来ない。


という訳で、筆者はデータを調べた都市の中からいくつか実際に訪問し歩いてその実態を確かめてみる事にした。

今回は人口流出の続く街として、富山県の魚津市、黒部市、高岡市の様子と筆者の感想、意見をまとめてみようと思う。


(注意)
※土地勘のない人間の主観的なレビューとなります。
※記事の構成上批判的な文言も含まれています。人によっては不快感を伴う内容である事を承知のうえでご覧ください。


・富山県魚津市


市の統計資料より筆者作成
https://pop-obay.sakura.ne.jp/figures/top/top_16204.html  より

魚津市は富山県の東部に位置し、県の主要都市の一つである。しかし現在では年に200人程の転出超過が続いている。

雪が降り凍えるような寒さの中、魚津駅から歩いて富山地方鉄道の電鉄魚津駅までを歩いてみた。


駅から歩いてすぐ、この街が抱えている問題の一端を感じた。全体的に建物がくたびれている。商業施設や公共施設が全く無い訳ではないが、真新しいと感じる建物がない。一戸建ての住宅に数件新しいと思われるものがある程度だった。

魚津市は富山県東部の中心都市として古くから発展していた街である。そうした古い街並みが残ったまま時代に合わせた刷新が出来ず、街全体が時代に取り残されてしまってると感じた。

2枚とも魚津駅から電鉄魚津駅に向かう道中で撮影。
誇張抜きに、街の中心部と言える場所はみんなこんな感じの光景である。

また、歩いて向かった電鉄魚津駅周辺も栄えているとは言いがたいものだった。かつては繁盛していたのだろうという事は伝わるが、現在はその面影が残るだけの完全なシャッター街と化している。電鉄魚津駅自体も駅にあったデパートは解体され、普通の無人駅となっていた。

電鉄魚津駅前の商店街

魚津市の現在の市街地は東部の道路沿いに移っているらしく、ストリートビューで確認するといくつか商業施設がある事が分かる。ただ正直に言うと、そちらに関してもあまり若い人に受けそうなモノがない、生活出来る基盤があるだけで若い人を惹き付けるような華やかさはないという雰囲気を感じてしまった。

魚津市も対策を取っていない訳ではない。魚津駅周辺の街並み整備や首都圏からの移住者への支援金、空き家のリフォームといった街の活性化を目指した施策に取り組んでいる。しかし、最終的には産業や娯楽、そして景観といった街づくりの根本的な所から見直していかないと人口流出の問題解決にはならないかもしれない。

https://www.city.uozu.toyama.jp/attach/EDIT/044/044651.pdf  より

町全体の華の少なさは若い人を中心に街から出ていかれる要因になっていそうである。


・富山県黒部市


市の統計資料より筆者作成
https://pop-obay.sakura.ne.jp/figures/top/top_16207.html  より

魚津市の隣に所在する黒部市も人口流出が続いている。全体で見ると魚津市よりも流出の度合いは小さいが、年齢ごとで見ると20代の流出が大きい。

魚津市の探索後、筆者は富山地方鉄道に乗り電鉄黒部駅まで移動。そこから黒部駅まで歩き街並みを見てみる事にした。



歩いてみての黒部市の印象だが、魚津市に比べると建物が古びているということはなく景観としては多少なりとも「新しい」と言える。しかし街の中心部を歩いていても人通りはあまりなく、雰囲気の侘しさはどうしても感じてしまった。お世辞にも活気があるとは言い難いものだった。

電鉄黒部駅近くの繁華街
黒部市役所付近

それでも電鉄黒部駅周辺はまだ「繁華街」の形相を保っているのだが、黒部駅の方まで行くと駅周辺は住宅街しかなくなり、人の集まる場所としての賑わいは無いに等しい。どうやら駅の開業時から電鉄黒部周辺が街の中心で、黒部駅は市街地の外れに置かれた旧国鉄の典型的なタイプの駅だったそうである。

とはいえ、黒部駅も若者含め多くの人が利用する街の拠点である以上、駅周辺の賑わいの無さは街の印象をマイナスにしている可能性はあるだろう。一応駅前にはykk ap従業員向けの施設や真新しいホテルがあるが、地元の若者向けの施設があっても良いのではと思う。

黒部駅に向かう通り

黒部市にはYKK APの事業所や宇奈月温泉といった観光地があり、産業がない街という訳ではない。にも拘らず若者が流出するという事は、その産業自体が若者に好まれていないことや上記の様な街並みの活気のなさが黒部市から転出する要因になっていると考えられる。


