人口流出は北陸新幹線のせい? 検証してみた
地震による復興の是非が議論されている北陸地方では少し前から取りざたされている問題がある。それが若者、特に若い女性の人口流出である。富山県ではニュースの特集としても組まれる程で、自治体の持続性を確保する上で重要な課題と認識されている。
最新の調査を見ても若者の流出は続いており、全く楽観できる状況ではないだろう。
この現象について一部界隈で見かけた意見があった。それはー
北陸新幹線が開業して容易に首都圏に出れるようになったから若者が流出した。新幹線のせいで東京に若者が吸われた。
というものだ。
確かに北陸新幹線開業後、北陸地方の人の流動は関西から関東に向かい始めている。以前からストロー効果という形で、新幹線が開業すると人も物も大都市に吸われてしまうとする言説は存在していたので、北陸でも同様のことが懸念されるのは当然だろう。
しかし、本当に新幹線だけが人口流出の原因なのか?北陸全域から人が流出しているのか?また、女性ばかりが流出しているのか?
どうしても気になってしまった筆者は各自治体の社会動態について統計を調べてみる事にした。すると、「新幹線のせいで人が流出した」とは一概に語れるものではない実態が見えてきた。
・調査方法
平成27年の北陸新幹線金沢延伸で富山県、石川県には4つの新幹線駅が誕生した。それそれの駅周辺に存在する都市について、自治体から公表されている統計を基に新幹線開業前後の人口動態を調査、グラフを作成した。調査は新幹線開業の3年前、外国人も住民基本台帳に登録されるようになった平成24年以降で行った。(自治体名の下に付記したリンクが、調査に用いた自治体公式サイトのページとなる)
また、国内の社会動態について下記のサイトよりデータを引用して、(国内動態)という項目で各世代、性別、国籍ごとの検証も行った。
・黒部宇奈月温泉駅
黒部宇奈月温泉駅は特急列車の停車していた魚津駅、黒部駅の役割を引き継ぐ駅として、また宇奈月温泉へのアクセスの玄関口として建設された。
沿線の魚津市、黒部市、また駅から西側に位置する滑川市の新幹線開業前と開業後の人口動態を見てみる。
・魚津市
社会動態の増減を見ると、新幹線が開業した平成27年以前から100人前後の流出超過である。開業後は平成29年が辛うじて流入超過だが、令和に入ってからは転出のペースが拡大し、令和2年は260人の転出超過となった。
(国内動態)
魚津市は女性の方が転出超過傾向だが、男性でも20〜24歳の流出が大きい、逆に男性の25〜29歳は転入超過傾向である。進学や就職によって街を出て行く若者が多い一方で、仕事の都合で街へ入ってくる人もいると考えられる。また、新幹線開業によって社会動態が大きく変わったという事は確認できなかった。
・黒部市
平成27年からの3年間は転入超過。平成30年以降は転出超過であるが、それでも毎年100人未満であり魚津市と比べると流出の度合いは小さい。人口規模では魚津と黒部は同規模の街だが、対象的な結果である。
(国内動態)
新幹線開業直後を除いて転出超過の傾向がある事を考えると、黒部市は新幹線によって人の動きに影響が出ている可能性を考えるべきだろう。一方で、若者であっても男性の方が転出傾向が強いことが特徴である。黒部市と言えばYKKの本拠地が置かれている場所として有名だが、YKK含め市内事業所での異動や転職が動態に影響しているのかもしれない。
・滑川市
平成28年以降、転出超過から転入超過に変わっており、しかも転入の割合が少しずつ増えている。
(国内動態)
転入する世代を見ると滑川市は子育て世帯の集まるベッドタウンとしての需要が大きいことが分かる。また、新幹線開業によって転入超過に転じたことも加味すると、他県もしくは近隣地域から子育て世帯が入ってきていると考えられる。一方、進学、就職に合わせて若い女性が流出傾向にあるのも事実である。転出先が県内、県外かは不明だが、新幹線の影響で首都圏に吸われている可能性は考えた方がいいかもしれない。
・富山駅
県庁所在地である富山市の中心駅、富山駅にも新幹線駅が併設され、在来線、路面電車も一体となった大規模な再開発が行われた。また、富山城周辺の市街地も再開発が行われ、本格的なコンパクトシティの形成がなされている。駅周辺に位置する富山市と射水市の人口動態を見てみよう。
