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オンライン授業でどこまで伝えられるか?:リアリティを持てるように議論を進める仕掛け作りの重要性|2023スプラウト壱岐商業高校②

3週間ぶりの投稿です。誰も読んでいないこのnote,みなさんはいかがお過ごしでしょうか?2023年度が始まって2ヶ月半が経過。時間が経つのが早過ぎて、鬱になりそうです(笑)

さて,前回は高大連携アントレ教育プログラム「スプラウト」の2023年度記念すべき第1回ということで,壱岐を訪問し,壱岐商業高校で授業してきた内容について記しました。

そして,そこではこんなことを課題として提示していました。

次回は6/20と3週間の時間がある。理念、戦略、計画がテーマ。現在の授業計画では高校生に馴染みのあるビジネスであるコンビニエンスストア業界3社を比較して、その理念や戦略を検証するというスプラウトでは定番になっている授業。そして、2コマ目はこれを踏まえた上でマルシェの目的やターゲットの選定を検討していく授業を予定している。特に2コマ目は抽象的な議論になりそうなこともあって、大学生のサポートが必要不可欠になる。十分にシミュレーションして授業に臨みましょう。

それから3週間。学生たちはそれぞれが抱えるプロジェクト、他校での授業準備、多クラス展開のためのゼミ内での調整もあるので、忙しくて仕方がありません。ごめんよ。

ただ、今年度から国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)を通じて多大な支援を頂くことになりました。それもあってこのプログラムに「スプラウト」と命名し,高校で先生が生徒に対して授業ができるカリキュラムの構築,教材の開発と授業方法を積み上げていくことを目標としています。

誰でも(ある程度理念を持って)アントレプレナーシップ教育を行うことができる仕組みづくりをするというのはイメージできるんだけど,それを実装するとなると結構大変(汗)。しかも、授業のパターンは1つだけでなく、新作も含めて3パターンを作っています。

そういう状況の中で今回の授業はどんな形になったのでしょうか。テーマは「経営理念、戦略と計画策定」。その記録を記していくことにしましょう。今回も長文ですが、最後までぜひご一読下さい。

前半:アントレプレナーシップを発揮して経営者はどのように事業を営むか?(理念→戦略→計画)

13:30授業スタート。担当する3年生Tくんは緊張していることがありありとわかる。

単に話すだけ、そこで聞いてようが聞いてまいが関係ないというスタンスであれば、一方的に話してしまえば良い。それでわかってくれるのだったら何も問題はない。

しかし、グループワーク中心で、知識を伝達したあとにそれを活用して高校生自身で何かを導き出す(あえて探究型授業と言おうか)授業形態を採っているため、「喋れば良い」というわけではない。ここらへんの匙加減を初めて授業する学生にわかるはずもないので、時間配分の相談があった時に暗黙的にポイントになる点を伝えていた。そこが果たして伝わっていたかどうか…。気になるところ。

「スプラウト」におけるアントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアスの定義

授業は順調に滑り出した。前回の復習としてのアントレプレナーシップコレクティブ・ジーニアスの説明は何ら問題なく進んでいく。

企業は何のためにあるのか?

そして、ここからが今日の重要論点。では、アントレプレナーシップを発揮した先にある企業活動はどのように進むのか。

ここで大事にしているのが経営理念の達成(実現)付加価値の最大化だ。

経営理念については言うまでもなく、近年注目されているMVV(ミッション、ビジョン、バリュー)経営だったり、パーパス経営といった価値観を重要視した、目的志向的な話だ。アントレプレナーは事業機会を探索し、そこで得た機会をもとに事業を構築するが、そこには単に金儲けをするという話だけでなく、なぜその事業を営むのか、それによってどんな社会を構築したいのかという価値観が反映されているのだと考えている。だから、まず経営理念の重要性を伝えなければならない。

なぜ付加価値を最大化するのか?