黒部市では立地適正化計画に基づいて鉄道、道路沿いに居住区域を誘導し街を再編する計画が実施されている。

2枚とも
https://www.city.kurobe.toyama.jp/attach/EDIT/039/039868.pdf  より


そして実際に小規模商業施設の誘致に成功しているようである。

https://www.city.kurobe.toyama.jp/attach/EDIT/039/039869.pdf  より


街の再編計画自体は今後の人口動態を考えても理に適ったものであり、重要な施策だと感じる。一方で、若者の移住や定住という所まで踏み込むと、都会にあるようなチェーン店やショップも誘導区域内に誘致したり、誘導区域内の景観づくりにも取り組んでみてもいいかもしれない。


ちなみに、YKK APに関しては国内外に多数の事業所を持つ企業である為、まとまった数の人事異動が起きて黒部市の転入転出が発生している可能性も考慮すべきだろう。


・富山県高岡市


市の統計資料より筆者作成
https://pop-obay.sakura.ne.jp/figures/top/top_16202.html  より

富山県第二の都市である高岡も人口の流出が顕著だ。

今回は偶然にも高岡なべ祭りの期間に街を訪問することになり、多くの人が街を行き交う様子を見ることになった。しかしそれでも、普段の街の様子がどのようなものかは歩いていて何となく感じ取ることが出来た。


祭りの出店が並ぶ高岡駅から北側に歩く。

駅北側は商店街が広がり、その商店街に沿って路面電車万葉線が通る街の中心部である。だが先述の魚津市街と同じく、商店街全体が時代に取り残されて「刷新」が上手くいっていないように感じた。

高岡駅前のロータリー
高岡駅から少し歩いた場所
反対側の通りは祭りの出店で賑わっていたが、
こちらはシャッター街
末広町の様子
全体的に雰囲気は古びており、お世辞にも
若者ウケするとは言い難い感じ
末広町商店街の一角
祭りの日だったので人通りが見られたが、
店は閉まっている場所が多く
普段は閑散としていることが伺える


祭りを楽しみつつも、駅よりさらに北の広小路地区へ行ってみる。広小路も高岡市役所等が建つ高岡市の中心地である。

電停から市役所方面を中心に一通り歩いてみたのだが、やはりこちらでも全体的に街並みが古びていて、あまり活気が若々しさを感じない。この地域はオフィスビルらしきものが多かったので繁華街ではないのかもしれないが、それを加味しても中々「若い」という要素を探すのには無理があった。


高岡市役所前にて撮影
市役所の前が空きテナントで活気が全くないのは厳しい
広小路の交差点 向かいに建つビルは商工ビル


広小路からは高岡駅へ戻り駅の南側ヘ。

駅南側は商店街等の商業施設はなく、すぐに郊外といった雰囲気を醸し出す。真新しい施設は駅舎くらいしかなかった。

高岡駅南口
駅舎は橋上化で真新しい雰囲気になっている
高岡駅南口の光景


そこからバスに乗って新高岡駅に向かう。

新高岡駅開業に合わせ周辺の大規模な開発が行われたこともあってか、高岡市で随一の近代的な雰囲気。車の行き来も多く、この区画に関しては活気を感じ取ることができた。

新高岡駅
イオンモール高岡

とは言え、現状では新興住宅地や行政施設の類いがあまりなく、周辺は「郊外」のままという感じである。


高岡市は人口が減っているにも拘らず人口集中地区DIDが広がっており、人の集まる場所が分散した状況になっている。実際地図で確認しても市の北部の国道沿いや新高岡駅周辺といった郊外に商業施設が分散しているのを確認できた。これが中心市街地の賑わいがなくなっている一因である事は間違いないだろう。

https://www.city.takaoka.toyama.jp/material/files/group/41/sstoshimp_0-2.pdf  より
https://www.city.takaoka.toyama.jp/material/files/group/41/sstoshimp_0-2.pdf  より
高岡市は産業が低迷し、中心市街地も地価が下落している


自治体でも人口減少と中心部の空洞化は問題視されており、様々な対策が検討されているようだが…

都市計画の資料を一通り見て思ったのは、全体的に内容が抽象的でまとまりがない。高岡市を最終的にどういう街にしていきたいのか、その軸となるようなものが無いと感じてしまった。

https://www.city.takaoka.toyama.jp/material/files/group/41/sstoshimp_2-3.pdf  より
長々と書いてあるが読みにくい、内容が抽象的というのが率直な感想