・富山市
新幹線開業以前は転入と転出が拮抗する形となっていたが、新幹線開業後はむしろ転入超過の傾向が拡大する結果となっている。直近で転出超過だったのは令和3年だけであり、翌年では転入者数が回復している。
(国内動態)
全体の動態と国内での動態の乖離を見ると、国外からの転入が多いと考えられる。実際に富山市の令和4年度統計書に掲載されていた転入、転出先の内訳は以下の通りだった。
国外、つまりおおよそは外国人の転入が年に2200人ほどあり、国外へ転出した人を差し引くと1400人近い転入超過となっている。市全体で転出超過であった令和3年は国外からの転入が大きく減っており、富山市の社会動態は外国人に左右されやすいことが分かる。
なお、国内の流入に目を向けてみると東京都市圏との結びつきが強くなっていることがわかり、中京や関西とは桁違いである。令和4年の東京、埼玉、神奈川、千葉各県の転入と転出の合計差を見ると、500人超の転出超過となった。首都圏へは人が流出しがちであることは事実だろう。
富山市は外国人や日本人女性の国内他地域への流出が深刻であり、今後の街づくりにおいてこの層を呼び込むこと、つなぎとめる事が求められる。富山駅近辺を中心に再開発が行われ景観としては綺麗になったが、就職等において若者を呼び込むことにまだ課題が多いのかもしれない。一方で首都圏から流入してくる人も決して少ない訳ではなく、年に2000人弱は人がやって来ている。少なからず移住の需要はあるという事なので、この需要を如何に拡大できるかが鍵になる。
また、令和5年で国内の転出傾向が大きく出たが、他の年で大きく転出超過となった年がないため、新幹線の影響がどこまであるかは一考の余地があるだろう。
・射水市
社会動態としてはほぼ横ばいで、令和4年には238人の転入超過とある。
(国内動態)
富山市と同じく射水市も外国人の流入によって社会動態が維持されている側面が強い。これは射水市が富山県内でも外国人の居住比率が特に高い街である事からも分かる。
ただし、国内間でみても外国人の転入が多いことは特徴的である。また若年世代が流出傾向にあるが、動態の推移をみる限り新幹線開業の影響を受けてこの様になったとは言えない。
・新高岡駅
新幹線開業前、全ての特急列車が停車していた高岡駅の役割を引き継ぐ形で開業した新高岡駅。駅前にはイオンモールも完成する等、インフラの結節点としての整備も行われている。高岡市の他に周辺にある砺波市、氷見市、小矢部市の統計を調べてみた。
・高岡市
平成24年の数値だけ突出した値が出ているが、おそらく在住していた外国人が住民基本台帳法改正の影響ですべて転入扱いになっているものと思われる。平成25年以降でグラフを作ると以下のとおりである。
平成27年以前から300人程度の流出超過であったが新幹線開業後流入する人口は増え、平成28年には300人近くの転入超過である。
しかし、平成30年以降転出超過の傾向が急速に拡大し、令和元年から令和3年まで毎年400人前後の転出超過である。市の人口規模を考えると、富山県の自治体でも特に転出の傾向が大きいのではなかろうか。尚、令和4年には転入数が急激に回復し転入転出が拮抗している。
(国内動態)
高岡市は現状日本人の若者が多く流出していると言わざるを得ず、特に400人超の転出超過となった令和2年は若者が人口流出の大半を占めている事が、3枚目の日本人社会動態のグラフからも読み取れる。また、女性の20〜24歳の転出超過が顕著である事から、就職に合わせて街を出る女性が多い事が伺える。そうした若者の流出を外国人の若者で補っているのが現状だ。
一方で、新幹線開業以前から比較的大きい転出超過が起きていた事を考えると、高岡市は街づくりそのものが上手くいってないのでは?と感じる。実際、筆者が街を訪問する機会があったのだが、人口の割に街に賑わいがないと感じる所が多々あった。
高岡市は今後若者を如何に呼び込むか、繋ぎとめるかが街の施策として特に重要になるだろう。
因みに、令和4年統計書による市町村別の転入、転出の内訳は以下の通り。
令和3年と比べて令和4年では県外からの転入、転出がともに増えているが、転入者の伸びが大きい。また、県内だけで見ると若干ではあるが、転入者の方が多いという結果になった。
・砺波市