次に付加価値の最大化だ。ここが会計を専攻する当ゼミのカラーが出ていると思うところだが、わたしたちは企業活動の成果として付加価値がどれだけ創造されたかが測定されなければならないと考えている。それは企業の存続のためであり、仕入→生産→販売というプロセスを経て行われる企業活動によって価値が生まれ、分配されると考えていることによる。

当たり前のことを言っているのだが、新しい価値がある製品やサービスを生み出して人々の生活を豊かにすることだけを強調するのではなく、そこに価値を見出す顧客、それを生み出す企業内部の組織成員、資金を供給する株主や債権者、インフラを整える公共セクター、そして事業を創造する経営者(アントレプレナー)のいずれもがその恩恵を得られる社会でなければならないことを言っている。

それを金銭的価値で測定することへに非難もあるかもしれないが、企業経営がいかなるものかを知れば知るほど、そこに携われば携わるほど、ここで意味することが何かは理解できるはずだ。

コンビニできても壱岐に付加価値ってどれだけ残るんだろうか?

ここに強みを持つわたしたちの「スプラウト」だから、「コンビニあるよね?便利だよね?」じゃ終わらない。宮崎県日南市を拠点に大活躍中の田鹿さんが言うように、チェーン店があることは豊かさを意味しないし、その地域にある利害関係者誰もがハッピーになる座組ではない。

一方で、企業がその土地に進出するには意味がある。経済的な意味だけでなく、(だいぶ解釈的だが)理念の体現でもあるだろうと。

戦略はいつもの競争戦略をベースにお話する

そして、その理念を実現するためにどんなビジネスを行うかという意味で戦略を捉えて、ここではポーターの競争戦略論をもとに差別化戦略とコストリーダーシップ戦略について説明する。

理念→戦略→計画

さらには、その戦略を具体的に実行するための目標として計画があることを説明する。行動計画と数値計画については第4回に改めて説明するので、ここではさらっと触れるだけだが、こうした関係性をあらかじめ説明しておくことで、授業内容への理解が深まり、自分たちのマルシェをどうするかに役立つはず…と考えている。

こうしてゼミ生にとっては当たり前の思考回路を高校生に伝えていく。目の前にあるビジネスは創業者の想いの発露であり、多くの人に知らしめるためにたくさんの努力をしているのだということを。

その一方で、高校生がジブンゴトとして捉えてマルシェができるのか。ここの仕込みが今日の授業の大事なポイント。

後半:ここまでの学びをもとに「マルシェ」はどういう想いでやるの?

というところまでで50分。前半終了。ここから後半はグループワーク中心の授業に入っていく。知識のインプットから知識を活用したワークショップへ。果たしてどうなることやら。

壱岐の事業機会はどこにあるか?:「壱州人辞典」の活用

壱岐商業高校では今年も昨年同様に壱岐北部の勝本浦でマルシェの開催を予定している。そのため、今回のグループワークのメインテーマは「わたしたちはなぜ壱岐で、勝本浦でマルシェをするのか?」を問うことにある。

壱岐でマルシェを行う意義をみんなで考えよう!

が、高校生に壱岐でビジネスを行うことの意義がどこまで理解されているかが十分に伝わっていない可能性がある。そこで前回使う予定にしていた「壱州人辞典」から4人のアントレプレナーにご登場頂くことにした。

今回の事前課題レジュメより一部抜粋

この記事が良いのは、高校生から見れば知っているような、知らないようなビジネスが壱岐にもあって、それは壱岐だからこそできるビジネスに挑む真剣な大人たちの言葉が記されていること(ぜひみなさんにもお読み頂きたい!)。きっと高校生は読んでいるはず…。

しかし、前回積み残した私の責任でもあるが、授業担当のTくんはグループワークの時間確保もあって内容をまとめるだけまとめてスルーしてしまう。

実はここが今回の授業で見えた工夫するべきポイントの1つだった。ジブンゴトに引き付けて考えるためのロールモデルとして…。

高校生はどんな想いを掲げるの?:理念の作成

続いて今回のメインテーマである理念の作成へ。

経営理念はこう作る!