産業にしろ観光にしろ、まず都市として「高岡市は○○の街」という軸を見出して、それを強化する形で街づくりをしていかなければ街の活性化は成しえないのではないだろうか。


・全体的な感想


・古い建物が多く景観があまりよくない

3つの都市とも真新しい家やビル、綺麗に整備された通りがあまり見られず、街が昭和の時代のまま取り残されていると感じた。街自体に活気がないのに加えて景観も新しさがない事は、街の侘しさを増長させて若い人からの印象を悪くしているのではなかろうか。

北陸は冬場を中心に天気があまり良くなく、それによって生活の満足度が低下する事が人口流出の一因であるという説も存在する。確かに現地にいた時も雪の影響で寒さと昼間でも薄暗い環境になっていた日があり、正直気が滅入ってしまいそうな時があった。

天気の悪さに加えて活気がない、景観も古いとなれば、「脱出」したいと考える若い人が出てくるのは不思議ではない。(恐らくだが深刻な人口流出が続く東北も似たような傾向ではないだろうか?)

・娯楽施設が少ない、あっても郊外にしかない

北陸に限った話ではないが、自動車依存率の高さから駅や中心部といった本来人が集まるべき場所よりも郊外の道路沿いに賑わいを集める施設が散らばっている。駅直結の商業施設を作り賑わいを創出している都心や他の都市と比べると、賑わいを欠いた散漫な街という印象を受けた。特に高岡市は都市計画にも問題点として記載されているだけあって、その印象を強く受けた。

街を実際に歩いていても中心駅周辺に若者が集まれそうなファミレスやファストフード、ゲームセンター等の娯楽施設は少なく、郊外の道路沿いに所在する事例が多かった。またそれらの施設も特定区画に凝縮されているような立地ではなく、街の一角にポツンと店が置かれているだけというパターンも珍しくなかった。地元の事情を反映した結果なのかもしれないが、車以外でのアクセスは不便という印象が拭えない。

そして、郊外に商業施設が散らばっている事は車の免許を持たない学生から見て街の印象を悪くしているのではないか。勿論学生でも自転車やバスを使えば郊外の商業施設にアクセスすることは出来る。だが、これら3市は雪国であり、冬場に遠距離の移動をする事は困難を伴う。

東京等の大都市であれば免許がなくても天気が悪くても公共交通で遊ぶ場所にすぐアクセスできる。故に、この3市を始めとした若者が流出する都市は、若い人視点でのアクセス性の確保が上手くできていないのでは?と感じる。

(また、車を持ちたがらない若者が増えている事を考えると、車がないと移動が出来ないというのがマイナスに捉えられている可能性もある)


・新しさと賑わいを用意するべき

恐らく若い人達が重視しているのは体験なのだろう。例えば買い物だと「地方でも配送を使えば自由に物が買えるので生活には困らない!」という言論を時たま見かけるが、モノを買うだけでなく「オシャレで賑わっている環境、店でモノを買う」という体験の部分まで重視している人が多いのではなかろうか。そしてそれは、女性の方が重視する傾向が強いと考えられる。(女性向けマーケティング本で実際にそのような解説あり)

オシャレな場所で買い物をするという体験は若い人にとって刺激足りうるものであり、東京にはそれが多く満ち溢れているからこそ、東京を目指す若者は増えるのである。(一方、新しい刺激が常に手に入る感覚は一人でも気楽に生きられる感覚にも繋がり、都心ほど少子化が進む一因にもなる)

同じ施設、サービスでも周りの環境や景観によって受ける印象は全く異なる。同じマクドナルドでも高齢者しか使わないショッピングセンターのマックと若い人でごった返す都心一等地にあるマックでは、利用した時の印象が全く違うし、若い人がどちらを使いたいかと聞いたら都心のマックになる。

これは例えばの話だが、魚津駅や黒部駅を自治体がお金を出して近代的でオシャレな駅ビルに建て替え、2〜3階にファミレスやカフェをテナントとして入れるような事をすれば、若者の生活満足度は大分変わってくるのではなかろうか。駅など若者の集まりやすい場所を再整備し賑わいや充実した体験を提供すれば、街での暮らしに前向きになる若者は増えていくだろう。


東京駅丸ノ内口から南に歩いたところ
東雲駅から見たタワーマンション群

若者には上記のような景色が比較対象とされている事を地方の自治体は意識しなければならない。そして肩を並べる事は困難でも、その要素を取り入れた街づくりをしていくべきである。

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