砺波市は公式の統計に転入、転出数の内訳がなく社会動態の増減のみの記載であったため、増減についてのみグラフを作成した。
砺波市は社会増減に関してほぼ横ばい、転入超過と転出超過を繰り返している状態であり、自然動態に比べると人口に与える影響は小さいと見れる。
(国内動態)
砺波市は人口が同規模の魚津や黒部と比べると転出の度合いが小さい。子育て世帯が転入傾向にある事が、功を奏していると言える。イオンモールをはじめ砺波は郊外に新しい商業施設が集中している街なのだが、こうしたインフラの充実が影響しているかもしれない。また、砺波では新幹線の開業が動態に大きな影響を及ぼしている所は確認できなかった。
・氷見市
氷見市は新幹線が出来るずっと前より転出超過が続いており、新幹線開業で大きな変化が起きた形跡がない。毎年300人前後の転出超過は、非常に深刻と言えよう。
(国内動態)
氷見市といえば漁業の街としてられるが、現状それが若い人を定住させる産業として成り立っていない事を物語っている。
また、氷見市は自然動態もかなり深刻である。現地で産まれる子供や定住する若者を少しでも増やす意味で、早急に人口流出の問題に取り組んだ方が良いのではと思ってしまう。復興を機に子育て世帯向けの街づくりをやってみてはいかがだろうか。
・小矢部市
小矢部市も新幹線開業以前より流出超過である。開業前後で社会動態に大きな変化が起きているとは言えない。
(国内動態)
小矢部市は射水市同様に他地域より多くの外国人が転入し、日本人の転出が続く状況となっている。市の総人口がさほど多くない事を考えると、流動が少人数でも大きな影響を及ぼす可能性がある。将来的に、小矢部市は外国人の居住比率の高い街になるかもしれない。
尚市の統計による地域ごとの転入、転出の内訳は以下の通り。
関東への移動人数が多いが、新幹線開業後にその流れが顕著になった訳でもなく、小刻みに増えたり減ったりを繰り返している。
・金沢駅
今も昔も北陸の中心であり、新幹線開業後は観光を中心に活況に沸く金沢市。金沢駅は令和6年3月までは新幹線の終着であり、敦賀延伸後も重要な拠点となる。金沢市と周辺の自治体である野々市市、白山市、小松市、かほく市、および能登半島の主要都市である羽咋市、七尾市について人口動態を見てみる。
・金沢市
平成29年までは転入超過であり、特に平成26年から27年の新幹線が開業した前後では1000人を超える転入超過である。しかし平成30年以降は一転して転出超過となっており、その人数も少しずつ拡大傾向となっている。
(国内動態)
金沢市は新幹線開業によって社会動態が変化したことがはっきりと現れており、新幹線の大きな影響を受けている事がわかる。
日本人の15〜19歳が転入超過で20代で転出超過の傾向が見られる事から、大学進学によって金沢市に住むも、就職を機に他地域へ流出する現象が起きていると考えられる。ただし、女性よりも男性の方でそれが顕著である事が他の都市と異なる。
金沢市の統計による男女別の増減数は以下の通り。
女性が県内、県外共に転入転出の人数が拮抗しているのに対し、男性は県内、県外共に転出の傾向が強い。そして過去の統計を見ても、新幹線開業前後の年を除いて男性の方が転出の傾向が強い。ここでは年齢層が明示されていないが、女性の方が転出超過であった富山県とは対照的な結果である。
都道府県、県内市町村ごとの転入、転出先の統計は以下の通り。
県内自治体ごとでは金沢市近辺の津幡町や白山市への流出が多い。ベッドタウン需要だろうか。
都道府県ごとではやはり首都圏に対し全体的に転出超過の傾向があることが分かる。ただし、ここでも転出超過の傾向は男性の方が強く、若い女性が流出している!という言説が必ずしも当てはまる訳では無さそうである。
金沢市は新幹線開業によって観光客が激増したことで知られているが、一方で地元民にとっては住みずらい街になってしまっているのかもしれない。
・野々市市
令和4年に転出超過になるまでは、新幹線開業後転入超過の傾向が続いている事が分かる。今後再び転出超過になるかで、街として取り組むべき施策が変わってくるだろう。
(国内動態)
野々市市は金沢工業大学、石川県立大学の所在する街であり、多くの男性が進学に合わせて街に流入している事が上の統計や人口ピラミッドから読み取れる。一方で、大学卒業後に現地に残る男性はそう多くなく、他地域へ転出する構図になっていることが分かる。