先に述べたように、企業にMVVや経営理念があるように、今回マルシェを行うための目的を設定する必要があると授業では伝えている。事前動画ではコンビニ3社の経営理念とその理念がどのように事業活動に反映されているのかを調べてきてくれた高校生。果たしてマルシェの理念を限られた時間で作れるか…。

授業担当者としてそこに時間を割きたいのもわかるし、ここまでの内容で高校生の議論が深まることを期待したいのもわかる。が、何度もワークショップを仕掛けてきた立場からすると、いきなりこのお題は厳しかろうということは見えていた。

通常学校生活において何かイベントをするのであれば、目的は議論されない。そこでいつどのタイミングで何をするかを考えさえすれば良い。マルシェであれば、出し物を誰にお願いして、いつそれをしてもらって、どういう条件で出店してもらって、協力さえ得られればOK。しかし、このマルシェはそうはいかない。もちろん行政や地域の協力あってのマルシェだが、主導権は生徒にあり、その生徒が何のためにマルシェをやるのかに大人が同意して手伝うという形にしている。

だからと言って、高校生がそれを飲み込んで、コンビニの理念をかじったくらいでは抽象的な概念なんか出てこない。時間をかけても個人ワークになるだけで、ワークショップにならない。議論が始まらない。考えるだけ考えて、目の前の紙を見て、何かを言葉にしようとしてくれれば良い。

が、大学生からすればオンラインだから声がけも難しいし、どこまでできているかもわからないし、何を話しているかすらもわからない。挙げ句の果てにはチームごとの発表もすっ飛ばさざるを得なくなる。高校生の理解度合いも確認できずに。

理念が決まってないのに戦略出てこない

その上に理念の次は戦略だからと、次は戦略を考えましょうとやってしまう。これでは授業の大前提を自分たちで壊してしまうことを意味する。

理念があるから戦略がある。戦略があるから計画がある。それぞれの活動には意味がある。

そう言ってたじゃないか…。

講義資料は本当によくできている。

こう書くと何もかもがプロット通りに進まなかったように読めるのだが、必ずしもそういうわけでもない。昨年からこのプログラムにご支援頂いているMさんにもグループワークに入って頂いているが、こんな整理もしてくださった。

<理念ワークで出てきた声>
「壱岐には集まれる場がない」
→集まれる場がない結果、どんな課題に繋がっている?
→集まって、どんな時間を過ごしたい?ただ集まったら良い?
→それってどれくらい思っている人いそう?高校生以外にも聞いてみると、当日来る人増えるんじゃない?

理念の話をする前にビジネスは社会課題の解決だという話をしているのだけれども、「集まれる場所がない」は高校生から常に出てくる課題。昨年も島外から人を呼び込んで集める場所としてゲストハウス案が出ていたが、さすがにそれをこのプロジェクトではやりきれない。そこで昨年はカフェとパン屋のコラボ企画を行った。

が、このメモを見ている限りでは違う切り口も出そうで、昨年に続いて2年目だからこそ先例を活かしてどう違いを出すかを考えられる。今日は議論が固まる前段階で止まってしまったけれども、次回までにしっかり議論してくれると企画として前進しそうだ。

結局、理念と戦略は宿題に。

果たしてどこまで高校生が学んだことをもとに考えられるか。「やることを決める」取り組みではなく、マルシェというイベントを通じて事業機会を見出し、課題解決を行い、自分たちが掲げた理念を体現する場所を創る取り組みだということが見えてくると良いのだが…。次回に期待。

ふりかえり

そうこうして終わった壱岐商業高校でのスプラウト第2回。授業の進め方、目標としていた達成度合いからすると未達の部分もあったが、初めての授業、しかもオンラインという条件の中でできることはしっかりとやってくれた。それも授業担当者のTくんの真面目さ、準備に時間をかけてきた成果の表れでもあるだろう。お疲れさまでした。

先にも記したように、今年はこの「スプラウト」を行うための教材作成に力を入れている。反転学習のための動画、資料作成、経営学や会計学の理論を伝えるための(具体例で伝えたいけど著作権を理由にできない)スライドや資料作りに特に力を入れている。そして、ここで授業した課題を別の高校での授業に活かせるように、できるだけ手を入れずに同じ授業をできるようにとしている。実際、授業をしてみると、地域の実情に合わせてどうしてもカスタマイズする必要が出てくることもある。学生には相当な負担をかけている中でよくやってくれている。

だからと言って、授業の進め方は改善しなければいけないし、オンライン授業と対面授業におけるノウハウを蓄積しながら、状況に合わせた良質な授業を作っていくことが求められる。自ら喋るだけでなく、誰でも授業ができる教材に仕上げていく過程は学びが多かろう。課題山積は上等。ここから先も前向きに進んでいきましょう。

今日は本当にお疲れさまでした。第3回を楽しみにしています。

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