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チェーン店が増えると地域経済はどれだけ衰退するのか

地方都市にスターバックスコーヒーができると地元の人達が行列をつくり、お客さんがインタビューに答えるというニュースを見た人もいるのではないでしょうか。チェーン店ができると人通りが増えて賑わいが生まれ、それが地域の活性化につながると主張する声があります。またチェーン店で働く人も増え雇用創出の効果もある、という意見もあります。しかし実際のところは賑わいが生まれるとか雇用創出など分かりやすい世界とは全く違う地域の経済の実情があります。

そこでコンビニ、ファミレス、ユニクロ、スーパーマーケット、スターバックスそれぞれのチェーン店が地域経済にどれだけ貢献しているのか計算してみました。また地元資本のスーパーとカフェの場合を比較参考として併記しています。

『図解!業界地図2016年版』を参考に筆者がローカライズ

コンビニエンスストア(フランチャイズ)の1日のお金の動き

チェーン店の代表といえばコンビニエンスストア。そしてほとんどがフランチャイズとなっています。コンビニは各社で平均売上は変わりますが、セブンイレブンだと1日あたり平均で60万円くらい売上があります。仕入れは40万円程度で売上総利益(粗利)は20万円。人件費は4万円、家賃・減価償却は1万円、その他(光熱費等)が2万円、フランチャイズフィーが11万円となります。ここまでで1日あたり2万円の利益がお店に残ります。(フランチャイズフィー高い!!)

さて無事に1日あたり2万円の利益が残って良かったですね、というのはコンビニオーナー視点です。今回は地域経済においてどれだけのインパクトがあるかを算出します。仮に1日60万円の顧客が全員地元の人とした場合、1日で地元の60万円がコンビニに吸い込まれます。そして地域内で循環するのは家賃・減価償却の1万円と人件費(アルバイト)の4万円と利益の2万円を合計した7万円となります。つまり地域に存在した60万円は1日で53万円が地域外に流れ出てしまって7万円しか残りません。お金の地域循環率は12%となります。ちなみにこれは土地は地元の人が所有し、店舗改修は地元の工務店が行ったケースを想定しています。実際は工務店は地域外からやってくるでしょうし地主も域外の人ということも十分にあります。したがって12%というのは最大値になります。

ファミレス(フランチャイズ)の1日のお金の動き

ファミレスは直営とフランチャイズの両方がありますが、今回はフランチャイズのケースを見てみます。ファミレスの1日の売上は地方都市だと1日20万円くらいとなっています。そこから仕入れが8万円で売上総利益(粗利)は12万円。そこから人件費(アルバイト)が4万円、家賃・減価償却が2万円、その他(光熱費等)が2万円、フランチャイズフィーが2万円(売上の10%前後)となっており、1日あたりの営業利益はコンビニと同じく2万円程度です。ここから人件費や家賃、利益など地元に還元されるお金は8万円程度となっており、お金の地域循環率は40%となります。仕入れ原価が安く人件費割合が高い分、コンビニよりも地元にお金が残りやすい構造になっています。

ユニクロ(直営)の1日のお金の動き

ファストファッション業界の雄ユニクロは1日の売上150万円、仕入れは90万円(在庫の破棄も含む)なので1日の売上総利益(粗利)は60万円。人件費は10万円、家賃・減価償却は8万円、その他(光熱費等)は3万円。ユニクロはフランチャイズは縮小していく方針のようで現在はほとんどが直営になっていますので、フランチャイズフィーは発生しません。そうすると営業利益は39万円とかなり高収益となります。フランチャイズであればフィーを払った残りが地元に残るのですが、直営の場合は利益はすべて本社に持っていかれます。よってユニクロは1日150万円が消費されても人件費10万円と家賃・減価償却の8万円の18万円しか地元に残りません。お金の地域循環率は12%とコンビニ並みに地域経済は流出していきます。

スーパーマーケットの1日のお金の動き

チェーン系のスーパーマーケットの場合は1日600万円ほどの売上があります。仕入れは475万円で売上総利益(粗利)は125万円。人件費20万円、家賃・減価償却15万円、その他(光熱費、チラシ等の広告宣伝費)70万円、フランチャイズフィー8万円で営業利益は12万円。チェーン系のスーパーは仕入れを本部で一括管理しているところも多く、そうなると基本的に地元の食材は仕入れられません。もしすべて地元以外から仕入れているとお金の地域循環率は8%と金額の絶対額を考えても優秀な都会への送金装置となります。これに対して地元資本のスーパーの場合はお金の地域循環率はかなり上がります。もし仮に20%を地元から仕入れるだけでお金の地域循環率は25%まで上がり、半分を地元から仕入れれば49%となります。スーパーマーケットは売り上げが大きく、地元の産品を仕入れられる余地が大きいので地元資本かどうかは地域経済に大きな影響があるのです。

スターバックスコーヒーの1日のお金の動き

地方にできると行列ができると話題になるスターバックスコーヒーですが、1日の売上は30万円、原材料は8万円で売上総利益(粗利)は22万円。そこから人件費5万円、家賃・減価償却費3万円、その他7万円がかかって、営業利益は5万円。スターバックスコーヒーもユニクロ同様直営が原則なのでフランチャイズフィーは発生せず営業利益はまるまる本社に送られます。お金の地域循環率は27%となります。ファミレス同様飲食店は原価が安く人件費割合が高くなるので地域に残るお金は比較的多くなりがりです。ちなみに地元の人が長年やってる純喫茶の場合は57%程度が地域に残ります。
※仕入れの50%が地元からの想定

地方から都市部への経済流出機能となるチェーン店

以上のように都会のチェーン店が地方に進出すると一時的に行列が出来たり、賑わいが生まれたりするのでまちに活気が生まれたような気がします。しかしその裏では確実に地域のお金は都市部に吸い取られ、地域経済は縮小に向かいます。ジェイコブスが提唱した輸入置換にも通じますが、域外の経済圏から輸入していたものを地元で供給できるようにすることが経済発展のセオリーです。

また、雇用創出の効果があると言われることがありますが、チェーン店で生まれる雇用はほとんどがパート・アルバイトです。ただでさえ人手不足の時代に最低賃金に毛が生えた程度の雇用が生まれることに対した意味はありません。地元に牛丼チェーン店のアルバイト求人が出たのでUIターンしよう!と思う人はいません。人口動態に影響しない求人には地域経済のマクロ視点からは無意味なのです。

新しくできたチェーン店に行列ができてコメントがもらえる様子は撮れ高がありますし、視聴者もツッコミを入れやすくコンテンツとして成立します。また大手チェーン店はCMスポンサーのケースもあります。よってチェーン店が地方にできて盛り上がってる様子はメディアでも報道しやすいのです。しかし実際の地域経済はまた違った動きをしているのです。ちなみに私が住む日南市には19のコンビニがありますが、コンビニだけで一年に25億円を域外に流出しています。他にもファミレス、牛丼チェーン、スーパーマーケットチェーン、ハンバーガーチェーン、回転寿司など多くのチェーン店があります。農業や観光、製造業が域外から外貨を獲得してきても地域に設置されたチェーン店がせっせと都市部に送金する構図になっています。それらの経済の動きを想像できると、また違った地域の経済事情が見えてくるでしょう。


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