また、野々市市は多くの女性が就職のタイミングで転出していくという他地域に見られる現象が起きていない事が特筆される。野々市市に若年女性が全くいない訳ではないので現地に留まる女性が多いと推測できるが、何が要因であるかは気になる。
市の統計による都道府県、県内別の転入転出は以下の通り。
最新の統計ではやはり首都圏への転出が目立つが、愛知や大阪への転出も一定数存在している。また、県内では白山市への転出が突出しており、市全体で転出超過になった大きな要因と言えよう。
・白山市
令和3年に大きな落ち込みを見せた以外は、新幹線開業後一貫して転入超過である。最新の調査でも300人近い転入超過であり、驚異的である。
(国内動態)
白山市も滑川市と同じくベッドタウンとしての需要が高く、子育て世帯が流入している街であることが伺える。一方、若者の進学や就職に合わせた他地域への転出も多く発生しているため、今後少子化が進んで子育て世帯が減ると街全体でも転出超過になってしまう懸念はあるだろう。就職先の確保など、若者を呼び止める施策を今後は打つべきではなかろうか。
市の統計による内訳は以下の通り。
県内、県外ごとの社会動態を見る限り、石川県内からの転入が非常に多くいることが分かる。県外に対しては近年転出超過であるが、令和4年では転出の傾向は縮小している。
都道府県、県内ごとの詳細の社会動態は以下の通り。
石川県、特に金沢市からの転入が多いこと、また、国外からの転入も一定数いることが分かる。県外ではやはり首都圏への流出傾向がみられる。また、男女間で転入、転出の数に大きな差はなかった。
実は筆者は仕事の都合で白山市に行ったことがあるのだが、郊外を中心に道路も建物も近代的に整備されており、街の印象がすこぶる良かった事を覚えている。こうした環境の良さが近隣地域から子育て世帯を呼び寄せているのかもしれない。
・小松市
https://www.city.komatsu.lg.jp/shiseijoho/tokeijoho/5/14727.html
新幹線開業直後は転入超過であり、令和元年以降再び転出超過となっている。北陸新幹線の延伸で小松駅にも新幹線駅が出来る予定だが、これが社会動態にどのような影響を及ぼすか注目である。
(国内動態)
小松市は小矢部市同様に外国人の転入が続いている事が特徴。一方で日本人は新幹線開業前より転出超過の傾向が続いている事が分かる。
地域ごとの転入、転出先は以下のとおり。
転入、転出共に関東と県内の流動が目立つ。県内では金沢市への転出が3割以上を占めており、小松市から金沢市へ、金沢市から白山市や首都圏へ人が動いている事が分かる。
近隣に金沢、白山といった娯楽や子育て等の面で優位性のある都市が存在する為、小松市は定住者を誘致するのに不利な状況と考えられる。新幹線開業後に近隣都市との差別化を図った街づくりを行えるかが、街の持続に関わってくるだろう。
・かほく市
白山市と同じく、新幹線開業以降転入超過が続いている。しかし、白山市が年度によって転入の度合いにばらつきがあるのに対し、かほく市は毎年200人程度の転入超過を維持しており、極めて安定した社会動態となっている。筆者が各自治体を調査した中でこのかほく市の数値が最も驚かされた。
(国内動態)
新幹線開業後に転入超過の傾向が強まっている事、転入する世代からベッドタウンとしての需要が大きい街である事、これらの点から滑川市や白山市と同様の性質を持つ街であることが分かる。
そして両市と同じく、若者が就職に合わせて他地域へ転出する傾向にある。特にかほく市の場合は、若い女性のみ転出傾向が強めである。女性向けの就職先を充実させる等、定住を促進する施策が必要だろう。
・羽咋市
新幹線開業前後に転入転出が拮抗した以外は、毎年100人前後転出超過である。ただし、後述の七尾市と比較すると転出の度合いはまだマシと言える状況である。
(国内動態)
羽咋市は人口が2万人(2020年時点)と今回調査した自治体では最小規模の自治体であるが、転出超過数では人口4万人クラスの都市とそう変わらない傾向である。人口流出の度合いで言えば他の都市よりも高い可能性がある。早急な対策が必要だろう。
羽咋市の統計では転入、転出の理由についての調査がなされていた。
進学や就職による転出が多い他、婚姻等の項目でも転出が目立つ。結婚したら街から出ていかれてしまうというのは、子育て世帯の現象にも繋がる為かなり痛手だ。
・七尾市
新幹線開業の影響も特になく、毎年300人から400人の流出超過である。氷見市と同じような形で、かなりのペースで人が流出していってる。
(国内動態)
10代から40代までの現役世代が幅広く転出超過となっており、就職に合わせた転出もかなり多いことが伺える。
市の統計における男女別の社会動態は以下の通り。
女性の方が転出超過の傾向が強く出ており、令和3年にはなんと女性だけで約300人の転出超過である。今回調査した都市で最も女性の流出が大きかったのが、新幹線と社会動態に関連のない七尾市であった。
七尾市は今後地震からの復興がなされていくと思われるが、その際に若い人向けの移住、定住推進策を本格的に行う必要があるだろう。
・分かったこと
新幹線沿線各自治体の社会動態について調べた結果、北陸の都市は以下の5つに分類出来る事が分かった。
新幹線開業によって社会動態がはっきり変化したと確認できる都市は、黒部と金沢の2市だけであり、多くの都市が新幹線に関係なく転出超過が続いていた。
・結論
・首都圏への流出が多いのは事実
どの都市も程度の差こそあれ、首都圏の一都三県への転出数が多い傾向だった。近隣の大都市圏である中部や関西とその差は歴然であり、他の地方のように北陸も首都圏に人が吸われているのはその通りであろう。
・若い女性は流出傾向にある
多くの都市で女性、特に20~24歳の女性で転出超過が大きく出る傾向にあり、就職のタイミングで他の都市や県外に若い女性が多く転出している事が分かった。唯一、女性の転出超過の傾向が見られなかったのは野々市市であった。どのような要因から転出超過が抑えられたかが不明だが、野々市市の特徴を抑えて他の都市にも反映できれば人口流出対策になるかもしれない。また、金沢市だけは男性の方が転出超過傾向が大きくなるという結果であった。
・新幹線開業と社会動態の関連がない自治体の方が多い
上記2つについては疑いようのない事実と確認できたが、問題はこれが新幹線開業によって引き起こされたものか?という事である。
「わかったこと」の項で挙げたように、北陸新幹線が開業した2015年以降ではっきりと転出超過に転じたのは黒部市と金沢市の2市のみ。そして多くの都市が、新幹線開業前から転出超過続き、または日本人の転出超過を外国人の転入で補っているのが実態だった。
故に新幹線が直接人口流出を招いているとは言えず、あくまで都市開発や雇用等、街づくりが上手くいっているかの方が社会動態に大きな影響を与えている可能性が高い。
むしろ、新幹線開業後に転入超過に転じた滑川市、白山市、かほく市のような自治体もある。これらの都市は子育て世帯の転入によって転入超過を達成しており、ベッドタウンとしての街づくりが上手くいったことが伺える。(ただしベッドタウンという性質からか、成長した子供が就職のタイミングで他地域へ転出する傾向が現れており、定住策やUターン策を今後は推進していくべきと考える)
尚、令和の時代に入ってから社会動態に大きな変化のあった自治体は、コロナ禍の影響を受けた可能性がある為、今後この流れが続くかは注意すべきだろう。
・人口減少要因としては自然動態(少子化)の影響の方が大きい
今回調査した自治体は、いずれもが人口減少の傾向にあった。だが統計表を見る限り社会動態よりも自然動態、つまり少子化の影響の方が大きいと言える事例が殆どであった。今後も少子化のトレンドは続くものとして、少子化対策によってそのペースを緩やかにしていくことが求められる。また、主に首都圏在住の人達を対象にした移住政策を積極的に打ち出した方が良いだろう。
・まとめ
引用した統計だけで全ての実態を捉えられている訳ではない。だが、今回調査した限りでは「北陸新幹線が出来たせいで若者、特に若い女性が北陸から東京に吸われた」という言説は、全く的外れではないが明らかな誇張が含まれていると言わざるを得なかった。
新幹線が来る事よりも元々の街づくりが上手くいっているかが人の流出に大きく影響する事を認識し、地震からの復興でもそこを意識した復興政策を考えていくべきである。
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